Yves Rossy / 青木靖 訳
2011年7月
(グランドキャニオンを飛ぶジェットマンの映像)
ナレーション テストの多くは、ロッシーが翼を付けた状態で行われる。ロッシーの体が機体の一部をなしているからだ。
(風洞テスト中の映像)
ナレーション この翼には操縦桿もフラップも方向舵もない。ロッシーは自分の体を使って翼の舵を取る。
スタッフ 頭を右左に傾けて旋回します。手や脚を使うこともあります。彼自身が飛行機の胴体なんです。すごく独特なものです。
ナレーション 高度を上げるときには背をそらす。下降するときには肩を前にかがめる。
(スイスアルプスを飛ぶジェットマンの映像)
(ジブラルタル海峡越えに挑むジェットマンの映像)
(英仏海峡を越えるジェットマンの映像)
解説者A 出ました。イブ・ロッシーです。翼が開いています。最初の難関が翼の展開です。下降していきます。さあ飛行に移れるか。
解説者B 安定したようです。上昇を始めています。
解説者A お話の90度旋回ですね。海峡越えに向かいます。イブ・ロッシー、もう引き返すことはできません。英仏海峡の上を飛行中です。さあ皆さん、歴史的飛行の始まりです。
解説者C これから地面に近づいてやるのは、引き綱を引いて減速しつつ、きれいに着地するということです。
解説者A 着地です。イブ・ロッシーが英国の地に降り立ちました。
ブルーノ・ジュッサーニ その彼が来ています。イブ・ロッシーです。(拍手) 装備一式も持ってきてもらいました。ようこそ。まったく目を見張るばかりです。今の映像は、この3年間の様々な挑戦を撮したものですが、他にもまだまだあります。もう人間も鳥のように飛べるわけですね。飛ぶのはどんな感じなんでしょう?
イブ・ロッシー そりゃ楽しいですよ。(笑) 私に翼はありませんが、時々鳥になったように感じることがあります。何か現実離れした感じです。普通はまわりに大きな飛行機の機体があるわけですが、この小さな翼を身に着けていると、本当に鳥になった気分がします。
ジュッサーニ どのようにしてジェットマンになったんですか?
ロッシー 20年くらい前にスカイダイビングを始めました。飛行機から飛び出すときは、ほとんど何も身に着けていません。こんな姿勢を取ります。特にトラッキング姿勢を取ると、飛んでいるように感じられます。空を飛ぶ夢に一番近い形だと思います。周りに機械はありません。あるのは自分だけです。ごく短時間で、進む方向は1つしかありませんけど。それで思ったのは、この自由の感覚を保ったまま方向を変え、もっと長く飛べたらということです。
ジュッサーニ すごく興味あるんですが、最高速度はいくらですか?
ロッシー 旋回する直前で時速300キロくらい。だから時速190マイルですね。
ジュッサーニ 重さはどれくらい?
ロッシー 燃料が満杯の飛び出す時点で55キロくらいを背負っています。
ジュッサーニ 操縦はしていないんですよね? 操縦桿もハンドルもない。体だけを使い、翼が体の一部で、体が翼の一部という。
ロッシー それがやりたいことです。操縦桿なんか付けたらただの飛行機になってしまいます。私は動きの自由さを保ちたいんです。子どもが飛行機ごっこするように、こんな風に下降し、上昇し、旋回したいんです。混じりけのない飛行です。操縦するのではなく、自分が飛ぶんです。
ジュッサーニ このためにどんな訓練をしているんでしょう?
ロッシー 体調を維持するように心がけていますが、特別なトレーニングは何もしていません。ただ新しいことをして機敏さを保つようにはしています。たとえば去年の冬はカイトサーフィンを始めました。新しいことに対しては適応が必要になります。私はパイロットとしてシステムのコントロールに関しては相当経験があります。しかしこれの場合は、柔軟さ、身のこなし、素早い適応が必要になります。
ジュッサーニ 客席からの質問なんですが、どうやって息をしているんでしょう? 高速で飛んで、高度3,000メートルまで行くわけですが。
ロッシー 3,000メートルというのは酸素に関しては問題ありません。速度についても、オートバイは同じくらいのスピードを出せます。フルフェイスヘルメットをかぶっていれば問題なく呼吸できます。
ジュッサーニ 装備を説明していただけますか? エンジンが4つありますね。
ロッシー 翼幅2メートルで、非常にしっかりしています。小さなエンジンが4つ。それぞれ22キログラム重の推力があるケロシン燃料のジェットエンジンです。ハーネスにパラシュート。計器は高度計と時計だけです。燃料が持つのは8分ほどで、切れる前に知っておきたいので。(笑) これで全部です。パラシュートは2つ付けています。何かのトラブルで最初のが開かなくとも、2つめので助かる可能性があります。命綱ですね。安全のために大切なものです。この15年間で20回ほど使う機会がありました。このタイプの翼ではなく、最初の頃の話です。きりもみしたり制御不能になったときは翼を切り離せるようになっています。
ジュッサーニ 2009年のジブラルタル海峡越えを見ましたけど、制御不能になって雲の中に突っ込み、海に落ちましたね。あの時は翼を捨てたわけですね?
ロッシー 雲の中で立て直そうとしました。すっかり方向を見失い、もう一度上昇しようとして、大丈夫だと思っていたんですが、(手で螺旋を描きながら) たぶんこんな感じになっていたんだと思います。
ジュッサーニ 想像しただけですごく危なそうですね。
ロッシー 気分は良かったんですが、高度が正しくなくて、次の瞬間目にしたのは一面の青でした。海です。音声式の高度計が付いているんですが、高度が最低で、こんな角度で急降下していたので、切り離しました。それからパラシュートを開きました。
ジュッサーニ 翼自体に、ご自分の2つとは別にパラシュートがあるわけですね。
ロッシー そうです。翼にパラシュートが付いている理由は2つあります。回収して修理するためと、誰かの頭の上に落ちないようにするためです。
ジュッサーニ なるほど。こちらに戻りましょうか。危険なのは確かですね。このようなことをして亡くなる人もいます。でもあなたは無謀な人には見えません。航空会社のパイロットでもあり、むしろチェックリストを用意して基準に則ってやる方でしょう。
ロッシー これに関してはチェックリストは何もありません。
ジュッサーニ 会社には言わないでおきましょう。
ロッシー 実際2つの世界は違うんです。民間航空というのはよく分かっていて、100年の経験の蓄積があります。すごく綿密にやることができます。しかしこれの場合は、新しいことに適応する必要があり、即興をやることになります。2つのアプローチは本当に違っています。一方は非常によく分かっていて原則があります。たとえばエアバスにはエンジンが2つありますが、片方だけでも飛べるようになっています。いつでもプランBがあるんです。戦闘機だと射出座席があります。(引き具を指して)これが私の射出座席です。私はプロのパイロットとしてのアプローチを取りながら、母なる自然を前にしたパイオニアでもあるのです。
ジュッサーニ 素晴らしい言葉ですね。エンジンが1つ止まったときはどうするんですか?
ロッシー 回転し始めるので、安定させます。高度にもよりますが、2つか3つのエンジンで飛び続けます。そうできるときには。説明するのが難しいですが、どこにいるかに応じて2つのエンジンで飛び続け、着地に適した場所を探し、パラシュートを開きます。
ジュッサーニ 飛ぶ時は最初、飛行機かヘリからダイビングし、エンジンを加速して空中のどこかで飛び始めるんですよね。そして着地は、英仏海峡の映像で見たように、パラシュートを使う。興味があるのは、グランドキャニオンを飛んだ時はどこに着地したんですか? 崖の上か下か?
ロッシー 底に降りました。それからヘリの脚に乗って戻ってきました。上の方は石ころが多くサボテンだらけでしたから。
ジュッサーニ それで聞いたんです。
ロッシー それに気流がすごく妙でした。上昇気流があって、高度差もすごくあります。だから底に降りる方がずっと安全だったんです。
ジュッサーニ 聞いているみんなが思っていることだと思いますが、あなたと一緒に飛べる2人乗りのはいつできるんでしょう?
ロッシー それにはいつもこう答えています。タンデムになって飛ぶ鳥を見たことありますか?
ジュッサーニ 申し分ない答えですね。(拍手) では最後の質問です。次は何でしょう? ジェットマンの次の挑戦は?
ロッシー まず若い人に教えたいですね。そして編隊飛行をしてみたいです。それからカタパルトを使って崖から飛び出すというのも考えています。
ジュッサーニ 飛行機から飛び降りるのではなく?
ロッシー ええ。最終的には勢いを付けて離陸できるようになりたいです。段階的にやっています。クレージーに見えるかもしれませんが、違います。今でもやろうと思えばできます。危険すぎるというだけです。(笑) 技術の進歩によってもっと安全にやれるようになるでしょう。そして誰でも飛べるようになることを願っています。
ジュッサーニ ありがとうございました。イブ・ロッシーでした。
(拍手)
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