私のデータセットであなたのマインドセットを変えてみせます (TED Talks)

Hans Rosling / 青木靖 訳
2009年6月

みなさんのマインドセットについてお話しします。みなさんのマインドセットは私のデータセットと合っているでしょうか? (笑)  合っていなければ、どちらかをアップグレードしなくちゃなりません。

グローバルな問題の話をすると、学生たちがいつも休憩時間に「我々」と「彼ら」について話すのを耳にします。それで休憩時間が終わったときに聞いてみます。「"我々"と"彼ら"というのは何を指して言っているの?」「簡単ですよ。西欧世界と発展途上世界です」と答えます。「学部でそう習いました」。「じゃあその定義は何?」と聞くと、「そんなの誰でも知ってるでしょう」と言います。


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それでもあえて答えを求めると、ある女子学生がうまい答え方をしました。「長生きで小家族なのが西欧世界で、短命で大家族なのが発展途上世界です」。この答えは気に入りました。彼らのマインドセットをデータセットに変換してやることができるからです。これがそのデータセットです。横軸は家族の大きさです。女性1人につき子供が1人、2人、3人、4人、5人、というのがこの軸です。縦軸は何歳まで生きるかで、平均寿命が30年、40年、50年ということ。学生が答えたのはまさにこの世界のイメージです。

そしてこれは実際のところベッドルームの問題です。男と女が小さな家族を持つことに決め、子供の世話をし、どれだけ生きるかということ。これはトイレとキッチンの問題なのです。石けん、水、食べ物があれば人は長く生きられます。学生たちは正しかったのです。世界にはこのように、一方には大家族で短命な発展途上世界があり、もう一方には小家族で長生きな、西欧世界がありました。

それから私が生きている間に、世界では驚くべきことが起きました。発展途上国が、石けんと水とワクチンを手に入れます。家族計画を行うようになります。ある部分では、アメリカが技術的なアドバイスと投資を提供したおかげでもあります。そして見ての通り、世界全体が子供2人の家族、60年から70年の寿命というところに向かっていきます。

しかし取り残されている国もあります。アフガニスタンはここにあります。それにリベリアやコンゴも。こういう条件の国々があります。だから私にとっての問題は、学生たちが持っている世界のイメージが、彼らの教師が生まれるよりも前のものだということです。(笑)  (拍手)


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私は実際、これを様々なところでやってみました。先週Global Health Conference (世界保健会議)が、ここワシントンでありました。アメリカで実務に携わっている人たちでさえ、同じように間違った考え方をしていることが分かりました。彼らはここにあるメキシコや中国が、アメリカに対して相対的に向上していることに気がついていません。時間を進めてみましょう。ご覧ください。彼らは追いついてきています。メキシコがここに。この2つの社会的側面に関してはアメリカと対等です。このことに気付いている世界保健の専門家は5パーセントもいません。この素晴らしい国メキシコは、武器が北から国境を越えて入ってきている問題を抱えています。これは止める必要があります。アメリカと妙な関係になってしまっていますから。


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しかし横軸を1人あたりの所得に変えるとどうでしょう?  するとこうなります。ご覧のようにまったく違った形になりました。こうしながら私たちのサイトGapminder Worldの使い方を説明しています。なぜお勧めするかというと、これはネット上で無料で使えるユーティリティなのです。うまく設定してやると、歴史を200年遡ることができます。アメリカはここにあります。他の国も表示させましょう。横軸は1人あたりの所得です。アメリカは当時2,000ドルくらいしかありませんでした。平均寿命は35歳から40歳。今日のアフガニスタン並みです。

それから世界に何が起こったのかをお見せしましょう。大学で1年間歴史を学ばなくとも、1分間で全部見ることができます。(笑)  茶色の円は西ヨーロッパ、黄色いのはアメリカで、どんどん豊かに、それからどんどん健康になっていきます。これが100年前。世界の他の国々は相変わらずです。ここに来て、インフルエンザが流行します。私たちがみんな流感を恐れるのも無理はありません。まだ記憶に残っているのです。平均寿命がはっきり下がっています。それからまた上昇します。こちらは独立するまでそのままでした。

ここに中国、ここにインドがあります。それからどうなるのでしょう。ここにメキシコがあるのに注意してください。メキシコはアメリカに並んではいませんが、結構近くまで来ています。中国とアメリカのこの200年間を見るのは特に興味深いです。というのも、Googleがこのソフトを買い取ったため、私の長男は今Googleで働いています。実際これは児童労働ですね。息子夫婦は何年も物置にこもってこれを開発したんですから。それから私の末っ子は北京で中国語の勉強をしています。子供たちはこの2つの視点を持つようになったわけです。末っ子は北京で勉強していて長期的な視点でやっています。長男の方はGoogleで働いていて、4半期とか半年というサイクルで仕事しています。まあGoogleは太っ腹だから、1年とか2年でやっているかもしれません。

中国が何世代というスパンでものを見ているのは、彼らが100年に渡って後退するという、非常に不名誉な時代を記憶しているからです。それから20世紀の初めの非常に悪い時期を覚えています。それからいわゆる「大躍進」があります。1963年、毛沢東は最終的には中国に健康をもたらしました。毛沢東が死んだ後、鄧小平が、この驚くべき前進を始めました。

ちょっと面白いと思いませんか?  アメリカは最初経済が発展して、それからゆっくりと豊かになりましたが、中国はずっと早い段階で健康になります。彼らは教育や栄養の知識を活用し、ペニシリンやワクチンの恩恵を受け、家族計画をしたからです。アジアでは経済的な発展の前に社会的発展をします。公衆衛生学の教授である私には、これらの国々がそれほど早く成長するのは不思議ではありません。

みなさんがここで目にしているのは、トーマス・フリードマンのフラットな世界です。わかるでしょう?  本当にフラットというわけではありませんが、この中所得国の存在があるので、「発展途上世界」という言い方はやめなさいと学生に言っているわけです。発展途上世界というくくりで話をするのは、アメリカの歴史を2章に分けるようなものです。

後の方の章は現在、オバマ大統領の時代です。前の方は昔、ワシントンからアイゼンハワーまでの時代です。ワシントンからアイゼンハワーまでは発展途上世界のようだったからです。メイフラワー号からアイゼンハワーまでと言ってもいい。それはひとまとめに発展途上世界でした。都市が驚くほど成長します。すばらしい事業家がいる国もありますが、破綻していく国もあります。

ではどうすれば、それをもっとうまく捉えることができるでしょうか?  1つの方法は所得の分布を見ることです。見てください。これは世界の人の所得の分布です。1ドル。食べるものはありますが、お腹をすかせて眠りにつくことになります。縦軸はその生活水準の人の数です。10ドル。公的ないしは私的な医療サービスがあります。ここでは家族を医者にかけ、子供を学校にやることができます。青がOECD諸国、緑色はラテンアメリカ、橙色は東欧、黄色は東アジア、淡い水色は南アジアです。

そして世界はいかに変わったか。こう変わりました。成長が分かりますか?  何億、何十億というアジアの人々が貧困から抜け出しています。そしてここまで来ました。この先は予測になります。しかしリーマンブラザーズの前で止める必要があります。(笑)  そこから先はもはや予測が正しくないからです。たぶん世界はこうなります。そしてこのように進み続けます。だいたいのところ、これが起こるだろうことです。そして私たちの世界はもはや分断されていると見ることはできないのです。

ここに高所得の国々があります。先頭に立つ大国アメリカ。中間に急速に経済の発展している国々があります。緊急援助に多くの資金を出しています。低所得の国がここに… (笑)  実際彼らが金の出所です。彼らは20世紀末に貯蓄していました。ここに起業家たちのいる低所得国があり、そしてここに、破綻したり紛争をしている国があります。アフガニスタン、ソマリア、コンゴの一部、ダルフール。これがみんな同時に存在するのです。

発展途上世界がどうなっているという言い方に問題のある理由です。そこで起こっていることはこんなにも違っているのです。だから私はもう少し違った呼び方をするように勧めています。国の内部にも大きな差があります。国務省の部門は地域に対応して分かれていると聞きました。ここにサハラ以南アフリカ、南アジア、東アジア、アラブ諸国、東欧、ラテンアメリカ、OECD諸国があります。横軸はGDPです。縦軸は乳幼児生存率です。サハラ以南のアフリカが一番下に来ているのは驚くに値しないでしょう。

しかしこれをバラバラにして、円を国ごとにしてみます。円の大きさは人口です。シエラレオネとモーリシャスはまったく違っています。サハラ以南のアフリカの中にもこんな違いがあるのです。他のもバラバラにしてみましょう。これは南アジア、それにアラブ諸国。みんな別な部署ですね。東欧、ラテンアメリカ、OECD諸国、そして全体。世界は連続しています。2つに分けることはできません。

メイフラワー号はここです。ワシントンはここ、建国しました。リンカーンはここ、国を進歩させました。アイゼンハワーは世界の国々に近代化をもたらしました。そして今日のアメリカがここ。ずっと国が続いています。世界がどう変わったか理解する上で、重要なものがあります。ここで宣言をしたいと思います。(笑)

他の国々に代わってアメリカの納税者に謝意を伝えるのは私の仕事だろうと思います。人口保健調査(DHS)です。多くの人は気付いていませんが…これはまじめな話です。非常に。これはアメリカの25年にわたる、継続的な支援によって、系統的に子供の死亡率が測定されたもので、世界で何が起きているのかを把握できます。(拍手)  そしてアメリカ政府は、主張なしに、社会に有用な事実を提供する最善の努力をしてきました。インターネットで世界からデータを無料で得られるようにしたのです。感謝します。

世界銀行とは正反対です。政府のお金、税金を使って集めたデータを、ちょっとした利益を得ようと売っているのです。非常に非効率なグーテンベルグ式のやり方で。(拍手)  しかし世界銀行で働いているのは世界でも最も優秀な人たちです。高度な技能を持ったプロフェッショナルです。我々のようにもっと近代的な仕方で世界に対するよう、国際機関をアップグレードしたいものです。データの無料化と透明化に関してはアメリカが一番です。これはスウェーデン人の公衆衛生学の教授にはすごく口にしにくいことですが。(笑)  私もここにお金をもらわずに来ています。

このデータを使って何が起きたのかお見せしましょう。これは横軸を所得、縦軸を乳幼児死亡率として見た世界です。世界で何が起きたのでしょう?  1950年以来、50年間で乳幼児死亡率は急速に下がりました。これを分かるようにしてくれたのがDHSです。所得が増加しました。青色のかつての発展途上国は、西欧工業国と混じり合っています。連続しています。しかし依然この部分があります。これはコンゴです。貧しい国々が歴史上のいつの時代とも変わらず存在します。今日、この最底辺の10億人に対し、まったく新しいアプローチが行われることを耳にしました。

これはどれほど早く起きたのでしょう? MDG 4 (ミレニアム開発目標 4)です。アメリカはMDG 4にあまり熱心ではありませんが、しかしアメリカはこの測定を可能にした主要なスポンサーなのです。我々の測れる唯一の乳幼児死亡率です。年4パーセントずつ減らそうと言っていました。スウェーデンがどうだったか見てみましょう。私たちスウェーデン人は社会発展の速さを自慢していたものです。ここが1900年に我々がいた場所です。1900年のスウェーデン。1990年のバングラディシュと同じ乳幼児死亡率です。しかしバングラディシュの方が収入が低い。いいスタートです。援助をうまく使いました。子供たちに予防接種をし、飲料水を改善しました。そして乳幼児死亡率を驚きの年4.7パーセントという割合で下げました。スウェーデンを打ち負かしたのです。スウェーデンの方も同じ16年間分で動かしています。

第2ラウンドは1916年のスウェーデン対1990年のエジプトです。ここでもアメリカの力があります。安全な飲み水を得て、貧しい人たちに食べ物を与え、マラリアを根絶しました。5.5パーセント。ミレニアム開発目標よりも早いペースです。

スウェーデンに3回目のチャンスを与えましょう。相手はブラジルです。ブラジルはこの16年間で驚くほど社会の改善が見られました。スウェーデンよりも早い。これは世界が収束しているということです。中所得の国々、新興経済。彼らは追いついてきています。都市へと集まり、そこでよりよい支援を得ています。

スウェーデンが抗議しています。「こんなのフェアじゃない。これらの国々には、我々になかったワクチンや抗生物質がある。同じ時期で比較してもらわないと」。いいでしょう。私が生まれた年のシンガポールと対戦させましょう。シンガポールの乳幼児死亡率はスウェーデンの2倍ありました。熱帯の国です。赤道地帯の湿地の国です。独立まで少し時間がかかります。その後経済の発展が始まります。そして社会投資があり、マラリアを退治し、素晴らしい医療システムを作り、アメリカもスウェーデンも打ち負かしました。彼らがスウェーデンに勝つなんて我々は考えもしませんでした!。(拍手)。

緑色のはみんなミレニアム開発目標を達成している国です。黄色は目標に近づいている国。赤は変わっていない国です。やり方を改善する必要があります。単純な推定ではなく、これらの国が良くなるよう、支援する方法を見つける必要があります。中所得の国々の達成していることには敬意を払わねばなりません。そして私たちは世界を事実に基づいて見る必要があります。

横軸は1人あたりの所得です。縦軸はHIV感染者の割合。青いのがアフリカです。円の大きさはHIV感染者数を表しています。南アフリカの悲惨な状況がわかります。大人の20パーセントが感染しています。彼らの高い所得にかかわらず多くのHIV感染者がいます。一方下の方にあるアフリカの国々もあります。HIVはアフリカの病気というわけではないのです。スウェーデンやアメリカと同じレベルのアフリカの国が5つか10くらいあります。それから非常に感染率が高い国もあります。

アフリカで最も強い経済を持ち、よく管理された国に起きたことをお見せします。ボツワナです。非常に高いレベルです。下がってきましたが、落ちはしません。PEPFAR(米国大統領エイズ救済緊急計画)による治療が効果を上げたのです。それで人が死ななくなりました。簡単な話でないのがおわかりになると思います。これを引き起こしたのは戦争ではありません。ここコンゴでは紛争が起きています。そしてここザンビアは平和です。

経済のためということでもありません。豊かな国のほうが若干高くなっています。タンザニアを収入でばらしてみましょう。豊かな20パーセントは、貧しい20パーセントよりHIV感染者が多くなっています。国の中でも違いがあるのです。州ごとに見たケニア。とても違っています。ここで見られる状況は貧しさによるものではありません。特異な状況なのです。アフリカの東部や南部のある国々や地域における、ヘテロセクシャルの同時並行的な性関係によるのかもしれません。

これはアフリカ全体の問題でも人種の問題でもありません。ローカルな問題なのです。そして地域ごとに、その土地で可能な方法で予防を行う必要があります。最後にもう1つ、最貧の10億人の知られざる苦難をお見せします。携帯電話もなく、コンピュータなど見たこともなく、家に電気のない人々です。

これはコンゾ病です。私は20年間アフリカで調査してきました。飢饉状況下でキャッサバの毒抜きをちゃんとしなかったことで起こります。30年代にミシシッピで起きたペラグラに似ています。他の栄養疾患にも似ています。豊かな人々はかかりません。

私たちはこれをモザンビークで目にしました。モザンビークで蔓延しています。タンザニアの北部でも。この病気のことをお聞きになったことはないでしょう。しかしこの病気にかかっている人はエボラ出血熱よりずっと多いのです。世界中で足の不自由な人々を生んでいます。コンゴのバンデュンデュ州の南端で2年間に2,000人の足が不自由になりました。ここは違法ダイヤの取引が行われていた場所です。アンゴラのUNITAに支配されていました。今はなくなりました。そして彼らは大きな経済問題を抱えています。一週間前、インターネットに初めて4行の記述が現れました。

新興経済の発展、中所得国の人々の大きな力、平和で低所得な国々を混同してはいけません。今でも10億人が悲惨な状態にあります。発展途上国や発展途上世界というのとは違った概念が必要です。新しいマインドセットが必要なのです。世界は収束しつつあります。しかし、しかし、しかし、最底辺の10億人は別です。彼らは相変わらず貧しいままです。これは持続可能ではありません。一つの大国のまわりでは起きないでしょう。しかしアメリカは最も重要な大国であり続けるでしょう。当面のところ、最も希望の持てる大国でもあります。そしてこの国務省は非常に重要な役割を担うでしょう。アメリカではなく世界のために。だから国務省というのは名前が良くありません。国家のための省ではないのですから。これは世界省なのです。私たちはあなた方に高い期待をかけています。どうもありがとう。(拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた久島昌弘氏に感謝します。]

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オリジナル:  Hans Rosling: Let my dataset change your mindset

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