18分で学ぶクリエイティビティ (TED Talks)

Tina Seelig / 青木靖 訳
2012年5月

なんて1日でしょう! ものすごいアイデアに溢れています。でもアイデアはどこから来るのでしょう? これは私がこの35年間取り組んできた疑問です。アイデアはどこから来るのか? 私は最初神経生理学者として、小さな細胞をさらに小さな電極でつついて、クリエイティビティやイノベーションについて何か教えてくれるか探っていました。博士課程を終えると、現実の世界におけるクリエイティビティを研究しようと、大小の企業で働き、さらには自分で会社を興し、この13年間はスタンフォードでクリエイティビティやイノベーションや起業について教えてきました。そして授業を通して学生達と数限りない実験をし、クリエイティビティの扉を開くのは何か突き止めようとしてきました。この何年かで気付いたのは、私たちのクリエイティビティに対する見方が狭すぎるということです。窓をもっと開いて、クリエイティビティを違った光に照らして見る必要があります。私は1つのモデルを作りました。すぐ後で説明しますが、クリエイティビティの扉を開くのに必要なもののすべてです。イノベーション・エンジンと私は呼んでいますが、これには2つの部分があります。内側は自分です。知識に想像力に姿勢。外側は周りの世界です。リソースに環境に文化。

では多くの人が始めるところから始めましょう。多くの人はクリエティピティというと想像力を考えます。そこから見ることにしましょう。想像力について残念なことは、学校では想像力を豊かにする方法を教えていないということです。面白いアイデアを考え出す力を高める方法はあるというのにです。どこが問題なのか見るには、幼稚園まで遡る必要があります。幼稚園で聞かれる質問はこのようなものです。「5+5は?」 答えは何でしょう? 10ですね。皆さん本当に頭がいいです。なぜ10だと分かるかというと、この問題の正しい答えは1つだけだからです。でもこの質問がもうちょっと違う形だったとしたらどうでしょう?「足すと10になる2つの数は何か?」 この問題に答えはいくつあるでしょう? 無限です。無数の答えがあります。これはすごく重要なことです。今日も何人もの講演者が触れていたことですが、質問の仕方で答えの形は決まるのです。問う質問が答えの収まる枠になるということです。たからよく考えて質問をしないと、面白い答えは得られないのです。コペルニクスの転回だって質問の枠組みを切り替えることでもたらされたのです。「もし地球が太陽系の中心でなかったとしたら? 太陽が中心だったら?」それが天文学の地平を開くことになりました。

でもこれはそんなに深刻にやる必要はありません。日常的にジョークを使って鍛えられるんです。ジョークの面白さの多くは、枠組みが途中で切り替わるところにあるからです。たとえばピンクパンサーの映画をご存知かもしれませんが、警部がホテルに入るとカーペットの上に犬がいるので、支配人に「あんたの犬は噛みつくかね?」と聞くと、「いいえ私の犬は噛みませんよ」と言います。でも先に進むと噛みつかれ、「いったいどういうことだ?」と聞くと、「それは私の犬じゃありません」と。(笑) どうですか? ジョークを聞いていると、ほとんどの場合どこかで枠組みが切り替わっています。ジョークを使って問題の見方の切り替えをとても楽しく練習できます。これが想像力を高める方法の1つです。

方法は他にもあります。重要な方法に、アイデアを繋げ組み合わせるというのがあります。発明の多くは、これまで一緒にされることのなかったものを、普通でない驚くような仕方で一緒にすることで生まれています。この練習をする私のお気に入りの方法は「珍道具」と呼ばれる日本の工芸です。珍道具は役立たずでない発明を生み出す庭です。有用ではありませんが、役立たずというわけでもありません。役立たずでないもの。本質的にこれは「確信はないけど、何かあるかもしれない」と表明する方法なのです。この例では靴に傘が付いています。あんまり実用的でないかもしれないけど、何か本当に面白いアイデアの扉を開いています。靴というと、もう1つ珍道具があります。ちっちゃなチリ取り付きスリッパ。これもあんまり実用的ではないかもしれないけど、面白いアイデアがそこにはあります。

ジョークは日常でインスピレーションを得るためにも使えます。私の好きなやつですが、ニューヨーカー誌を読む時は——みんなもきっとそうするでしょう——真っ先に後ろの表紙をめくって、漫画キャプション・コンテストを見るんです。漫画キャプション・コンテストではいつも予想外のものが一緒になっていて、スケールがおかしかったり、一緒にあるのが不思議なものが並んでいたりします。ここでの課題は、それらのものを面白く意外な方法で結び合わせるということです。この漫画のキャプションはこうです。「あなたにはここから始めてもらいます。経験を積んだらもっと責任を委ねますからね」。(笑) もちろん答えは他にも無数に考え出せます。

想像力を高める方法を2つ挙げましたが、もう1つ紹介したいものがあります。前提を疑うということです。私たちの大きな問題点は、質問され問題を与えられたときに、最初の正しい答えを出すということです。そうして出てくるのは少し改善するような解決法です。だから私のクリエイティビティの授業では、正解というのがない驚くような問題を出すんです。最近出した例ですが、これが課題の記述です。この問題は実際に大阪大学の学生に出したもので、ゴミ箱の中身から可能な限り価値あるものを生み出せ、というものです。価値の尺度はどのように決めても構いません。持ち時間は2時間です。皆さんならどうしますか? この課題が面白いのは——課題の枠組みについてはあらかじめよく考えたんですが——ゴミの価値は基本的にマイナスだということです。持って行ってもらうためにお金を払う必要があります。だから学生達はこのプロジェクトで、価値をどう定めるかという点に多くの時間を費やすことになりました。友情だとか、コミュニティだとか、健康だとか、経済的な保障などを考えました。ゴミから価値を生み出そうとする中で、あらゆるものがゴミ箱について考える方法を形作ることになったのです。私はハードルをさらに上げて挑戦しがいあるものにすることにしました。世界中の研究者仲間と連絡を取って彼らの学生にも同じ課題に取り組んでもらっている、と伝えたのです。ヨーロッパ、アジア、アメリカ、南米の学生が、同時に同じ課題に取り組みました。その結果として出来たものを2つご覧いただきましょう。エクアドルのグループは庭ゴミでいっぱいのゴミ箱で始めました。庭ゴミ? ゴミについて有無は言わせていないと思いますが、彼らがどれほど素晴らしいものを作ったか見てください。ゴミをきれいな壁飾りに変えたんです。アイルランドの女の子は、弟の靴下の引き出しから母親が間引いたゴミ箱いっぱいのボロ靴下を使って、黒、白、グレーと様々な色のがありましたが、切り取り、縫い合わせ、このセーターを作ったんです。素敵でしょう? 皆さんも後で靴下の引き出しを漁ってみるといいですよ。(笑)

想像力を鍛える3つの方法を紹介しました。問題の枠組みを変える、アイデアを繋ぎ合わせ・組み合わせる、前提を疑う。でもあいにくと、想像力だけでは足りません。イノベーション・エンジンの別の部分を見てみましょう。内側にある次の要素は知識です。知識は想像力のための道具箱です。今日は革新的な医療技術だとか自律走行車の話がありましたが、どうして彼らにそれが出来たのでしょう。そのようなアイデアの実現には医学や工学の深い知識が必要です。もちろん知識は学校や本から学ぶこともできます。でも物事を学び知識を得る最も強力な方法は、注意を払うということなんです。私たちの多くは周りのことに注意を払っていません。自分に解決できる問題を見落とすだけでなく、目の前に転がっている答えさえ見落とします。私が教える時よく使う方法は、何度も行ったことのある場所に学生を行かせ、そこを新鮮な目で見させるということです。そうしているのは私だけではありません。同僚のボブ・シーゲルの話をしましょう。ここスタンフォードの教授で、2年生向けの2週間のセミナーをやっていて、スタンフォード・サファリと呼んでいます。そこで学生は2週間、ダーウィンのように博物学者として振る舞います。ガラパゴス諸島の代わりにスタンフォードのキャンパスの中でやるんです。そしてスタンフォードに対する異なる視点を与えてくれるあらゆる人と話をします。整備係、害虫駆除係、司書、オルガン奏者、存命の歴代の学長たち。学生達はスタンフォードに対する深い理解を獲得するだけでなく、注意を払うことがいかに重要か気付くのです。

でも想像力と知識だけでは足りません。姿勢、マインドセット、モチベーション、気力が問題の解決には必要です。このモチベーションや気力がなければ、アイデアを繋ぎ合わせ組み合わせることもありません。問題の枠組みを変えることもありません。前提を疑って最初の正しい答えの先に行こうとすることもありません。残念ながら多くの人は、自分のことをパズルを解く人間のように見ています。明確に定義されたタスクがあって、ピースを全部はめればゴールです。でも、もしピースが1個か2個欠けていたとしたらどうなるでしょう? ゴールにはたどり着けません。真のイノベーターや起業家は、自分をキルト作りのように見ているんです。周りにあるあらゆるリソースを活用し、ゴミ箱のゴミすら役立てるのです。手に入るものは何でも使い、驚くようなものや素晴らしいものを作り上げます。これはとても重要なことです。何かすごいことをしようと思ったら、周りのリソースを活用する人間として、自分のことを見る必要があります。

これがクリエイティビティの内燃機関です。知識はクリエイティビティの道具箱であり、想像力は知識を新しいアイデアに変える触媒で、姿勢は物事を推し進める活力です。でもこれだけでは足りません。そしてそれはかくも多くのクリエイティブな人たちがその潜在能力を生かせずにいる理由です。彼らはそのような種類のイノベーションを育み、刺激し、勇気づけてくれる環境にいないのです。

ではイノベーション・エンジンの外側の部分を見てみましょう。まずは環境です。環境にはいくつかの要素があります。一緒に働く人々、ルール、報酬、制約、インセンティブ。しかしそれ以上に大事なものとして、物理的な空間があります。皆さんが幼稚園にいた頃を思い出してください。そこは刺激に満ちた環境で、みんなクリエイティブであることが当然とされていました。色とりどりで、手に取れるものが沢山あります。部屋の中の様々なものが動かせます。でも残念なことに、そのような環境を卒業して勉強しに行くのは、こんな場所です。(学校の教室の写真) 机は格子に並べられ、床にボルトで固定されています。他の子とおしゃべりしようものならトラブルに見舞われます。私は小学校時代をずっと「沈黙は金」と繰り返し書いて過ごしました。生徒達はもはやクリエイティブでなくなってしまい、みんなそのことを嘆いています。そしてそのような環境で成功した暁には、このような環境で働くのです。(パーティションの並んだオフィスの写真) みんな笑っているのは、あまりに馴染み深い話だからでしょう。このようなオフィスは、刑務所のような場所のためにデザインされています。このような環境で働く人はあまりクリエイティブにはなれず、みんなそのことでフラストレーションを感じています。私たちがいる空間というのはストーリーを語っているのです。あらゆる空間は私たちが人生を演じる舞台であり、私たちの役柄が何かを語っているのです。

幸運なことに私はd.schoolで教えていますが、これが授業風景です。幼稚園に戻ったように見えますが、実際には彼らはとても高度な問題に取り組んでいます。こちらの写真の学生もそうです。でも部屋は幼稚園みたいで、手に取れるものや試作品がたくさんあります。やりたいことに応じて5分ごとに場面を切り替えられる劇場みたいです。何も固定されてはいません。革新的な企業はこのことをよく分かっています。この写真はGoogleのチューリッヒ事業所です。こちらはPixar。これは不真面目ということではありません。これは会社が社員に送っているメッセージなのです。「ここではイノベーション、クリエイティビティ、遊びの価値を重んじている」。

でもこれだけでは足りません。環境中にあるリソースについても考える必要があります。リソースは実に様々な形を取って現れます。リソースというと私たちはお金のようなものばかり考えがちです。お金は確かに素晴らしいリソースで、ここスタンフォードやシリコンバレーでとても役に立っています。でもそれは沢山あるリソースの1つに過ぎません。天然資源に目を向ける必要があります。実施されているプロセスに目を向ける必要があります。築き上げられた文化に目を向ける必要があります。最近もこのようなものへの盲目を目にする機会がありました。チリの北部に行っていたんですが、まったく目を見張るような場所でした。延々と5千キロも続くビーチにアンデスの山々。だからアントファガスタの町の人たちに言ったんです。「あなた達の成功を阻むいったい何があるっていうの?」すると彼らは、「本当にひどい環境なんです」と言います。「本当にそう? 外を見てみた?」 彼らには見えてなかったんです。彼らは他所の人たちが持っているリソースを再現しようとしていて、彼ら自身の持つリソースには目を向けていませんでした。

これがその町の写真です。その場所の文化について考えてください。文化は重要です。文化はイノベーション・エンジンの最後のピースです。文化はバックグラウンド・ミュージックのようなものです。どんなコミュニティ、組織、チーム、家族でもそうです。それを示すため2つのビデオクリップをご覧に入れます。ビデオの音楽をその場面の文化だと思ってください。同じビデオを2回流します。1919年のコカコーラ工場の映像です。見てどう感じたか、そこにいたいと思うか、ビンの中に何が入っていそうか考えてみてください。

(軽快な音楽付きの映像)
“ビンは自動的にシロップフィルタへと運ばれる”
“衛生的で機械的な工程でシロップが注入される”
“炭酸水が加えられる”

では次を見てみましょう。

(陰鬱な音楽付きの映像)
“ビンは自動的にシロップフィルタへと運ばれる”
“衛生的で機械的な工程でシロップが注入される”
“炭酸水が加えられる”

言いたいこと分かりましたね?

これがイノベーション・エンジンの外側の部分です。内側と一緒にしてみましょう。こう思うかもしれません。「ティナそれは結構だけど、なんでメビウスの輪になっているの? 内側と外側があれはいいんじゃないの?」 これがメビウスの輪になっているのは、内側と外側が一緒に編み込まれているからです。切り離して見ることはできないのです。説明しましょう。ここでは「想像力」と「環境」が並んでいます。私たちの作る環境は、私たちの想像力が外に現れ出たものだからです。想像できるなら作ることができます。それに加え、私たちの作る環境は私たちの想像力、考え方、感じ方、行動の仕方に直接影響を及ぼします。同じことは「知識」と「リソース」にも言えます。知識があるほどリソースをより生かせるようになります。そしてどれだけの種類のリソースがあるかが私たちの知識を規定します。漁業について詳しいほど魚を沢山取れます。環境中に魚が沢山いるほど私たちの漁業の知識も増えます。これは「姿勢」と「文化」についても言えます。コミュニティの人々の姿勢の集積が文化であり、文化は個々人の考え方に影響を与えます。

このイノベーション・エンジンのメビウスの輪が素晴らしいのは、とても強力で、どこからでも始められるということです。組織のマネージャなら、文化について考え、文化を方向付けることができます。想像力を刺激する環境を作れます。個人なら自分の知識の基礎を築くところから始めることができます。問題を解決するための情熱や姿勢から取りかかることもできます。イノベーションを進めるためにどこから始めてもいいのです。一番重要なのは、1人ひとりがイノベーション・エンジンの鍵を握っているということです。スイッチを入れるかどうかは彼ら自身にかかっているのです。どうもありがとう。(拍手)

 

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オリジナル:  Tina Seelig: A crash course in creativity