Google Glassのラピッドプロトタイピング (TED-Ed)

Tom Chi / 青木靖 訳
2012年11月

私はトム・チーと言います。この2年間Google Xのユーザ・エクスペリエンス・チームで仕事してきました。私はこの部署のことを「サイエンス・フィクション部」と愛着を持って呼んでいます。未来的なプロジェクトをやっているからです。自動運転車にGoogleGlass、その他皆さんがやがて目にするだろうものを作っています。初めて耳にする人もいるかもしれませんが、これがGoogle Glassです。周りの世界を見ながら、視野の中にデジタル情報を重ね合わせて見ることができます。携帯電話を取り出して見る場合、いったんこの世界を出て、小さな携帯やタブレットの世界に入るわけですが、Google Glassのビジョンは、私たちが好きであり必要ともしているデジタル情報に、この世界にいながらアクセスできるようにするということです。

Google Glassについて簡単な質問をしますが、この体験はどう試作できるでしょう? このヘッドセット・ディスプレイの実際に機能する最初のバージョンを作るのに、どれくらいかかると思います? なるほど。予想が少し長すぎる感じだね。答えは1日です。こんなものを作りました。ここでの鍵は衣紋掛けです。衣紋掛けを曲げて上の輪を首にかけ、下の輪を胸で支えるようにし、アクリル板に付けたクリアポケットを体に装着できるようにしました。これは読書感想文なんかを汚さないように入れておくやつですね。雑貨屋で手に入れました。それをアクリル板の端に付けて、ネットブックに繋いだポケット・プロジェクタの投影先にします。このような仕掛けで、デジタル情報を身の回りの世界に重ねて見ながら動き回る体験がどんなものか、1日もかけずに試せるようになりました。またネットブックを使ってソフトウェアのアイデアを山ほど試しました。

このような実際に動作するものを使い始めると、大きな課題が見えてきます。眼鏡みたいに頭に付けるわけなので、マウスやキーボードやタッチスクリーンのような、普段コンピュータを操作するときに使うものが使えません。それでしばらくの間は映画「マイノリティ・レポート」みたいにやればいいかと思っていました。あの映画を見てない人のために説明すると、トム・クルーズが顔の前で手を動かしてソフトウェアを操作するんです。そっちから写真を持ってきて、こっちにはメールがあってという具合です。また同じ質問ですが、そのような体験を実際にできるようにするには、どれくらいかかると思いますか? 2年? 1日と言った人がいるね。45分です。こんな感じです。最初に見せたやつをまず身に付けます。何か投影できるものが必要なので。それからヘアバンドを2つ使うんですが、このヘアバンドを貸してくれと頼むのが一番難易度の高い部分でした。ヘアバンドをそれぞれの手にはめて、ヘアバンドには釣り糸を付けます。釣り糸は、ホワイトボードの上を越えて床にテープで留めたこの小さな装置に繋がっています。するとどうなるかというと、手を動かすたびに糸が引っ張られて、床の装置が働きます。糸の反対の端は割り箸に結び付けてありますが、これは私がアジア系だからというわけではなく、近くに食堂があっただけのことです。いつも割り箸を持ち歩いているわけじゃありません。糸を結び付けた割り箸は、ペンを通した書類クリップで支えてあり、その結果として、手を動かして糸が引っ張られると、割り箸が梃子のように動いてプレゼンのリモコンを押します。片方の手を動かすと先へ進み、もう一方の手を動かすと前に戻ります。45分で作ったものですが、そのわずかな時間で実体験ができるようになりました。画像ギャラリーを見ながら「次の写真、次の写真、前の写真」とやるとか、メールを見ながら「このメールを表示、これに返信」という具合です。手でソフトウェアをコントロールするのがどんなものか、これはまさに体験させてくれました。最終的には、これはたぶん製品にすべきではないということが分かりました。人前で使いにくいとか、エルゴノミクス面での問題とか、考えているだけでは分からない様々なことが学べました。したがってプロトタイピングのルール第2番は、「行動こそ最良の思考である」ということです。よく考えなさいと学校では教わりますが、考えるというのは過大評価されていると思います。

最後の例になりますが、このようなものを作ろうとしたのはGoogleが最初ではありません。「ヘッドセット・ディスプレイ」で検索したら、ここに出ているような様々なシステムを作ったチームの画像が見つかるでしょう。でも私はひと目見ただけで、15分以上快適に装着していられるのは、たぶんあのヘルメット型のやつしかないと分かります。だけどそれだとヘルメットをかぶらなきゃなりません。これを快適に装着できるようにする方法はどうすれば見出せるでしょう? 答えは基本的な素材を使うということです。アルミワイヤー、紙、粘土。こういったものを使うと、眼鏡らしきものをすごく手早く作れます。使う予定の電子部品と同じ重さの粘土を用意して、紙にくるんで顔に付かないようにし、それをアルミワイヤーのいろんな部分にテープで付けてみて、眼鏡の装着感を試すんです。そしてすごく重要なことを発見しました。一番下の絵を見てほしいんですが、眼鏡に感じる重みは鼻にかかる重みで決まるということです。それからまた、耳は鼻よりもずっと大きな重みを支えられることも、別な実験から分かりました。この事実から、重みを耳の後ろに持っていくと、耳が梃子の支点のように働いて、鼻にかかる重みが取り除かれるんです。眼鏡をしている人は試してみるといいですが、眼鏡の後ろをそっと押すと、眼鏡がずっと軽く感じるはずです。こうして、このような装置を作る上で役立つ興味深いことが分かりましたが、そればかりでなく、眼鏡についてかつて知られていなかった根本的なことも発見できたわけです。重たい眼鏡をかけている人は、これを利用してもっと快適にできるでしょう。

最後に言っておきたいのは、学習には2種類あるということです。ラピッド・プロトタイピングを通して素早く学ぶことが出来ましたが、これは1つの学習方法なんです。皆さんが学校でいつもやっているのは、本による学習です。人類が既に知っていることを学ぶということで、これは世界を探求していくために必要な基礎となるものです。でもまったく違う種類の学習もあって、私はそれを拡張的学習と呼んでいます。これは皆さんが全人類に成り代わってする学習です。何か新しいものを作り、可能性の世界を進み、その過程で人類の知識の総体を築き上げていくんです。そういった人類の知の総体を越えた限りない可能性の領域みたいなことを聞くと、そんなのは大型ハドロン衝突型加速器みたいなすごい装置を持っている人たちの仕事だと思いがちです。でもそのような活動は科学者だけでなく、みんなに開かれているんです。詩人や作詞家は、感情をこれまでにない独特な方法で表現します。大勢の人の生活を助けるすごいビジネスのアイデアを考え出すというのだってそうです。紙と粘土とテープを使って、古いテクノロジーから新しい洞察を見つけに行くことが出来ます。ラピッド・プロトタイピングについては分かったと思うので、みんながどんな物を作り出してくれるか楽しみにしています。どうもありがとう。

 

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オリジナル:  Tom Chi: Rapid prototyping Google Glass