もしも〜なら? と問うコミック

Randall Munroe / 青木靖 訳
2014年3月 (TED2014)

私のウェブサイトには、毎週みんなの送ってくる仮定上の質問に私が答えるというコーナーがありまして、数学と科学とコミックを使って回答を試みています。たとえばこんな質問をした人がいました。「光速の90%のスピードで投げられたボールをバットで打とうとしたらどうなるか?」それでちょっと計算してみました。通常空気中を物体が進む時には空気は物体の周りを流れますが、今の場合ボールがあまりに速いため空気の分子によける時間がなく、ボールは真っ正面からその中に突っ込むことになり、空気の分子との衝突によってボールから窒素や炭素や水素といったものがはじき出されてちりぢりの小さな粒子となり、周りの空気に熱核融合を引き起こします。これにより大量のX線の波がその他の粒子とともに放出され、内部がプラズマ状態のドームがピッチャーマウンドを中心に広がっていきます。これはバッターに向けてボールより少しだけ速く進みます。この絵は30ナノ秒後の状態で、ホームプレートへ光が到達する前であるため、バッターが見ているのはまだボールを投げようとしているピッチャーの姿で、何かまずいことになっていようとは気付いていません。(笑)

70ナノ秒後にホームプレートにボールが——というより、かつてボールだった拡大するプラズマの雲が到達し、そこにあるものを飲み込みます。バットと、バッターと、ホームプレートと、キャッチャーと、アンパイヤを。そしてそれらすべてを崩壊させつつ後方のバックネットの方へと押しやり、それをも崩壊させます。だからこれをどこかの高見から、望ましくは遙か彼方から見ていたなら、数秒続く明るい閃光と、それに続く爆風が球場から広がりながら木々や家々をバラバラにしていき、最後に壊滅した都市の上空にキノコ雲が立ち上るのを目にすることになるでしょう。(笑)

野球のルールには少し曖昧なところがありますが、公式規則の6条2項と5条9項により、このような状況においては投球がバッターに当たったと見なされ、一塁への進塁が認められるでしょう。まだ存在すればの話ですが。

私が答えているのはこのような質問です。奇妙な質問がたくさん寄せられます。ある人などは「科学的に言って体を隠す最速最善の方法は何か?」と聞きました。すぐに答えが欲しいと。こう書いてきた人もいます。「恋に破れた後再び恋を見つけることは可能か不可能か示せるか?」中には明らかに宿題と思われるものを解かせようとする人もいます。

2ヶ月ほど前に受け取った質問はGoogleに関するものでした。「世界のデジタル情報がすべてパンチカードに記録されていたなら、Googleの倉庫はどれくらいの大きさになるか?」Googleはその運営の中身についてはすごく秘密主義で、Googleが実際どれだけのデータを持っているのか、データセンターがいくつあるのか誰も知りません。Googleで働いている人を別にすると。私は彼らに会って聞き出そうと試みたこともありますが、何も明かしてくれません。それで自分で解くことにしました。私が目を向けたものがいくつかありますが、まずお金から始めました。上場企業はどれだけ支出したか明かさなければならないので、それがデータセンターをどれだけ作れるか上限を定めることになります。大きなデータセンターにはお金がかかるからです。

世界のハードディスク売上げに占める割合から上限を定めることもできます。実はこれがかなり大きなものになります。どこかで読んだんですが、Googleでは1、2分に1度ディスク障害が起き、そうするとそのディスクは捨て新しいのと入れ替えるそうで、大量のハードディスクを消費することになります。だからお金に目を向けることでどれほどのデータセンターを持っているか見当を付けられます。

電力もヒントを与えてくれます。Googleはどれだけの電力を必要としているか?サーバーを動かすには電気が必要だからです。Googleがよそよりも効率的にやっているにしても、基本的に必要になる量というのがあり、それがGoogleの持つサーバーの数を限定することになります。

データセンターの面積に目を向けることもできます。データセンターは一般にどれくらいの広さがあって、どれだけのサーバーラックがその中に収まるのか?あるデータセンターについては2つの情報が同時に手に入ります。どれだけ出費しているかに加え、たとえば電力を得るために自治体との契約が必要なことから取引内容がわかって、電力所要もわかるかるかもしれません。

それらの数字の比率を見ることで、そういうデータのないデータセンターについても見当をつけられます。一方の広さだけ分かるという時、電力と面積が比例するなら、電力消費量も分かります。同様のことを他の多くの量についても行えます。ディスク容量の合計、サーバーの台数、サーバー当たりのディスクの数。知っていることを元にモデルを作って、分からない数字の範囲を絞り込むことができます。知ろうとしている数字の周りを取り巻く感じです。これは楽しいです。使う数学はそんなに高度なものではありません。数独を解くのとそう変わりません。

私がやったのは、こういった情報を1日か2日かけて調べ上げるということでした。検討しなかったものもあります。Googleが出す採用広告に目を向けることもできたでしょう。それで人がどこで働いているのか分かります。データセンターを訪れた人が携帯で写真を撮って投稿することがあります。すべきことではないかもしれませんが、そこからハードウェアについて知ることができます。宅配ピザの運転手に目を向けるといいかしれません。彼らはデータセンターがどこにあるか知っているでしょう。少なくとも有人のところは。

何にせよ私は数字をはじき出し、それについては結構自信がありましたが、Google全体で使われているデータは約10エクサバイトで、それとは別にたぶん5エクサバイトくらいのデータがテープとして保存されているでしょう。Googleは世界最大のテープストレージ消費者なんです。数字の見積もりが出ましたが、ものすごい量のデータです。我々の知る限り世界の他のどの組織よりもずっと多くのデータを持っています。他にも多量のデータを持つところはあり、みんなが考えるのはNSAのことでしょう。しかし同様の方法で見積もってみると、データセンターから見当が付きますが、中で何が行われているのかは分からないにせよ、NSAの運用するデータがGoogleほどの規模でないことは明らかです。

これらすべてをまとめて最初の質問に答えることができます。どれだけのパンチカードが必要か?パンチカード1枚には80字記録できます。1箱に2千枚くらい入るとして、それをたとえば私の住むニューイングランド地方に運んだとしたら、地域全体を覆いつくし、その厚さは5キロ近くになります。2万年前の最後の氷河期にこの場所を覆っていた氷河の3倍の厚みです。あまり現実的な話ではありませんが、これが私に出せた最高の答えだったと思います。それでウェブサイトにその答えと説明を書きました。Googleから返事があるとは思っていませんでした。彼らは秘密主義で、私の質問に答えてくれなかったので。私はただこの答えを挙げて、正しいかなんて誰にも分からないと書き添えました。

ところがそれから2週間くらいしてメッセージを受け取りました。こちらの人間から君に渡したい封筒があると。それで私は受け取りに行って開けてみると、中身はパンチカードでした。(笑) Googleのロゴの入ったパンチカードです。そのパンチカードにはたくさんの穴が開いていました。私はありがとうと礼を言って、何が書かれているんだろうと思いました。ソフトを使って読み込んでみると、カードの中身はパズルでした。たくさんの暗号です。友達の助けを借りて暗号解読をすると、その中にさらに別の暗号があり、ある方程式があって、方程式を解くと、最後にGoogleからのメッセージが現れました。私の記事に対する公式の回答です。それは「ノーコメント」でした。(笑)(拍手)

私はこのような計算をするのが好きなんです。数学が好きだからではありません。数学はよく使いますが、数学自体がそんなに好きなわけではありません。私が好きなのは、知っていることを使って紙の上で記号をいじり回し、知らなかった驚くようなことを見つけるということです。私には馬鹿げた疑問がたくさんあって、その中のあるものに答えを出してくれる数学の力が好きなんです。解けないこともあります。これは私がある匿名の読者から受け取った質問です。件名には単に「至急」とだけありました。これがメール本文のすべてです。「人に車輪があって空を飛べたとしたら、それは飛行機とどう区別したらいいですか?」 至急。(笑) 数学に答えられない質問もあるということです。ありがとうございました。(拍手)

 

Tweet このエントリーをはてなブックマークに追加
home  rss  

オリジナル:  Randall Munroe: Comics that ask "what if?"