子供の夢を奪う学校というシステム

Seth Godin / 青木靖 訳
2012年9月 (TEDxYouth@BFS 2012)

皆さん、お早うございます。(聴衆からあいまいな返事) 聞こえませんね。挨拶のしかたは小さな頃から習ってるはずです。「ゴ—ディンさんおはようございます」って言うんでしょ? もう一度やりましょう。皆さん、お早うございます。(聴衆「ゴーディンさん、おはようございます」) これが何のためか考えたことありますか? どうやって150年の間にこれが公教育に浸透したのか、考えたことはありますか? 学校を再び役立つものにしようと活動している人たちのように、根本的な問について考えたことはありますか?「学校は何のためにあるのか?」 私達はこの質問に答えていないし、問いかけてすらいないと思います。みんな学校は何のためにあるのか分かっている風ですが、どうしてここに至ったのか、どこへ向かっているのか、みんなが同意するまでは、何も起こせはしないでしょう。だから私の今日の目標は、この質問を皆さんの頭の中に入れて考えてもらうということです。

はじめに学校がかつてどういうものだったか理解する必要があります。メアリー・エベレスト・ブールという19世紀後半の女性数学者がいるんですが、彼女は紐と釘と木を使って紐を張り巡らせた装飾で数学を表現できると考えました。進んだ5年生の数学の先生なら、9で割った余りや張り巡らせた紐を使って重要な数学の考え方を教えようと思うかもしれません。それで私の子供の通う公立校で親に連絡が来ました。「こういうことをするのでハンマーを用意してください」と。それで私がかり出され、学校に行ったんです。ハンマーが18本入った大きな袋をかついで。皆さん聞いたことありますか? 18人の生徒が18本のハンマーを手に小さな部屋で20分間釘を打つというのを? 私は聞きました。ここではやりませんよ、耳が痛くなるので。先生が生徒たちに言ったのは、釘がみんな決まった形にきちんと並んでなきゃいけない、ということでした。トンカン、トンカン、きれいにしっかり打ちましょう。それで生徒達は20分間ひらすら釘を打ちます。何を学ぶこともなく、20分ただ釘を打つんです。それから先生が見て回り、子供に言うんです。「釘を奥まですっかり打ち込むように言ったでしょ!」そして釘を1本1本すべて引き抜いては放り出し、板を床に投げ出すんです。先生はそれが教育なんだと思っていたんです。学校は服従を教え込む場所なのだと。「皆さん、お早うございます」。1日を敬意と服従で始めるわけです。

次にフレデリック・ケリーの話です。小テスト用に今日HB鉛筆を持ってきている人もいるでしょう。HBの鉛筆がよく知られているのはフレデリック・ケリーのおかげです。第一次世界大戦の頃に起きた問題ですが、教育が中高まで拡張されたため、生徒数が急に増えて、整理する必要が生じました。それで彼が標準テストをつくり、嫌悪が生み出されました。10年後危機が去ったとき、彼はそれを終わらせようとしました。標準テストは残酷すぎると。しかしそのために彼は大学学長の職を追われることになりました。機能していたシステムに異を唱えたからです。

ここで1つ実験をしてみましょう。みんな出来るだけ高く右手を挙げてもらえますか? もうちょっと高く。フームどういうことなんだ?(笑) 私は明確に指示したのに、みんな力を加減しましたね? どうしてか? それはみんな3歳の時から少し加減することを学んできたからです。もし全力を出してしまったら、親や先生やコーチや上司がもっと頑張れと言うのが分かっているからです。(笑) なぜ彼らがそう言うかというと、それは私達が工業時代の産物だからです。

工業化時代はみんなを豊かにしました。工業化時代は生産性をもたらしました。上司やマネージャの下で一緒に働くことで、単独の時よりも多く作れるようになりました。1920年に70万ドルした車が700ドルで作れるようになりました。しかし生産性や工業化は良いことばかりではありません。工場を経営する人が抱える大きな問題が2つあります。第1の問題。辺りを見回して彼らは言います。「労働者が足りない。工場に来てこの暗い建物の中で1日12時間、週6日言われた通りに働き続ける人間が十分にいない。労働者になる人間がもっといれば賃金を下げられる。賃金を下げられれば我々はもっと儲けられる。労働者がもっと必要だ!」。それでKKKが実業家のところに行って言うんです。「あなた方が1日3ドルで働かせているあの子供達は工場に置いていてはならない。我々の仕事を奪っているから」。それで取引が行われました。万人への公教育です。その目的は明日の学者を育てることではありません。学者ならたくさんいます。公教育の目的は人を工場で働くよう訓練すること、従順に従い適合する人間を育てることです。丸1年処理してもし欠陥があれば、留めてもう一度処理をやり直します。学校はみんなを列に並ばせるでしょ、工場でやるように。交換可能な人間を生むシステムを我々は作ったのです。工場は交換可能な部品を基礎にしているからです。部品がまずければ別のと差し替えます。あの小さな箱がたくさん描かれた組織図があるのも、「今日はレイチェルが休んでるからボブを代わりに入れよう」とやるためです。そうやって学校はできたんです。それが学校の目的でした。

実業家がとても心配した2番目の問題は、作ったものが買ってもらえないことです。1880年、1890年には、みんな靴2足とズボン1本くらいしか持っていませんでした。今時ズボン1本しか持ってない人なんていないでしょう。彼らが人々に覚えさせる必要があったのは、物を買うということです。みんなが適合するように、みんなが消費者になるように、教え込む必要がありました。

ホーレス・マンが今日の公立校を作ったのは良かれと思ってのことでした。するともっと教師が必要になります。それで教師のための学校を作りました。それが何と呼ばれたか知ってますか?「ノーマル・スクール」です。通常の学校で教える人を訓練する学校をノーマル・スクールと呼んだのは、みんながノーマルになり、学級がノーマルになり、人々が適合的になることを望んだからです。

そしてこれ、教科書を作りました。人を何かに夢中になるようにさせたいと思ったら——たとえばアメリカ史に——こんなもの使いますか?(笑) 誰か大きな本屋に行って言うでしょうか?「あの流行ってるやつにすごく興味があって、南北戦争にすっかり夢中なんです。教科書は置いてますか?」誰かを野球ファンにしたいと思ったら野球の歴史から始めるでしょうか? アブナー・ダブルデイが誰で、地方巡業とはどんなもので、クリケットや商業主義がどう影響し、ニグロリーグとは何かを教えようとしますか? 「明日テストをします。上位50位のバッターを打率順に覚えておくように」と言って、みんながもっと暗記するように、テストの点で順位を付けたりしますか? そうやって野球ファンができるものでしょうか?

ひとつ大きな違いがあります。人が自然にすることは、仕事ならできるだけ少なくやろうとし、アートならもっとたくさんやろうとするということです。子供に服従をたたき込むために作られた学校という名の工場に子供を入れる時、子供が「テストに出るか?」ばかり気にするのも不思議ではないでしょう。アートをやっている人が「今月は描くのを1枚減らしてもいいですか?」なんて聞きません。「今月は作曲するのを1曲減らしてもいいですか?」なんて聞きません。「今月は感動させる人を1人減らしてもいいですか?」なんて聞きません。アートでは人はもっとやりたいと思います。しかし仕事や作業や7歳児なら、やることを減らしたいと思います。

それで私が1つの例証としてやっているのは、人に会った時にこれを取り出して——ネットで安売りしてたんですが——中に積み木が詰まっています。積み木は見たことがあるでしょう。出してみましょう。それで言うんです。「積み木を4つ使って何か面白いものを作ってください」。これは面白い質問です。文字にしてもいいし、形にしてもいいし、言葉を作ってもいいし、汚い言葉にしたっていいし、無意味な言葉にしてもいいんです。橋の形にしてもいい。そしてみんなそういうのが嫌いなんです。正しい答えというのがなくて、何百万という間違った答えがあるから。そして『30代のための積み木で面白いものを作る入門書』というのもないからです。

私たちは分かれ道に立っています。文化が言うところでは、私たちの気にかけることは、道を渡って行きたいと思う場所は、買いたい物は、投票したい人は、話題にしたいと思うことは、面白いことであり、アートであり、新しいもの、感動させるもの、価値あるものです。それでいて、膨大な金と時間を費やしてそれをしないよう人々に教えているんです。

私たちが立っているのはまたテクノロジーの分岐点でもあります。テクノロジーによって歴史上初めて、平方根を教えるのに人間が横に立っている必要がなくなりました。歴史上初めて、斧の研ぎ方を教えるのに人間を必要としなくなったのです。インターネットがみんなを繋ぎ合わせているからです。だからこの質問に答えたいと思うなら——まあ答えたくなかったとしても——すべてを変えることになる8つのことをお教えします。

1番目 — サルマン・カーンが言うように、宿題を日中にやって講義を夜にやること。学びたいどんなことでもインターネットを使える人なら誰にでも世界的な講師が無料で教えてくれます。そして日中には人間の教師と顔を合わせて質問をし、宿題を解き、探求するのです。国中で1日何万回も同じ講義を手作りで与えるなんて馬鹿げています。1人の人間が聞きたい人には誰にでも教えられるというのに。

2番目 — 本やノートはいつも開いておくこと。暗記することに価値はありません。暗記しなくとも検索すれば済むことです。何かを暗記させようと時間を使うべきではありません。

3番目 — 世界のどの授業であれいつでも好きな時に受ければいい。特定の順序でやらなければならないという考えは地理的・時間的制約によるもので、もはや意味がありません。

4番目 — 教育を大量バッチ生産式ではなく個別的に行うこと。今では買う物はみんなそうなっているでしょう? 昔は言ったものです。「何色の車でもお選びいただけます — 黒でさえあれば」。組み立てラインでそれしか作れなかったからです。今では何万種という車が作れるようになりました。教育だって何万種あってしかるべきです。

多岐選択式試験は不要です。あれは採点を簡単にするためで、今のコンピュータはもっと賢くなっています。テストの点ではなく経験を評価すべきです。それが我々の気にかけるものだからです。

成果としての従順の終わりです。履歴書というのは、何年にも渡って特定のブランドに従順に従ってきた証明であり、それが次の仕事に繋がりました。いまやそんなものは無意味です。

そして孤立でなく協力すること。どうして学校では独力でやるように求め、それから実社会に出ると「協力しろ」と言うんでしょう。

あと4つあります。教師の役割はコーチに変わります。生涯働きながら学び、早い時期から仕事を始めます。

そして非常に大きいのは、有名大学の終わりです。良い大学ではありません。良い大学が何か私たちは知りませんが、有名な大学は知っています。有名な大学をランク付けしたり、有名なフットボールチームを持っているためです。どうして服従し従順になるために高いお金を払い大きな努力をするのでしょう? 有名なブランドを手に入れるためですが、それは後の人生の成功とも幸福とも無関係です。

もう1つお見せしたいものがあります。Arduinoと言って、Raspberry Piと似ています。どちらも$20〜30の電子装置です。$25で買えるRaspberry Piは、完全なLinuxオペレーティングシステム、USBポート、音声出力、ビデオ出力を備えています。あとはケーブルとキーボードとモニタがあるなら——それは今時の子供はみんな持っているでしょう——これを渡して言ってやることができます。「それで何か面白いものを作ってご覧。分からないことがあれば質問して」

子供達には何か面白いことをやってほしいとは思いませんか? 子供達に探求することを教えたくはないですか? ところが私たちは毎日子供を学校に送っては言っているんです。「探求するな」「私が知らないことを質問するな」「調べるな」「カリキュラムからはずれるな」。そしてとてもとても従順で適合し、他の人と同じようにし、言われた通りにするよう教えています。機械的に処理できるように。評価はもっぱら機械的処理にはまるかどうかにかかっています。

あと2つの嘘について話して終わりにしましょう。我々は自分に正直になる必要があります。第1の嘘は「学校での優れた成績は幸福と成功につながる」。本当ではないことを自分に言い続けるのはやめる必要があります。第2の嘘は「学校で成功できるのは良い家庭の子供だ」。本当でないことを自分に言い続けるのはやめる必要があります。

子供に点を集めるように言うのか、点を繋ぐように言うのか? いくつ点を集めたか計るのは簡単です。事実をいくつ暗記したか? いくつの箱を埋めたか? しかし点をどう繋ぐかについては何も教えていません。点の繋ぎ方をマニュアルで教えることはできません。点の繋ぎ方を教科書で教えることはできません。子供達を失敗しうる状況に置く以外に教える方法はないのです。

成績は幻想です。情熱と洞察力こそが現実です。正答に合っていることよりも自分でやり遂げることに価値があります。疑わしい権威に対して自分を保つことは貴重なことです。弾圧されていますが。短期的戦略に適合することではどこへもたどり着きません。突出する勇気を持って結果を出すことこそ、長期的な戦略です。批判をあえて受けられるほど自分の仕事にこだわりを持っているなら、いい仕事をしたと言えるでしょう。

それではいったい何を我々はすべきでしょう? 話はもう十分しました。するのはたった1つのこと、問うことです。「学校は何のためにあるのか?」これが新しい教科書だと言われたら、「学校の目的のためにそれは役に立つのか?」と問うことです。この人が新しい校長先生ですと言われたら、「学校の目的のためにその人は役に立つのか?」と問うことです。もし学校が何のためか分からなければ、それについて議論することです。学校の目的に合意できるまで、我々が必要なものを得られることはないからです。どうもありがとう。(拍手)

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたClaire Ghyselen氏に感謝します。]

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オリジナル:  STOP STEALING DREAMS: Seth Godin at TEDxYouth@BFS