世界を覆うゲームレイヤを作る (TEDTalks)

Seth Priebatsch / 青木靖 訳
2010年7月
 

ソーシャルネットワークレイヤの次にくるゲームレイヤ

私はセス・プリーバッチ、SCVNGR社の「チーフニンジャ」です。プリンストンを落ちこぼれ、故郷のボストンに帰ってきたのが私の誇りです。イェーイ、ボストン! いいですね。行ったことのある土地の名前を全部挙げましょうか? 世界を覆うゲームのレイヤを築くことに私は賭けています。新しい概念で、非常に重要なものです。これまでの10年はソーシャルな10年で、他の人たちと繋がるためのフレームワークが構築されましたが、これからの10年はゲームのフレームワークが築かれ、その力にみんなの行動が影響を受け、どのフレームワークが勝つかが決まるとても重要な時です。

世界を覆うゲームのレイヤを構築したいと言いましたが、正確ではありません。なぜなら既に構築中だからです。今はこんな感じです。1997年頃のWebみたいですね。ゴチャゴチャして良くありません。バラバラなものがたくさんあるだけで、楽しくありません。クレジットカード方式、航空会社のマイレージプログラム、クーポンカード。これらのロイヤリティ方式は、ゲームのダイナミクスを使い、ゲームのレイヤを形作っていますが、最低なものです。良いデザインではありません。残念なことです。でも幸いなことに、私の大好きなヒーロー、『ボブとはたらくブーブーズ』が言うように、「僕達ならもっと良いものを作れる」のです。私達がゲームのレイヤを構築する道具は、ゲームのダイナミクス自体です。なのでこの講演の要点は4つの重要なゲームダイナミクスの紹介になります。うまく使えば行動に影響を与えることができます。良い影響でも、悪い影響でも、その中間でも。望んでいるのは良い影響です。今はフレームワークが構築される大切な段階なので、皆さんに意識的に考えて欲しいのです。

その話に入る前に、なぜ重要なのか説明しましょう。私の主張は、世界を覆うゲームのレイヤがあり、それを適切に構築することが大切だということです。それが大切な理由は、この10年で私達が目にしたように、繋がりのフレームワークであるソーシャルなレイヤが作られ、そしてレイヤの構築が完成したということです。まだまだ探求できる部分はあり、ソーシャル性はどう使えるかと試みている人はたくさんいます。でもフレームワーク自体はもうできあがり、それはFacebookと呼ばれています。問題ありませんよね? 多くの人がFacebookに満足しています。私もすごく好きです。FacebookはOpen Graphを作り、私達のネットワークをすべて押えています。5億の人々を取り込んでいます。だからソーシャルレイヤで何かやろうと思ったらフレームワークはもう決まっています。Open Graph APIです。それが気に入れば素晴しいし、気に入らなければお気の毒様。それについてできることはないのです。

でもこれからの10年は違います。リアルなものになります。私達はみんなに受け入れられる、生産性をもたらすものとしてのフレームワークを作りたいと思っています。ソーシャルレイヤは繋がりがすべてです。ゲームレイヤは影響力に関わるものです。どこにいようと、他の人と繋がれるようWebにソーシャルな網の目をかぶせようというのではありません。どこで何をどうするかという行動に影響を与えるためにダイナミクスを使うのです。これは非常に強力で、ソーシャルレイヤよりも重要になるでしょう。目に付かずに、より深く私たちの生活に影響を与えることでしょう。だから今という時はものすごく重要なのです。FacebookやOpen Graphに相当するゲームレイヤのフレームワークが出来つつあり、私達はそれを意識的に考えて、オープンでみんなが利用でき、良いことに活用できるものにしたいのです。

それがゲームダイナミクスについてお話ししたい理由です。構築は始まったばかりで、より意識的に考えられるほど、望み通りに使えるようになるはずだからです。ゲームレイヤを構築する際に使用するのはガラスや鉄やセメントではありません。私達が使うリソースは2次元の空き地ではありません。リソースはマインドシェアであり、道具はゲームのダイナミクスです。ゲームのダイナミクスをいくつかご紹介します。4つあります。SCVNGRでは7つ使えば誰にでも何でもさせられると言っていますが、今日は4つだけお教えします。これが終わった後も競争優位を残しておきたいので。(笑) [訳注 SCVNGRに関するTechCrunchの記事には47のダイナミクスが挙げられている。]

アポイントダイナミクス

最初のはとてもシンプルな「アポイントダイナミクス」です。これを成功させるには、プレーヤーは決まった時間に決まった場所で何かする必要があります。これは少し怖く思えることもあります。何をいつどこでするかという自分の振舞いを、他の人が力を使って操作することになるからです。ゲームの中で自由意志を失うというのは怖いことであり得ます。各ダイナミクスの例を3つずつ挙げます。1つは既に現実社会でどう使われているかを示す例で、合理的に理解できると思います。1つは従来的なゲームに見られる例です。全てはゲームだと思いますが、これはボードゲームやコンピュータでやるような狭義のゲームです。そしてもう1つは良いことに使う例です。強力なことがお分かりいただけると思います。

最初の例はアポイントダイナミクスの中でも特に有名な「サービスタイム」です。私は最近プリンストンをドロップアウトして、初めてバーという場所に行くことになったのですが、このサービスタイムを到る所で目にしました。これはまさにアポイントダイナミクスです。飲み物が半額になるんですが、しかるべき時にしかるべき場所に行く必要があります。このゲームダイナミクスはとても強力で、私達の行動だけでなく文化全体に影響を及ぼしています。1つのゲームダイナミクスが物事をそんなに変えてしまうのは、ちょっと怖い気がします。

これは普通のゲームにも見られます。FarmVilleはお聞きになったことがあるでしょう。もしなければやってみるといいですよ。その日は他のことが何も出来なくなります。FarmVilleのアクティブユーザ数はTwitterよりも多いのです。ものすごく強力なダイナミクスがあって、仮想の作物なんですが、特定の時間に水をやりに戻らないと、枯れてしまいます。これはとても強力で、彼らがデータをいじって、あなたの作物が枯れるまであと8時間とか、6時間とか、24時間と言うだけで、7千万人のその日の生活サイクルを変えてしまうことになるのです。ユーザは機械仕掛けのようにその時間に戻ってきます。FarmVilleが世界の生産活動を止めてしまえと思ったら、そのサイクルを30分にすれば良いのです。誰も何も出来なくなります。(笑) ちょっと怖いですよね。

しかしこれは良いことにも使えます。ボストンのVitalityという会社では、薬を飲み忘れないための製品を作っています。これもアポイントの一種です。人がなかなかうまくできないことです。このGlowCapsという製品は、薬を飲むよう促すため、光ったりメールを送ったりあらゆることをします。これは一歩進めてゲームにするべきでしょう。時間通りに飲んだらポイントがもらえ、やり忘れたらポイントが減るという具合に。アポイントダイナミクスを認識して、もっとゲーム性を生かすべきです。そうすれば良いことを面白いやり方で実現できます。

影響力とステータス

次のダイナミクスに移りましょう。「影響力とステータス」です。これは最もよく知られたゲームダイナミクスでしょう。あらゆるところで使われています。皆さんのお財布の中にもあります。一番右にある黒いクレジットカードが欲しいですよね。誰かがCVSで…じゃないや、CD(クリスチャンディオール)で…知りませんけど…私のは黒くないデビッドカードですから。(笑) そこでサッと取り出すんです。あの黒いカードを。私もあれが欲しいです。そういうのってカッコイイですから。

これはゲームでも使われています。「モダンウォーフェア」は歴代で最もよく売れたゲームの1つです。私はレベル4ですが、すごくレベル10になりたいです。あのいかした赤いバッジを付けて、みんなより優れてるんだぜって見せつけてやりたい。すごい魅力です。ステータスというのは強い動機づけになるんです。

もっと従来的な状況でも使われていますが、実際もっと意識的に使えると思います。大学は…私も1年間はいたので、大学の話をする権利があると思いますが…大学というのはゲームなんです。あまり良いデザインではありませんが。レベルがあります。CとかBとかAとか。それにステータスも。あの「卒業生総代」っそうじゃないですか? 総代なんかじゃなくて「白騎士パラディン レベル20」にしたら、きっとみんなずっと熱心にやると思います。(笑) だから大学というのもゲームで、どうやればいいかいろいろと実験もされていますが、もっと意識的にやるべきでしょう。なぜ負けるゲームがあるのか? なぜAからFやBやCになってしまうんでしょう? 最悪です。なんでレベルアップじゃないのか? プリンストンでは実際に実験しています。テストを受けると経験値が得られ、BからAにレベルアップできるんです。これはとても強力です。面白いやり方で使うことができるんです。

進捗ダイナミクス

3番目は「進捗ダイナミクス」で、前進するというものです。はっきりした段階を踏んで進まなければなりません。LinkedInをはじめ、至る所で使われています。LinkedInで私はまだ半人前で、プロフィールが85%しか完了しておらず、気になります。これは私達の心理に深く染みついています。プログレスバーと、それを100%にする簡単ではっきりした手順が示されると、それに従わなきゃという気がします。あの青い棒を画面の右端まで持っていくための方法を探すのです。

これは従来のゲームでも使われています。写真はレベル10のパラディンとレベル20のパラディンです。モルドールのオークやラーズ・アル・グールと戦うことになったら、強い方でやりたいですよね? だからみんな、せっせとレベルアップするわけです。World of Warcraft (WoW)は史上最も成功したゲームの1つです。平均的なプレーヤーは1日に6時間半プレーします。最も熱心なプレーヤーだと、それが本職みたいになります。正気じゃないですよね。そしてWoWにはレベルアップのシステムがあります。進捗ダイナミクスというのはすごく強力なんです。

これは良いことを強く促す方法としても使えます。地元にトラフィックやビジネスを導くためゲームがどう使えるかということにSCVNGR社では取り組んでいます。これは地域経済にとって鍵になることです。これがそのゲームで、ある場所に行って課題に取り組むと、ポイントが貰えます。進捗ダイナミクスをそこに導入しています。同じ場所に繰り返し行き、何度も課題をやって参加を深めると、緑色のバーが画面の左端から右端へと伸びていき、最後にご褒美がもらえます。これは強力で、みんながこのダイナミクスに夢中になっているのが分かります。人々を地元のビジネスへと引き寄せ、大きな忠誠心を作り出し、参加を促し、ビジネスに大きな収入と楽しみと参加をもたらすことができます。この進捗ダイナミクスは強力で、現実の世界で使うことができるのです。

共同的発見

最後にご紹介するのは、それに相応しいすごいものなんですが、「共同的発見」という概念です。何かを達成するためにみんなで一緒に働くというダイナミクスです。共同的発見は問題解決のために社会というネットワークを活用する点で強力です。これはDiggのようなある種の人気のあるコンシューマ向けのWebサイトで使われています。Diggは共同ダイナミクスにより一番面白いニュースを見つけ出そうとしています。Diggは当初これをゲームにしていました。スコアボードを作り、一番良いニュースを見つけた人がポイントを手にします。これは良いニュースを見つける動機づけになります。しかしあまりに強力だったため、徒党を組む人たちが現れ、スコアボード上位の7人が協力してランクを維持し続けようとしました。彼らは互いに仲間のニュースを推奨します。ゲームが本来の目的よりも強力になり、Diggはスコアボードを廃止しました。スコアボードがあると、それが強力すぎて最高のニュースを紹介するよりも自分のランク維持に努めるようになるからです。だからこのダイナミクスは注意して使う必要があります。

これはまたマクドナルドの「モノポリー」キャンペーンにも使われています。ちょっとした組織を作った人々が、高額賞金の当たる「ボードウォーク」シールをひたすら探し求めています。

しかしこれは現実のことにも使えます。写真はDARPAのバルーンチャレンジです。アメリカ全土に10個の風船を隠して、「ネットワークを使って風船を最初に見つけた人に賞金4万ドルを出す」と言ったのです。優勝したのはMITのチームで、一種のネズミ講方式を使い、風船の場所を知らせた人には2千ドル出しますが、その人まで情報を伝えた人たちもまたお金を一部もらえるのです。12時間で彼らはアメリカ中に散らばる風船を全部見つけることができました。本当に強力なダイナミクスです。

残り20秒になりましたので最後のまとめをしましょう。この10年はソーシャルの10年でした。次の10年はゲームの10年です。ゲームのダイナミクスを使いマインドシェアで構築します。行動に影響を与えることができます。とても強力でワクワクします。みんなで一緒に作りましょう。うまくやって楽しみましょう。

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたWataru Narita氏に感謝します。]

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オリジナル:  Seth Priebatsch: The game layer on top of the world