オープンデータとマッシュアップで変わる世界 (TED Talks)

Tim Berners-Lee / 青木靖 訳
2010年2月

去年私はこのTEDの場で、データを公開してください、Webに上げてくださいとお願いしました。政府のデータ、科学データ、コミュニティのデータ、どんなデータであれ、みんながWebで公開すれば、他の人がそれを使って、以前には想像もできなかった素晴らしいことをするだろうと。

だから今日はみなさんにご報告するために戻ってきました。実際、現在世界中でオープンデータ運動が進行しています。あの講堂でみなさんにしていただいた、「生のデータを今すぐに」という叫びは、世界中の人々の耳に届きました。映像をちょっとご覧いただきましょう。

典型的な例で、たくさんの人に取り上げられた最初のものですが、3月10日、TEDのすぐ後にイギリス政府のポール・クラークが、「ああ、そういえば生のデータがあるんだった。自転車事故のデータだ」とブログに書きました。たった2日で、Times Onlineがそれを地図にしました。こういうのをマッシュアップと呼んでいます。みんなこれを見て、自分の自転車ルートが問題ないか確認できます。こちらは交通量調査のデータで、これもまたイギリス政府が公開したもので、Linked Data標準に従った形式で公開されたため、利用者はクリックだけで地図を作ることができました。

データによって何か変わるのでしょうか? 2008年のオハイオ州ゼーンズビルでのことです。これはある弁護士が作った地図で、どこに家があり、そのどれが水道に繋がっているかを表しています。それらから彼は別なデータソースから、白人が住んでいるのはどの家かという情報を手に入れました。そして白人が住む家と水道のある家との間に、到底偶然とは思えない相関があるのを認めました。裁判官もこれには感心しなかったようです。1,090万ドルの賠償を命じたのです。これがデータを別なデータと結び合わせて見ることの効果なのです。

イギリスの例を少し見てみましょう。政府データがある独立サイトにあります。「私のお金は何に使われているの?」(Where Does My Money Go)というサイトです。誰でもデータを掘り下げて見ることができます。特定の支出について掘り下げることもできるし、いろんな地域を比較することもできます。これはイギリスで起きていること、イギリス政府のデータです。もちろん、ここアメリカにだってあります。

こちらではカリフォルニアで経済回復に向けて行われた支出を見ることができます。好きな場所、たとえばロングビーチを選んで、エネルギー等のそれぞれの用途に、回復に向けた投資がどれくらい使われているかがわかります。

このグラフは米政府(data.gov)と英政府(data.gov.uk)それぞれのリポジトリにあるデータセットの数を表したものです。青のイギリスと赤のアメリカがいい勝負をしているのをとても嬉しく思います。

これはどう使えるのでしょう? たとえば郵便番号で指定されるような区域についてデータが十分にあるなら、特定の区域限定の、バス停や周辺地域といったすごくローカルな情報が載っている増補版の新聞を作ることだってできます。

もっと大きなスケールでは、アフガニスタンの大統領選について公開されたデータのマッシュアップがあります。どんなことを見たいか、自分で条件を設定できます。赤い円で示される投票所が表示されるように指定しました。それに危険度レベルといった別な要因を重ねて見ることができます。

政府のデータをご紹介しましたが、コミュニティのデータも取り上げましょう。これは私が編集したWikiマップです。この「テラス劇場」というのは、去年のTED以前には地図になくて、私が書き込んだのでした。オープンストリートマップを編集しているのは私だけではありません。ITO Worldによって可視化されたこのイメージ上で光っている部分は、2009年にオープンストリートマップで行われた編集を表しています。地球を回してみましょう。それぞれの光が編集を表しています。どこかで誰かがオープンストリートマップを見て、改善できる点に気付いたのです。ヨーロッパは更新で明るく輝いています。一方で場所によっては、そうあるべきほど明るくありません。

ハイチに注目してみましょう。2009年末のポルトープランスの地図は、カリフォルニアの地図みたいに詳しいものではありませんでした。幸い、地震の直後にGeoEyeという会社が衛星画像を公開し、オープンソースコミュニティが利用できるライセンスを付けました。これは1月の時間の経過です。地震が起き、その直後から、 力になりたいという世界中の人々が集まり、その衛星画像を見て速やかに地図を作り上げたのです。

これはポルトープランスです。青は難民キャンプで、ボランティアが衛星写真で見つけました。こうして難民キャンプの場所を示した地図があっという間にできあがりました。救援活動をする人にとって最高の地図です。レスキューチームが使うGPSデバイスに表示されているのがわかります。それからハイチの地図の左手に病院船があるのもわかります。通れない道路や、損傷した建物や、難民キャンプの、現時点の情報がここにあり、必要なものが図示されています。

ですからどんな形であれ、何かしていただいている方々、生のデータから図表を作っている方、政府データや科学データをネットに公開している方、皆さんに、この場を借りてお礼を申し上げたい。我々はまだ第一歩を踏み出したばかりです。

 

データ

マッシュアップした人

自転車事故

Direct.gov.uk
 

timesonline.co.uk

交通量調査

data.gov.uk

Nigel Shadbolt, Tabulator

ゼーンズビルの水道

Zanesville town; CGISC

Cedar Grove Institute for Sustainable Communities (CGISC)

WhereDoesMyMoneyGo

(H.M. Treasury) Public Expenditure Statistical Analysis

Open Knowledge Foundation

政府データ数のチャート

Cabinet Office open data team; Li Ding/RPI.

Tim BL

郵便番号別新聞

data.gov.uk

newspaperclub.co.uk

アフガニスタン大統領選挙

Afghanistan’s Independent Election Commission

National Democratic Institute

OpenStreetMapの編集アニメーション

OpenStreetMap.org

Chris Osborne, Hal Bertram, ITO World

地震前のポルトープランスの地図

(cc BY) Mikel Maron

GPSデバイス上のOpenStreetMap

Fairfax County Urban Search and Rescue Team, via Harry Wood

ハイチ緊急対応地図

Contributors to openstreetmap.org

Haiti.openstreetmap.nl

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた久島昌弘氏に感謝します。]

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オリジナル: Tim Berners-Lee: The year open data went worldwide