データビジュアライゼーションの美 (TEDTalks)

David McCandless / 青木靖 訳
2010年7月

私たちは過剰な情報に苛まれているように感じています。でも簡単な解決法があるのかも。それはもっと目を使うことです。情報の可視化というのは、重要なパターンや関連を見えるようにし、情報にデザインを与えることで、意味が引き立ち、ストーリーが伝わり、重要な情報だけに集中できるようにします。そうできないなら単に小奇麗な見かけにすぎません。

例を見てみましょう。これは「ビリオンダラーグラム」です。この画像は、メディアの伝える何億ドルがどうのというニュースへの苛立ちから生まれました。そういう数字は文脈なしには意味がありません。パイプラインに5千憶ドル。戦争に2百億ドル。ピンときません。分かるための唯一の方法は、可視化と相対化です。それで私はたくさんのデータを様々な情報源から集め、額に応じて四角の大きさを変えて描いてみました。色はお金の用途を表しています。紫色は軍事、赤は寄付、緑は所得という具合です。すぐに気づくのは、数字に対して違った関係ができるということです。文字通り見えるようになります。さらに重要なのは、複数のニュースに分散していた数字の間にあるパターンや関連が見えるようになることです。

いくつか面白い部分を拾ってみましょう。この緑の箱はOPECの収入で、年に7,800億ドルです。この隅の小さなのは30億ドル、気候変動のための基金です。アメリカ人はものすごく気前がよく、年に3,000億ドル以上を慈善のために寄付しています。一方、主要工業国17カ国の国外援助の総額は1,200億ドルに過ぎません。それからイラク戦争は2003年には600億ドルかかると予測されていましたが、少しばかり膨らんだようです。イラク・アフガン戦争は累計で3兆ドルかかっています。この素敵な絵があるので、別な数字を追加もできます。何か新しい数字が出てきたとき、たとえば、アフリカの西欧への負債額は、この絵ではどれくらいになるのか? 見てみましょう。これです。2,270億ドルがアフリカの借金です。では最近あった金融危機は、この絵ではどうなるのか? 世界に対し どれだけ負担になったのでしょう? ドゥーシュ! これだけの額のお金にぴったりの効果音だと思います。11兆9,000億ドル。情報は可視化することによって、目で探究できる景観に変えることができるのです。情報の地図と言ってもいい。そして情報の中で迷子になったら、情報の地図は役に立つことでしょう。

違う景観をお見せしましょう。世界の恐怖の景観はどのようなものになるか想像してください。見てみましょう。このモグラ塚みたいなのは時系列で表した世界のメディアの狂乱です。(笑) 後ですぐご説明しますが、高い山はメディアを賑わした特定の恐怖の高まりを表しています。いくつか見てみましょう。このピンクは豚インフルエンザ。これは鳥インフルエンザ。茶色っぽいのがSARS。覚えてますか? それに2000年問題。ひどい災難でしたね。この小さな緑の山は小惑星の衝突です。(笑) 夏になると殺人蜂が話題になります。(笑)

これは メディアがその時々に伝えてきた恐怖なのです。ジャーナリストとして私が惹かれるのは、隠れたパターンを見つけ出すことです。このデータには面白い奇妙なパターンが隠れており、可視化によって明らかにできます。それをハイライトしてみましょう。この線は暴力的ビデオゲームへの恐れを表しています。ご覧のように奇妙な規則的パターンがあります。毎年2つの山があります。よく見ると毎年同じ月に現れているのが分かります。なぜなのでしょう? 11月はクリスマス向けの新作が出てくる時期で、その内容に対して懸念が現れます。でも4月はビデオゲームで特に意味のある月ではありません。なぜ4月なのでしょう? 実は1999年4月にコロンバイン高校銃乱射事件があり、それ以来メディアは毎年この時期に恐怖を呼び起こし、人々の心理に静かに浸透しているのです。回顧があり、何周年があり、裁判があり、模倣犯の乱射事件まであります。それが恐怖を引き起こすのです。パターンが違うところがあります。ここにギャップがあり、それが他のニュースすべてに影響しています。ここにギャップがあるのはなぜか? いつ始まっているかというと、2001年9月で、非常に大きな恐怖の対象がここで生じています。

私がデータジャーナリストとして1年ほど働いてきた中で、絶えず耳にした言葉があります。「データは新しい石油だ」。データはあまねく存在する資源で、それを形作ることで新たなイノベーションや洞察を得ることができ、身の回りにあって容易に掘り出すことができます。最近は、とくにメキシコ湾の近くに住んでいるなら、石油というのはあまり好ましいメタファではありません。少し変えてこう言いいましょう。「データは新しい土壌だ」と。私にはそれが豊かで創造的な媒体だと思えるからです。長年に渡り、私たちはネット上で膨大な量の情報とデータの種を蒔き、ネットワークと接続性で潤し、無報酬の人々や政府の力で耕してきました。メタファを少し広げすぎたかもしれませんが、しかしこれは本当に豊かな媒体なのです。そしてインフォグラフィックスやデータ可視化というのは、この情報という媒体に咲いた花のように感じられます。直接見ている分にはたくさんの数字やバラバラな事実にすぎませんが、ある種の仕方で弄び、取り組むことで、面白いものが現れ、異なったパターンが見出されます。

 

これを見てください。何のデータかお分かりになりますか? 年に2回大きな山があります。復活祭の時とクリスマスの2週間前です。毎週月曜に小さな山があり、夏の間は平らです。答えを聞いてみましょう。(聴衆: チョコレート) チョコレートですか。チョコレートなら食べたくなるかもしれません。他にありませんか? (聴衆: ショッピング) ショッピング。ショッピング療法は効くかもしれませんね。(聴衆: 病欠) 病欠。確かに休みたくもなるでしょう。見てみましょう。(「Facebookステータス更新に基づく破局のピーク」と表示される。笑と拍手)

この情報は、リー・バイロンと私が「破局」のFacebookステータス更新データを1万件集めたもので、このようなパターンが見つかりました。みんな春休みに関係を清算し、(笑) 月曜に不首尾な週末のことを打ち明け、夏の間は独り身でいます。そして最も低くなるのはもちろんクリスマスです。誰がそんなことするでしょう? ですから今や空前の量のデータがあるのです。それを適切な質問、適切な方法で処理すれば、興味深いものが現れるのです。

だから情報は美しいのです。それで自分も美しくできないかと思いました。これは視覚的にした私の履歴書です。うまくいったかは何とも言えません。角々していて、色も冴えません。でも私は伝えたいことがあったんです。私は最初プログラマで、それからライターを20年ほど、出版、オンライン、広告とやって、ほんの最近になってデザインを始めました。デザイン学校に行ったことはなく、アートの類を学んだこともありません。ただやりながら覚えていったのです。そしてデザインを始めた時、奇妙なことに気付きました。私はデザインを理解していたのです。すごい才能があるということではありません。ただグリッドやスペースやアラインメントやタイポグラフィといったものに敏感だったのです。長い間メディアに触れることで、デザインの基本が気付かぬうちに身に付いていたのです。私は自分が特別だとは思いません。

私たちはみんな毎日情報デザインに晒されています。Webを通して私たちの目に流れこみます。私たちはみな視覚的な人間なのです。私たちはみな情報を視覚的なものとして求めています。視覚情報には何か魔法のようなところがあって、苦もなく、文字通り流れ込んでくるのです。そして深い情報のジャングルに入り込んだとき、美しいグラフィックスや愛らしい可視化データを見るとホッとします。ジャングルの中で開けた場所に出たかのようです。こういうことに興味があったため、デンマークの物理学者ノーレットランダーシュの仕事に辿り着きました。彼は感覚の帯域幅をコンピュータの単位で表しました。

これは感覚を通して毎秒流れ込む情報量です。視覚が最も速く、コンピュータネットワーク並の速さがあります。次が触覚で、USBの速さがあります。それから聴覚と嗅覚はハードディスクほどの速さです。そして哀れな味覚は、ポケット電卓並の速さしかありません。この隅の赤い四角の部分で、全感覚の0.7%になります。だから大部分の情報は視覚から流れ込むのです。気付かぬうちに。そして目というのは、色や形やパターンの変化に対し、ものすごく敏感なのです。目はそれを好み、美しいと言うのです。それは目の言語なのです。目の言語を、心の言語である言葉や数字や概念と組み合わせると、2つの言語が同時に語られ、それぞれが互いに強め合うようになります。目が捕らえ、概念へと落ちるのです。そうやって2つの言語が同時に機能するのです。

 

この新しい種類の言語を使ってものの見方を変えることができます。ひとつ簡単な質問をしましょう。答えはすごく簡単です。軍事予算最大の国はどこか? アメリカでしょうね。2008年でなんと6,070億ドルです。すごく大きくて、ほかの国々の軍事予算がまるまる収まります。ガブガブガブ。参考までに アフリカの負債額と、イギリスの財政赤字額を並べておきます。アメリカというのは、武力挑発的な軍事マシンで、巨大な軍産複合体によって世界を征服しようとしているという見方に符号しているようです。でも本当にアメリカが軍事予算最大の国なのでしょうか? というのもアメリカはとても裕福な国だからです。実際ものすごく裕福で、他の工業国上位4か国の経済がすっぽり入るほど豊かなのです。だから軍事予算だって必然的に大きくなります。公平を期して視点を変え、別のデータセットを導入してみましょう。GDP、つまり国の所得です。GDP比ではどこが最大になるか? 見てみましょう。様相がずいぶん変わりましたね。予想外の国が上に来ているんじゃないでしょうか。アメリカは8位に落ちています。

 

同じことが兵員数でもできます。兵員数が最も多い国は? もちろん中国で、210万人います。中国というのは軍事国家で、大兵力を動員する気満々だと思うかもしれません。しかしもちろん中国は膨大な人口を抱えています。だからさっきと同じことをすると、様相が大きく変わります。中国は124位に落ちるのです。別のデータも考慮するなら、むしろ小さな軍隊なのです。ですから世界という文脈の中では、軍事予算のような絶対的な値は全体像を与えてはくれないのです。そうあるべきほどには真実を伝えません。

より完全な姿を見るためには、他のデータと関連した相対的な数字が必要なのです。それは私たちの見方を変えるでしょう。私の師であるハンス・ロスリングが言うように、「データセットでマインドセットを変える」のです。そうできたなら、行動もまた変えられるかもしれません。

 

この図を見てください。私はちょっとした健康オタクです。サプリメントを飲んだり、健康に気を使っています。しかし本当に効くのかわかりません。いつも相反する証拠があります。ビタミンCやウィートグラスは摂るべきなのか? これは栄養補助食品に関するデータを可視化したものです。このような図をバルーンレース(気球競技)と言います。上に行くほどそのサプリメントが効くという証拠があるということです。円の大きさはGoogleヒット件数に基づく人気度です。ですから一目で有効性と人気度の関係がわかります。証拠を等級づけることで、「価値あり」の境界線を引くこともできます。この線より上のサプリメントは調べる価値があるでしょうが、下に付記した症状に対してのみ有効です。そして線よりも下のサプリメントは、おそらく調べる価値もないでしょう。

この画像には膨大な労力がかかっています。生物医学データベースのPubMedから1千件に上る研究を拾い出して、まとめ、等級づけをしました。すごくストレスのたまる作業でした。私はのために250の可視化画像を用意しましたが、これには1か月もかかったのに2ページにしかならなかったからです。しかしそれで分かったのは、このような情報の可視化は、一種の知識圧縮だということです。膨大な量の知識や理解を小さなスペースの中に押し込めるということです。一度データを集めて整理したなら、それを使ってすごく気の利いたことができます。

それで私はこれを対話的アプリにして、ネット上で動的にデータを可視化できるようにし、ようやく「ああ、よかった」と思えました。自動的に生成され、「心臓病に効くものだけ」表示させることもできます。フィルタリングして関心があるものだけ見られるのです。「いや、合成品はいらない。ハーブと植物だけ見せてくれ」。すると天然原料のものだけになります。このアプリはデータから生成されます。データはGoogle Docに格納されていて、そのデータから生成されるのです。生きているデータの生きている図なのです。アップデートはすぐにできます。新しい証拠が出たらデータを1行変えるだけ。ドゥーシュ! 画像が自動的に生成されます。気が利いているでしょう。生きているのです。

可視化はデータや数字を超えて行くことができます。私はアイデアやコンセプトに情報可視化を適用するのが好きです。これは政治の諸相を可視化したもので、世の仕組みを理解しようとする私の試みです。アイデアはいかに政府から社会や文化、家族、個人、その信条へと浸透していくのか。どうフィードバックして、サイクルが形成されるのか。この絵が気に入っているのは、コンセプトから出来ていることで、我々の世界観を探究して、他の人の考えがどこから来ているのか知る手がかりになるからです。すごくいかしてると思います。

これをデザインしていて最も興奮させられたことが何だったかというと、私はジャーナリストとして、左寄りの人間として、左側を右側よりも良いものに見せたかったのですが、それができなかったことです。歪んだバイアスのかかった図になってしまうからです。本当の全体像を作り出すためには、右側の見方にも敬意を払う必要がありました。同時に不本意ながらも、それらの資質がどれほど多く自分の中にもあるか気付いて、困惑し、居心地悪く感じました。(笑) でもそうひどくではありません。政治的な展望を見ることには、言われたり聞くよう強要されるほど圧迫を感じません。実際、これを見ていると、対立する視点を気持ちよく持つことができます。視覚的なため、楽しくさえあります。私がワクワクするのは、データが自分の見方をいかに変えるか、美しく愛らしいデータが心の流れをいかに変えるか分かるときです。

まとめましょう。デザインというのは、問題を解決し、エレガントな解決法を提供することだと思えます。そして情報のデザインというのは、情報の問題を解決するということです。現在私たちの社会には、情報の問題がたくさんあります。情報過多や飽和、信用や信頼の崩壊や手に負えない懐疑主義、透明性の欠如、そして無関心さえも問題です。私は情報は面白すぎると気付きました。私を引き寄せる磁力のようなものがあります。

 

情報の可視化はそういった問題への、即席の解決法を与えることができます。ひどいことを示す情報であろうと、ビジュアルとしてはとても美しいものになり得ます。そして明快な理解や単純な疑問への答えを素早く手にできることもよくあります。たとえばこれは最近のアイスランドの火山噴火データです。CO2排出量が多いのはどちらか? フライトをキャンセルされた飛行機か、それとも火山か? 見てみましょう。データから分かるのは、火山は15万トン排出しましたが、フライトをキャンセルされた飛行機は、飛んでいたら34万5千トン排出していたことです。だからこれは世界初のカーボンニュートラルな火山というわけです。(笑と拍手) そしてこれは美しいものです。どうもありがとうございました。(拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたYuki Okada氏に感謝します。]

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オリジナル:  David McCandless: The beauty of data visualization