5人の創業者

Paul Graham / 青木靖 訳
2009年4月

最近Inc. Magazineから、この30年間でもっとも興味深いスタートアップ創業者を5人挙げるとしたら誰かと聞かれた。一番興味深いのが誰かはどうやって決めたらいいのだろう? もっともよい判定方法は、その影響力を見ることだと思う。私にもっとも影響を与えた5人は誰だろう? 出資した会社の人たちと話をするときに、誰を模範にしろと言うだろう? 自分は誰の言葉をよく引き合いに出しているだろう?

1. スティーブ・ジョブズ

スティーブは、私に限らず誰に聞いてももっとも影響力のある創業者だと言うだろう。スタートアップの文化の多くはAppleの文化だ。彼は最初の若き創業者だった。そして「とてつもなく素晴しいもの」という概念はアートの世界には昔からあったにせよ、1980年代の企業にとっては目新しい考えだった。

さらに注目すべきなのは、彼が30年にわたり興味深い人間であり続けているということだ。みんなAppleの新製品を、人気作家の新作のように心待ちにしている。スティーブが自分で製品をデザインしているのではないにしても、彼がCEOでなかったらそれは生まれなかったものなのだ。

スティーブは頭が良くてやる気に満ちているが、そういう人ならシリコンバレーにはたくさんいる。彼を独特な存在にしているのはデザインのセンスだ。彼以前には、企業の多くはデザインをたいしたことのないおまけのように考えていた。Appleの競合たちも、今では考えを改めていることだろう。

2. T.J.ロジャーズ

T.J.ロジャーズはスティーブ・ジョブズのように有名ではないが、シリコンバレーのCEOの中で一番の書き手じゃないかと思う。私は他の誰よりも彼から、スタートアップの考え方というものを学んだ。彼が書いた個々の事柄からというよりも、それを生み出した思考を再現することによってだ。残酷なまでの率直さ。古びた考えはとっととガベージコレクトしてしまう。そしてイデオロギーよりもプラグマティズムに基づいて動く。

初めて読んだ彼のエッセイはとても衝撃的で、私はそのときどこにいたかまではっきりと覚えている。読んだのは“High Technology Innovation: Free Markets or Government Subsidies?”で、ハーバードスクエアの地下鉄駅の下の階にいた。それは誰かが私の頭の中で明かりを灯したように感じられた。

3. ラリーとサーゲイ

ラリーとサーゲイをいっしょくたに扱うのは申し訳ない気がする。そんなのはフェアじゃないといつも感じるのだが、Googleは彼らのコラボレーションだったと思えるのだ。

Google以前でも、シリコンバレーの企業は最高のハッカーを擁することが重要であることを知っていた。少なくともそう主張はしていた。しかしGoogleはこの考えを他のどこよりも推し進めた。彼らが(少なくともその初期において)仮説としていたのは、優れたハッカーがいさえすればよい、ということだった。最高に頭のいい人間を雇い、問題に取り組ませ、その成功が測定できるようにしておけば、勝つことができる。そのほかのこと(ビジネススクールがビジネスを構成するものとして考えているようなこと)は、追々片付けていけばよい。結果は完璧ではないにしても、最適なものとなる。これが彼らの仮説だったのだとしたら、今や実験により検証されたことになる。

4. ポール・ブッフハイト

知らない人が多いのだが、Googleの最高のもののうちの3つを、ポール・ブッフハイトという一人の人間が生み出している。検索に次いで見事なサービスであるGmailを最初に作ったのは彼だ。AdSenseの最初のプロトタイプを作ったのも彼であり、あの“Don’t be evil”というマントラを生み出したのも彼だ。

ブッフハイトはかつて講演の中である考えを述べたが、私たちは今ではそれを出資したスタートアップに必ず伝えるようになった。「最初はたくさんのユーザにまあまあ気に入られるものを作ろうとするより、少数の人たちが本当に好きになる製品を作ることだ」。スタートアップに10項目しか伝えられないとしたら、私はこれを必ずその中に含めるだろう。

現在彼はFriendFeedというスタートアップに創業者として取り組んでいる。まだ1年にしかならないが、シリコンバレーの人間はみんな彼らのことを注目している。Googleでもっとも重要なものを3つ生み出した人間なら、きっと何かもっとやるに違いないというわけだ。

5. サム・アルトマン

YCが出資した会社はこのリストに含めないほうがいいだろうと人に言われた。しかしサム・アルトマンはそんな薄っぺらなルールで止めることのできる男ではない。彼がこのリストに載りたいと思えば、そのようになるのだ。

実際のところサムは、スティーブ・ジョブズと並び、私がスタートアップにアドバイスするときにもっとも引き合いに出すことの多い創業者だ。デザインの問題であれば、「スティーブならどうするだろうね?」と聞く。しかし戦略とか野心の話となれば、私は「サムならどうするだろうね?」と聞く。

サムと出会って学んだことは、選挙の原則はスタートアップにも当てはまるということだ。これが当てはまる場合というのはみんなが考えているよりずっと少ない。スタートアップへの投資は競馬で勝ち馬を引き当てようとするのとは違う。しかし世の中には強い意志の力を持ち、何であれ望んだことを実現させる人たちがいるのだ。

 

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オリジナル: Five Founders