スタートアップを殺す18の誤り

Paul Graham / 青木靖 訳
2006年10月

最近やった講演の後のQ&Aで、スタートアップを失敗させるのは何かという質問をした人がいた。その場に立ったまま何秒か呆然としていた後、それが一種のひっかけ問題なことに気付いた。これはスタートアップを成功させるのは何かという質問と等価なのだ—失敗の原因となることをすべて避けるようにすれば、成功することができる——そしてこれはその場で答えるにはあまりに大きな問だった。

後になって、私はこの問題をそういう方向から見るのも有効かもしれないと思うようになった。すべきでないことをすべて並べたリストがあれば、それをただ逆にするだけで成功へのレシピに変えることができる。そしてこの形のリストの方が、実践する上で使いやすいかもしれない。やらなければならないことをいつも頭に入れておくよりは、何かやってはいけないことをしているときにそれと気付くというほうが簡単だ。[1]

ある意味で、スタートアップを殺す誤りというのは1つしかない。ユーザが欲しがるものを何も作らないということだ。あなたがユーザの欲しがるものを何か作るなら、他に何をやろうがやるまいが、あなたはたぶんうまく行く。そしてあなたがユーザの欲しがるものを何も作らないなら、他にどんなことをやろうがやるまいが、あなたはうまく行かない のだ。だからここに挙げるのは、本当のところ、スタートアップがユーザの欲しがるものを作らない原因となる18項目のリストだ。ほとんどすべての失敗が、このユーザの欲しがるものを作らないという道を経るのだ。

 

1. 創業者が1人

1人だけで立ち上げられて成功したスタートアップがいかに少ないかということにお気づきだろうか? Oracleのような、創業者が1人だと思われている会社でも、実はもっとたくさんいたんだということがわかる。これは偶然だとは思えない。

創業者が1人であるのは何が問題なのだろう? まず何より、それが不信任投票だということがある。それはおそらく、その創業者が一緒に会社を始めてくれる友達を誰も見つけられなかったということを意味する。これはすごく憂慮すべきことであり、彼の友達は彼のことを一番よく知っている人たちだからだ。

そしてたとえ創業者の友達がみんな間違っていて、その会社に十分見込みがあるという場合でも、彼は依然不利な状況に置かれているのだ。会社を立ち上げるというのは、1人の人間がやるにはあまりにも難しい。たとえあなたがすべての仕事を自分1人でやれるのだとしても、あなたには一緒にブレーンストーミングをし、ばかな決断をしないように説得し、難しいときに元気づけてくれる同僚が必要なのだ。

最後に挙げたのがたぶん最も重要だ。スタートアップにとっての最悪の時というのは本当に最悪なものだ。それに1人で耐えられる人というのはあまりいない。創業者が複数いるときには、団結心が彼らを1つにまとめ、保存法則すら打ち破る。それぞれがみんな「友達をがっかりさせるわけにはいかない」と思うのだ。これは人間の本性の中でも最も強い力の1つであり、それが創業者1人という場合には失われてしまうのだ。

 

2. 立地のまずさ

スタートアップはある地域で栄え、その他の場所では栄えない。シリコンバレーが圧倒的で、ボストン、シアトル、オースチン、デンバー、ニューヨークと続く。それ以外の場所というのはあまりない。ニューヨークでさえ、人口あたりのスタートアップの数は、おそらくシリコンバレーの1/20程度だ。ヒューストンやシカゴやデトロイトみたいな都市となると、小さすぎて測れないくらいだ。

なぜそんなに急に落ち込んでいるのだろう? これはたぶん他の産業におけるのと同じ理由だ。アメリカで6番目のファッションの中心地はどこか? あるいは石油産業とか、金融とか、出版では、6番目に大きな中心地はどこ か? それがどこなのであれ、それはおそらくトップからあまりにかけ離れていて、「中心」と呼ぶのは不適当だろう。

ある都市がスタートアップのハブになるのはどうしてなのかというのは興味深い疑問だが、そこにスタートアップが栄えるのは、たぶんどの産業でも同じ理由のためだ。そこにはエキスパートがいるからだ。水準が高く、人々はあなたのすることにより共感を持っている。あなたが雇いたいと思うような人たち が、そこに住みたいと思っている。支えとなる産業がそこにはある。あなたが偶然に出会う人々が同じビジネスをしている。これらの要因の複合によって、正確なところどれくらいシリコンバレーのスタートアップが後押しされ、デトロイトのスタートアップが押しつぶされているのかは誰にもわからないが、それぞれの都市の人口あたりのスタートアップの数を見れば、そういう力が働いているのは明らだ。

 

3. 小さなニッチ

Y Combinatorに応募してくるグループの多くは、1つの共通する問題を抱えている。競合を避けようとして、小さく奇妙なニッチを選んでいるということだ。

スポーツをやっている小さな子供を見ていると、ある年齢より下の子供はボールを恐れるということに気付く。ボールが飛んでくると、彼らは本能的にそれを避ける。私が8歳の外野手だったとき、あまりボールをキャッチできなかった。私の方にフライが飛んでくると、私は目を閉じ、ボールを取ろうとするよりはグローブで身を守ろうとしていた。

スタートアップが周辺的なプロジェクトを選ぶのは、フライに対する8歳の私と同じ戦略だ。あなたが何かいいものを作るなら、競合を持つことになるだろう。それに向き合うことだ。競合を避けられる唯一の方法は、いいアイデアを避けるということだ。

大きな問題に対して身を縮めるというのはほとんど無意識にすることだと思う。人々が壮大なアイデアを考えるのではなく、もっと小さなアイデアを追いかけようとするのは、そのほうが安全だと思えるからだ。あなたの無意識は、壮大なアイデアについて考えることすらさせてくれないだろう。だからそれに対する解決法は、自分とは関係なくアイデアについて考えることだ。誰か他の人がスタートアップでやるのにいいアイデアは何だろうと考えてみよう。

 

4. 模倣したアイデア

私たちが受け取る応募の多くは、既存の企業を模倣したものだ。模倣はアイデアの源の1つではあるが、最良のものではない。成功したスタートアップの元をたどってみれば、他のスタートアップの模倣で始めたものはほとんどない。彼らはどこからアイデアを得たのだろう? 通常それは創業者たちが見出した何か特定の未解決な問題だ。

私たちのスタートアップはオンラインストアを作るためのソフトウェアを作っていた。私たちが会社を始めたとき、そんなものは世の中になかった。オンラインで注文ができるわずかのサイトは、Webコンサルタントによって高い費用をかけて手作りされたものだった。オンラインショッピングが急増すれば、それらのサイトはソフトウェアで生成する必要があるはずだと 私たちにはわかっていた。だからそれを書くことにしたのだ。すごく単純な話だ。

解くべき最良の問題は、自分が個人的に抱えている問題であると思える。Appleはスティーブ・ウォズニアックがコンピュータをほしかったから生まれたのであり、Googleはラリーとサーゲイがオンラインで情報を見つけられなかったから生まれ、HotmailはSabeer Bhatia と ジャック・スミスが仕事でメールを交換できなかったため生まれた。

だからFacebookをコピーして、Facebookが軽く受け流すような変種を作ったりする代りに、別な方向でアイデアを探してみよう。企業から始めてそれが解決した問題へと遡るのでなく、問題を探し、それを解く会社をイメージしてみるのだ。[2] みんなが不満を言っているのは何だろう? どんなものがあればいいと思うか?

 

5. 頑固さ

ある領域では、成功するための方法は達成したいことのビジョンを持ち、どんな障害にぶつかろうとそれを堅持し続けるということだ。スタートアップを始めるというのはそういう種類のことではない。「自分のビジョンにこだわる」というアプローチはオリンピックで金メダルを取るというような、良く定義された問題に対しては上手く機能する。スタートアップというのはもっと科学に似ていて、どこであれ道が続いている方に進んでいく必要がある。

だから元々のプランにはあまりこだわらないことだ。それはたぶん間違っている。成功したスタートアップの多くは、最終的には始め意図していたのとは違ったことをやっている。ときにはあまりに違っていて、同じ会社とは見えないくらいだ。より優れたアイデアが現れた時にはそれを理解できる準備ができている必要がある。多くの場合に一番難しい部分は、自分の古いアイデアを捨てるということなのだ。

しかし新しいアイデアに対する寛大さは、適度に調整されている必要がある。毎週新しいアイデアに切り替えるというのもまた致命的だ。何か使うことのできる外部的なテストはない のだろうか? 1つはそのアイデアにある種の連続性があるか問うことだ。前のアイデアで築いたものの多くが新しいアイデアで再利用できるなら、おそらくは収束するプロセスの中にいるということだ。一方で毎回スクラッチからやり直しているようなら、それは良くない兆候だ。

幸いなことに、アドバイスを求めることのできる相手がいる。ユーザだ。あなたが何か新しい方向へと向かうことを検討していて、ユーザたちがそれにわくわくしているようなら、それはたぶん有望な選択なのだ。

 

6. まずいプログラマを雇う

このリストの以前のバージョンでは、この項目を含めるのを忘れていた。それは私の知る創業者のほとんどがプログラマであるためだった。だからこれは彼らにはあまり深刻な問題とはならない。彼らがたまたま 出来の悪いプログラマを雇ったとしても、それで会社が潰れることにはならない。いざとなれば、彼ら自身で必要なことは何であれやれるからだ。

しかし90年代のe-コマースビジネスにおけるスタートアップの多くを殺したものが何だったかと考えてみると、それはまずいプログラマだったのだ。それらの会社の多くはビジネス屋が始めたもので、彼らが考えるスタートアップの仕組みというのは、何か気の利いたアイデアを持ち、それを実装するプログラマを雇うということだった。これは実際には見た目よりも難しい—ほとんど不可能なくらい難しい—ビジネス屋には誰がいいプログラマなのか分らないからだ。彼らは最高のプログラマに狙いを定めることすらできず、それは本当に優れたプログラマはビジネス屋のビジョンを実装するというような仕事をやりたいと は思わないからだ。

そして起きることが何かというと、いいプログラマだと思える人をビジネス屋が選ぶのだが(ほら、彼の履歴書にMicrosoft認定デベロッパーだって書いてある)、実際にはいいプログラマなんかではなく、そして彼らは自分たちのスタートアップが第二次大戦当時の爆撃機みたいに騒々しく動いている一方、競合たちはジェット戦闘機のように駆け抜けていく様に当惑するのだ。そういう種類のスタートアップは大企業と同じ立場にいるのであり、しかも大企業のアドバンテージは持っていないのだ。

ではプログラマでない人は、どうやっていいプログラマを選んだらいいのだろう? それに答があるとは思わない。私は採用を手伝ってくれるいいプログラマを見つけるようにと言いかけたのだが、いいプログラマを見分けられないのなら、それさえもできないだろう。

 

7. 不適切なプラットフォームの選択

これと(まずいプログラマによってなされることが多いという意味で)関連した問題に、不適切なプラットフォームの選択というのがある。たとえば、バブルのとき多くのスタートアップがサーバベースのアプリケーションをWindows上に構築するという決断をして自滅した。HotmailはMicrosoftが買収してから何年にもなるが、依然としてFreeBSDで動いている。おそらくはWindowsではその負荷を処理できないためだ。Hotmailの創業者がWindowsを使うことを選択していたなら、彼らはとうの昔に沈んでいたことだろう。

PayPalはかろうじてこの弾を避けた。PayPalがX.comと合併したあと、新しいCEOはWindowsに切り替えることを望んだ—PayPalの共同設立者のマックス・レブチンが彼らのソフトウェアはWindows上ではUnixの1%くらいしかスケールしないことを明らかにしたにもかかわらずだ。PayPalにとって幸いだったのは、彼らはOSの代りにCEOの方を切り替えたということだ。

プラットフォームというのは曖昧な言葉だ。それはオペレーティングシステムや、プログラミング言語や、あるいはプログラミング言語の上に構築される「フレームワーク」を意味することもある。そしてこの言葉には、家の基礎のように支えとも制限ともなるもの、という含意がある。

プラットフォームについて怖いことが何かというと、門外漢には賢明な良い選択のように見えるのだが、90年代のWindowsみたいに、それを選択することが破滅になるようなものがあるということだ。Javaアプレットはこれの最も顕著な例だろう。それはアプリケーションを提供する新しい方法だと考えられていた。そしてそれを信じたスタートアップのほとんど100%を殺すことになった。

どうやって正しいプラットフォームを選べばいいのか? 一般的な方法は、いいプログラマを雇って彼らに選ばせるということだ。しかしあなたがプログラマでない場合でも使えるいいトリックがある。トップレベルのコンピュータサイエンス学科に行って、彼らが研究プロジェクトで何を使っているかを見るのだ。

 

8. 遅すぎるローンチ

どんなサイズの会社でも、ソフトウェアを作り上げるのには苦労している。それはソフトウェアというものに本質的なことなのだ。ソフトウェアはいつだって85%できているものだ。そこを通り抜けてユーザに何かをリリースするには、頑張りが必要になる。[3]

スタートアップはローンチを遅らせるためにあらゆる言い訳をする。そのほとんどは、人々が日常生活でやりたくないことを引き延ばすのに使っているのと同様のものだ。最初に何かが起きる必要があるのだ。たぶん。しかしソフトウェアが100%できあがっていて、ボタンを押すだけでローンチできる準備が整っていても、彼らは待ち続けるのだろうか?

早くローンチすべき理由は、それによってある量の仕事を実際に終わらせるよう強いられるということだ。リリースされるまでは、何も本当には完成していないのだ。自分でどれくらい完成していると思うかにかかわらず何かをリリースすることになる急ぎの仕事をやってみれば、そのことがわかる。ローンチすべきもうひとつの理由は、ユーザにアイデアをぶつけるというのが、そのアイデアを本当に理解できる唯一の方法だからだ。

いくつかの異なった問題がローンチの遅延という形になって現れる。仕事が遅すぎる、問題を本当には理解していない、ユーザに向き合うのを恐れている、判断されるのを恐れている、あまりにたくさんの違ったことをしている、過剰な完全主義に陥っている。幸いなことに、ただ何かを素早くローンチするよう自分に強いる だけで、これらの問題すべてに立ち向かうことができる。

 

9. 早すぎるローンチ

遅すぎるローンチはおそらく早すぎるローンチの何百倍ものスタートアップを殺してきただろうが、しかしローンチが早すぎるということもあり得るのだ。ここでの危険は、会社の評判を損なうということだ。何かをローンチし、アーリーアダプターがそれを試してみて、そしてそれがまずいものだったなら、彼らは二度と戻ってこないだろう。

ではローンチするために最低限必要なことは何だろうか? 私たちがスタートアップに勧めているのは、やろうと計画していることについて考え、(a) それ自体有用であって、(b) 徐々にプロジェクト全体へと拡大していけるような何かコアとなるものを見つけ出し、可能な限り早くそれを作り上げるということだ。

これは私が(そして他の多くのプログラマが)ソフトウェアを書くときに使っているのと同じアプローチだ。全体のゴールについて考え、何か有用なことができる最小のサブセットを書くところから始めるのだ。それがサブセットなら、どのみち書かなければならないものなのだから、最悪の場合でも時間を無駄にすることにはならない。しかしおそらくあなたは動かせるサブセットを実装することが、士気を上げる意味でも、残りの作業として何をする必要があるか明確にする意味でも優れた方法なのがわかるだろう。

あなたが注意を引く必要のあるアーリーアダプターたちというのは非常に寛大だ。彼らは新しくローンチされる製品に何でもできることを期待してはいない。それはただ何かができればいいのだ。

 

10. はっきりしたユーザ像を念頭に置いていない

ユーザを理解することなく、ユーザの気に入るものを作ることはできない。成功したスタートアップの多くは創業者自身の問題を解決しようとして始められたのだという話を前にした。あるいはこんな法則があるのかもしれない。問題をいかに良く理解しているかに比例して富は得られるものであり、そして人が一番良く理解している問題というのは、自分自身の問題なのだ。[4]

これはただの仮説だ。しかし逆は仮説ではない。理解していない問題を解こうとするなら、まずいことになる。

しかしながら驚くほど多くの創業者たちが、実際のところどんな人かわからない誰かが、きっと自分の作っているものを欲しがるだろうと仮定したがる。その創業者自身はそれを 欲しいと思うのだろうか? いいや、彼らはターゲットとするマーケットに入っていないのだ。では誰が? ティーンエージャー。地元のイベントに関心がある人たち(これは永遠のタール坑だ)。あるいは「ビジネス」ユーザ。ビジネスユーザって何だ? ガソリンスタンドのこと? 映画スタジオ? 防衛産業?

もちろん自分以外のユーザのためのものを作ることはできる。私たちはそうした。しかし危険な領域に足を踏み入れているということを自覚している必要がある。それは実質的には計器飛行しているようなものなのだ。だから、(a) いつものように自分の直感に頼れるとは思わずに意識的にやり方を変え、(b) その計器をよく見る必要がある。

今の場合、この計器はユーザだ。他の人のためにデザインする場合には、経験的方法でやる必要がある。どうすればうまく行くか、もはや勘に頼ることはできない。ユーザを見つけ、彼らの反応を測定する必要がある。だからあなたがティーンエージャー向けの、あるいは「ビジネス」ユーザ向けの、あるいはそのほか何であれ、あなたがその中に含まれていないグループ向けのものを作ろうとしているなら、あなたの作っているものを使う具体的な人たちと話ができる必要がある。それができないなら、あなたは間違った道を走っていることになる。

 

11. あまりに少ない資金しか調達しない

成功するスタートアップの多くは、ある時点で資金提供を受けている。複数の創業者を持つことと同じように、これは統計的にかなり確かに言えることだ。では、どれくらいの資金が必要なのか?

スタートアップの資金は時間によって測定される。収益を上げていないスタートアップには(始めはほとんどすべてのスタートアップがそうだ)、ある量の時間が、資金が切れてやめなければならなくなるまでに残されている。これはよく「滑走路」と呼ばれていて、「滑走路はあとどれだけ残ってる?」みたいな言い方をする。これはうまいメタファーで、それというのも、資金が切れたときにあなたは離陸しているか死んでいるかのどちらかだからだ。

あまりに少ない資金は、離陸のためには不十分だ。離陸が何を意味するかは状況による。通常は目に見えてより高いレベルに進むということだ。アイデアだけだったのが、動くプロトタイプができる。プロトタイプがローンチされる。ローンチしたものが、劇的に成長する。それは投資家次第なのであり、それというのも、収益を上げられるようになるまでは、あなたが納得させなければならない相手は投資家だからだ。

そのため、投資家から金を得る場合には、それが何であれ、次のステップへと進むのに十分な量の金を得る必要がある。[5] 幸いなことに、どれだけ使うかということと、次のステップを何にするかということのどちらについても、あなたはある程度コントロールすることができる。私たちはスタートアップに、最初はどちらも低く設定するようにとアドバイスしている。実質的に金は全然使わず、しっかりしたプロトタイプの構築を最初のゴールにするのだ。そうすることで最大限の自由度を得ることができる。

 

12. 資金を使いすぎる

資金を使いすぎることと、資金調達が少なすぎることとを区別するのは難しい。資金を使い果たしたときに、原因はそのどちらともいうことができる。それがどちらなのか判断する唯一の方法は、他のスタートアップと比較することだ。あなたが500万ドル調達して資金を使い果たしたのなら、おそらく使いすぎなのだ。

資金を使いすぎるというのは、かつてのように一般的ではなくなった。創業者たちは教訓を学んだらしい。加えて、スタートアップを始めるコストは下がり続けている。だからこれを書いている時点で、使いすぎているスタートアップというのはあまりない。私たちが設立したものでは1つもない。(それは私たちが少額の投資をしているためだけではない。多くはその後より多くの資金を調達している。)

資金を早く消費する典型的な方法は、人をたくさん雇うことだ。これは2度に渡って効いてくる。コストを引き上げるのに加え、スローダウンさせられるのだ。だから早い資金の消費が長く続くことになる。多くのハッカーは、なぜそうなるのかをよく知っている。フレッド・ブルックスが、「人月の神話」でそれを説明している。

私たちは採用についての一般的な提案が3つある。(a) 避けられる限りは採用しない。 (b) サラリーよりは株式で払う。金を節約するためだけでなく、株式を好む献身的タイプの人を集められる。(c) コードを書く人か、外へ出て行ってユーザを獲得する人だけを雇う。最初必要となるのはその人たちだけだ。

 

13. 資金を獲得しすぎること

資金が少なすぎると失敗するのは明らかなことだが、資金が多すぎて失敗するなんてことがあるのだろうか?

答えはイエスでもありノーでもある。問題は金自体ではなく、金についてやってくるものの方なのだ。Y Combinatorで講演をしたあるVCは、「私の金を数百万ドル受け取ったなら、時計が進み始めることになる」と言った。VCがあなたに投資するとき、彼らはあなたがその金を銀行に預けておいて、ラーメンを食べて生活している2人の男だけで会社を続けさせたりはしない。彼らはその金が働くことを望んでいるのだ。[6] 少なくともあなたは適当なオフィススペースに移って、人をもっと雇うことになる。それは状況を変えることになり、そして必ずしもいい方向にというわけでもない。今や会社の社員の多くは、創業者ではなく従業員になる。彼らは 創業者たちほど会社に献身的ではない。彼らは何をするか指示してもらう必要がある。そして彼らはオフィス政治をやり始める。

たくさんの金を調達すると、あなたの会社は郊外に移って、子を持つようになる。

さらに危険なことは、ひとたびたくさんの資金を得ると、方向を変えるのがずっと難しくなるということだ。あなたの最初のプランが企業に何かを売ることだったとしよう。VCの資金を得た後、あなたはそれをやる営業部隊を雇う。それから対象は企業ではなく消費者にすべきだと気付いたとしたら、どうなるか? まったく違った種類の販売方法が必要になる。実際に起きることが何かというと、あなたはそのことに気付かないということだ。あなたが人を 雇えば雇うほど、同じ方向を向き続けることになる。

大きな投資を受けることの別な問題は、それに要する時間だ。資金を得るのにかかる時間は、金額とともに増加する。[7] 金額が数百万ドルに上がると、投資家は非常に用心深くなる。VCはイエスかノーかはっきり言わなくなる。彼らはあなたと際限がないと思えるほど長く会話するようになる。VCスケールの投資を得るのは、時間を奪われるものなのだ。おそらくはスタートアップ自体にかけるよりも多くの時間を取られることになる。そして競合が時間をソフトウェア構築に使っているときに、投資家との話で時間を使いたいとは思わないだろう。

私たちはVC資金を求めている創業者たちには、最初の当を得た契約を受け入れるようにアドバイスしている。評判のいい会社から妥当な評価額で、普通でない厄介な条件なしで提示を受けたなら、ただそれを受け入れて会社づくりに向かうことだ。[8] よそで30%いい契約が得られたかもしれないなんて誰が気にする? 経済的には、スタートアップというのはオール・オア・ナッシングのゲームなのだ。投資家の間でバーゲンハントするのは時間の無駄でしかない。

 

14. 投資家の管理のまずさ

創業者として、あなたは投資家を管理する必要がある。彼らを無視すべきではない。彼らは有用な洞察を持っているかもれしないからだ。しかし彼らに会社を牛耳らせるべきでもない。それはあなたの仕事だ。投資家が投資した会社を運営できるくらいのビジョンを持っているなら、どうして彼らは自分で会社を始めなかったんだ?

投資家を無視して彼らをいらだたせるのは、彼らに屈するよりはおそらく危険が少ない。私たちのスタートアップは、無視する方に傾きがちだった。私たちのエネルギーの多くが、製品に注ぎ込まれる代りに投資家との議論で吸い取られた。しかしこれは屈服するのよりはコストが少なく、屈服していればたぶん会社をだめにしていただろう。創業者が自分のしていることを分っているなら、注意の半分を製品に注ぐ方が、何をしているか分ってない投資家にすべての注意を向けるよりはいい。

投資家の管理にどれくらいの労力をかける必要があるかは、通常どれだけの金を受け取っているかによる。あなたがVCスケールの金額を受け取っているなら、投資家が大きなコントロールを握ることになる。彼らが取締役会の過半数を押さえているなら、彼らは文字通りあなたのボスになるだろう。もっと一般的なケースでは、創業者と投資家は対等な代表権を持ち、投票は中立な外部取締役によって行われる。投資家は外部取締役を説得できれば、会社をコントロールすることができる。

ものごとがうまく行っていれば、これは問題にはならないだろう。あなたが早く進んでいるように見える限り、投資家の多くは放っておいてくれる。しかしスタートアップでは必ずしも事はスムーズに進まない。投資家というのは最も成功した会社においてさえ問題を引き起こしている。最も有名な例はAppleであり、その重役会はスティーブ・ジョブズを解雇するというほとんど致命的なへまをやった。Googleでさえ、早い時期には投資家によるトラブルがたくさんあったのだ。

 

15. 収益(の期待)のためにユーザを犠牲にする

ユーザが望むものを作ればうまく行くのだと最初に言ったとき、私が適切なビジネスモデルについて触れなかったことに気付いたかもしれない。それは金を儲けるのが重要でないからではない。創業者は、会社が失敗する前に売り払ってしまうことを期待して、金儲けできる見込みのないビジネスを始めると示唆しようとしたのでもない。私たちが創業者に最初はビジネスモデルを気にかけるなと言っているのは、人々が望む何かを作り上げることの方がずっと難しいからだ。

人々の望むものを作るというのがどうしてそんなに難しいのか、私には理由が分らない。それは簡単なはずであるように思える。しかしそれが難しいに違いないということは、それができているスタートアップがいかに少ないかということでわかる。

人々が欲しがるものを作るのは、それを金にするのにくらべて遥かに難しい。ビジネスモデルは後回しにしておくことだ。自明だが面倒な機能をバージョン2にまわすのと同じように。バージョン1では、コアとなる問題を解くのだ。そしてスタートアップにおけるコアの問題は、いかにして富を作り出すか(= 人々がどれくらい欲しがるか × それを欲しがる人の数)であって、その富を金に換える方法ではない。

勝っている企業はユーザを第一にしている所だ。Googleがその例だ。彼らは検索を使えるものにし、そのあと、そこからどうやって金を得るか考えた。しかし依然として、最初からビジネスモデルにフォーカスしないのは無責任だと考えているスタートアップ創業者たちがいる。彼らはしばしば融通のきかない業界で経験を積んだ投資家に、そうするようにとけしかけられているのだ。

ビジネスモデルについて考えないのは確かに無責任だ。しかし製品について考えないのは、それより10倍も無責任なのだ。

 

16. 手を汚したがらない

ほとんどすべてのプログラマは、時間をコードを書くのに使っており、そのコードから金を引き出す汚い仕事は誰か別な人間にまかせている。怠け者のプログラマばかりがそうだというわけではない。ラリーとサーゲイも最初はそのように感じていたようだ。新しい検索アルゴリズムを開発した後に彼らが最初に試みたことは、どこか別な会社にそれを買い取らせるということだった。

会社を始めるって? オェッ。ほとんどのハッカーは、アイデアをただ抱えたままでいることだろう。しかしラリーとサーゲイが知ることになったように、アイデアのためのマーケットというのはあまりないのだ。それが製品として実現され、ユーザベースが拡がるようになるまでは、誰もアイデアを信用しないのだ。彼らはそれが実現されたときになって始めて大金を払う。

これは変わるのかもしれないが、しかし私はあまり変わらないという気がする。ユーザほど買収者に訴えるものはない。リスクが減っているからというばかりではない。買収者も人間だ。彼らはただ頭がいいというだけの理由でたくさんの若い連中に何百万ドルも出し、そしてひどい目に遭ったのだ。多くのユーザを持つ会社でアイデアが実現されているという場合には、彼らは頭の良さではなくユーザを買っているのだと自分を納得させることができる。これは彼らにはずっと飲み込みやすいのだ。[9]

あなたがユーザを引きつけようとするなら、コンピュータの前から離れて、ユーザを見つけに行く必要がある。これは楽しい仕事ではないが、自分にそうさせることができたなら、成功のチャンスはずっと大きくなる。2005年の夏に私たちが最初に投資した一連のスタートアップでは、創業者のほとんどが、自分の時間のすべてをアプリケーションの構築に使っていた。しかし1人だけ、取引をまとめるために携帯電話会社の重役たちと話すのに 時間の半分を使っていた人がいた。ハッカーにとってそれ以上に苦痛なことを何か想像できる? [10] しかしそれは実を結んだのだ。このスタートアップはそのグループの中で桁違いに大きな成功をしている。

スタートアップを始めたいなら、ハックしているだけというわけにはいかないという事実に目を向ける必要がある。少なくとも1人のハッカーが、ビジネス関係のことをするのに時間をさく必要がある。

 

17. 創業者間の争い

創業者間の争いは驚くほど一般的に見られる。私たちが投資したスタートアップのほぼ20%で、創業者が会社を去っている。あまりによく起るので、私たちはベスティングに対する態度を改めた。私たちは絶対要求するわけではないが、今では辞職がきちんとした仕方でなされるようベスティングすることを創業者たちに勧めている。

創業者が去ることでスタートアップが必ずしもだめになるわけではない。たくさんの成功したスタートアップでもそういうことは起きている。[11] 幸い、会社を去るのは通常もっともコミットの 少ない創業者だ。創業者が3人いて、半端なスキルの人が1人去るとしたら、それは大きな問題だ。2人いて1人去るなら、あるいは重要な技術スキルをもつ人が抜けるなら、問題はもっと大きい。しかしそれでも生き残りうる。Bloggerは1人にまで減ったが、その後立ち直ったのだ。

私が目にした創業者間の争いの多くは、会社を一緒に立ち上げた相手にもっと気を使っていれば避けられたものだ。争いの多くは状況のためではなく、人のために起る。それはつまり、争いは避けられないということだ。そのような争いをする創業者の多くは、会社を始めた時点ですでに疑いを持っていたがそれを抑えていたのだ。疑いを抑えないことだ。会社を始める前の方が、始めた後よりも問題を修正するのはずっと簡単なのだ。それだから、入れてあげないと取り残されたように感じるだろうという理由で同居者をあなたのスタートアップに加えないこと。誰かがあなたの必要とするスキルを持っており、他に見つけられないかもしれないという理由で嫌いな人をあなたのスタートアップに加えないこと。人はスタートアップにとってもっとも重要な成分であり、そこで妥協してはいけない。

 

18. 生半可な努力

スタートアップの失敗であなたがもっともよく耳にするのは壮観な頓挫だろう。そういうのは実際のところ、失敗の中のエリートだ。最も一般的なタイプの失敗は、見事に失敗するものではなく、たいしたことを何もしないというものだ—私たちがそれについて耳にすることはなく、2人の男がデイジョブのかたわらサイドビジネスとして始めた そのスタートアップは、どこへ行きつくこともなく、徐々に放棄されたのだ。

統計的に言えるのは、失敗を避けたければ、最も重要なのはデイジョブをやめるということだ。失敗したスタートアップの創業者の多くはデイジョブを辞めておらず、成功したスタートアップの創業者の多くはデイジョブを辞めている。スタートアップの失敗が病気だったとしたら、CDCはデイジョブを避けるようにと人々に警告を出していたことだろう。

これはあなたはデイジョブをやめるべきということなのだろうか? かならずしもそうではない。推測だが、これらの創業者志望の人たちの多くは、会社を始めるのに必要となる決意を持ち合わせていないのかもしれない。そして彼らは心の内ではそのことが分っているのだ。彼らがもっと多くの時間を自分のスタートアップに投資しない理由は、それがいい投資でないと わかっているからなのだ。[12]

私はまた、思い切ってフルタイムでやっていれば成功できたのに、そうしなかったために失敗したという人たちもいると思う。そういう人たちがどれくらいいるのかはわからないが、勝者 / ボーダーライン / 望みなしの数列は、あなたが想像するような配分になっていて、デイジョブを辞めていれば成功していた人の数というのは、実際に成功した人の数より、おそらく桁違いに多いと思う。[13]

それが真実なら、成功し得たスタートアップのほとんどは、創業者がすべての努力をそこに注ぎ込まなかったために失敗したことになる。これは私が世の中で目にしていることと確かに一致している。多くのスタートアップは人々の望むものを作らないために失敗しており、そして多くのスタートアップがそれを作らない理由は、彼らが十分熱心に努力していないためなのだ。

つまり、スタートアップを始めるというのは他のことと別に違わないのだ。あなたがなし得る最大の誤りは、十分熱心にやらないということであり、成功の秘訣がもしあるのだとしたら、それはこのことから目を背けないということだ。

 

[1] これは失敗の原因の完全なリストではない。あなたがコントロールできるものだけ挙げている。あなたにコントロールできないものというのもいくつかあり、特に愚かさと不運がそうだ。

[2] 皮肉なことだが、うまく行くかもしれないFacebookの変種の1つは、大学の学生に限定したfacebookだ。

[3] スティーブ・ジョブズは「本物のアーティストは出荷する」と言って人々を動機づけようとした。これは素敵な言葉だが、残念ながら正しくはない。有名な未完成の芸術作品がたくさんある。建築や映画のような厳格な納期のある分野では正しいが、その場合でも人々は彼らの手からそれが取り上げられるまでいじり続ける傾向がある。

[4] たぶん要因がもう1つある。スタートアップの創業者はテクノロジーの最先端にいる傾向があり、彼らが直面する問題はおそらく特に価値があるのだ。

[5] あなたは自分で必要だと考えるよりもたくさん、おそらくは50%から100%余計に取るべきだ。ソフトウェアはあなたが思うより書くのに長くかかり、契約は結ぶのにあなたが思うより長くかかるものなのだ。

[6] 私たちのことをVCと呼ぶ人がときどきいるので、私たちはVCではないということを付け加えておく必要があるだろう。VCというのは多額の他人の金を投資する。私たちはエンジェルのように、小額の自分の金を投資している。

[7] もちろん比例してではない。もしそうなのであれば、500万ドル得るのに延々とかかることだろう。実際永遠のように感じられるのは確かだが。

しかしVCが投資しないケースまで含めるなら、中央値で時間が文字通り永遠にかかることになる。私たちはそういうケースまで含めて考えるべきかもしれない。巨額投資を追いかける危険は、それには時間が長くかかるということだけではない。それは一番いい場合だ。本当の危険は、多くの時間を使って何も得られないということなのだ。

[8] VCの中には、意図的に低い評価額を提示し、あなたがもっと金を得ようと何か出してくるか見ようとするところもある。VCがそのようなゲームをするのは無駄なことだが、いくつかのところがやっている。そのようなところと取引しているなら、あなたは評価額を少しばかり押し返してやるべきだ。

[9] YouTubeの創業者が2005年にGoogleに行って、「Google Videoは設計が良くない。私に1000万ドルくれたら、お宅の間違っているところをすべて教えてあげる」と言ったとしよう。そうしたら彼らは冷笑を受けることになっただろう。18ヶ月後、Googleは同じレッスンに16億ドル払うことになった。それはある部分では、彼らが1つの現象を、あるいはコミュニティを、あるいはそういう何か曖昧なものを買っているのだと自分に言い聞かせることができたからなのだ。

私はGoogleに辛く当たるつもりはない。Googleは競合たちよりはうまくやったのであり、彼らの方はというと、今やビデオという船をすっかり逃してしまったのかもしれない。

[10] 実際にはある。政府を相手にするということだ。しかし電話会社というのはそれにかなり近い。

[11] 多くの人が思っているよりずっと多い。企業がそういうことを宣伝したりはしないためだ。Appleには当初創業者が3人いたって知ってた?

[12] 私はこの人たちを見下しているわけではない。私自身その決意がない。私はViawebのあと、2度ほどスタートアップをはじめそうになったが、どちらの場合も断念した。貧しさという動機なしには、スタートアップのストレスに耐えようという気になれないということに気付いたためだ。

[13] では、自分はデイジョブをやめるべき人のグループに属するのか、それとも、おそらくはより大きなデイジョブをやめるべきでない人のグループに属するのか、どうやって判断すればいいのだろう? これは自分で判断するのは難しいので第三者の意見を求めるようにと言おうとしたのだが、なんだ、それは私たちのやってることじゃないかと気が付いた。私たちは自分たちを投資家として考えているが、しかし別な方向から見れば、Y Combinatorは人々にデイジョブをやめるべきか否かアドバイスするサービスでもあるのだ。私たちは誤りうるが、そういうことは多くはなく、そして私たちは少なくとも自分の判断に金をかけているのだ。

 

この原稿に目を通してくれたサム・オルトマン、ジェシカ・リビングストン、グレッグ・マカドゥー、ロバート・モリスに感謝する。

 

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オリジナル: The 18 Mistakes That Kill Startups