レーザーでマラリアは退治できるか (TED Talks)

Nathan Myhrvold / 青木靖 訳
2010年2月

私たちは発明をしています。私の会社は様々な領域で、多様な新技術を発明しています。そうしているのには2つの理由があります。私たちは楽しみで発明をしています。発明というのはとても楽しいものなのです。そしてまた、発明は収益のためでもあります。この2つは関連しています。収益が得られるまでには長くかかるため、楽しくないと続かないのです。だから私たちがやっていることの多くは楽しみと収益のための発明なのですが、人道的目的の発明をするプログラムも行っており、最高の発明家たちが取り組んでいます。そして世界が抱える問題に対し、うまい解決のアイデアを出せないかと考えています。私たちが問題を解こうとするときには、劇的で、クレージーで、型破りなソリューションを探します。そういう問題に取り組んでいる最も聡明な人間にビル・ゲイツがいます。彼は私たちの仕事にも投資しており、感謝しています。それでは私たちが抱える問題のいくつかを簡単にご説明し、開発中のソリューションを2つばかりご覧いただこうと思います。

ワクチン輸送の問題

予防接種というのは公衆衛生における重要な技術で、素晴しいものですが、発展途上国では、ワクチンの多くが使われる前に駄目になっています。ワクチンは冷却しておく必要があるためです。ほとんどのワクチンは冷蔵する必要があります。冷やさなければ短時間で駄目になります。でもこれは安定した電力網がないと難しい話であり、結果として子どもたちが死んでいます。ワクチンが無駄になるだけの話ではありません。子どもたちが予防接種を受けられずにいるのです。

ワクチンはこの様にして運ばれています。発泡スチロールの箱を使っています。それを人が担いだり、トラックに乗せたりして運びます。私たちは別な方法を考えました。あの発泡スチロールの箱は、氷を入れて4時間ほど低温に保つことができます。しかしそれでは十分ではないと思いました。それで作ったのがこれです。これは電気なしで6ヶ月間持ちます。失うのは0.5ワット未満なので、電気は必要ないのです。これは第2世代のプロトタイプです。現在第3世代のプロトタイプをウガンダで試験しています。これの実現には2つの鍵となるアイデアがありました。液体窒素や液体ヘリウム保存用の低温保持装置のような、非常に高い断熱性を持たせるというのが1つ。もう1つのアイデアはちょっと面白いんですが、中に触れることができないようにすることです。ふたを開けて中に触れられるようになっていたら、熱が入り込んで、ゲームオーバーになってしまいます。だからこれの側面はコーラの自動販売機のようになっていて、そこから個々の小瓶が出てきます。簡単なアイデアですが、これによってアフリカやその他の地域でのワクチンの輸送法を変えられることを願っています。

マラリアの問題

マラリアに話を進めましょう。マラリアは公衆衛生上の大きな問題の1つです。エスター・デュフロが話していましたね。年に2億5千万人がマラリアにかかり、43秒に1人の子どもがアフリカで死んでいます。私が話している間にも27人が死ぬことになります。それが当事者にとってどういうものなのか、ここにいる私たちが本当に把握するすべはありません。エスターが言っていたもう1つのことは、私たちはハイチのような悲劇があると反応しますが、マラリアの悲劇はずっと継続していることです。では、私たちにはいったい何ができるのでしょう? マラリアの問題に対処するため、人々は長年に渡って様々なことをしてきました。

消毒薬を散布できますが、環境問題が生じます。治療し、啓蒙しようとすることもできます。素晴しいことですが、マラリアが本当に酷い地域には医療制度がないのです。ワクチンは素晴しいものですが、まだ有効なものがありません。長年研究が続けられ、2つほど興味深い候補が出ていますが、マラリアに対するワクチンを作るのは非常に難しいのです。蚊帳を配布することもできます。蚊帳はとても効果がありますが、蚊帳として使われずに魚捕りに使われたりします。みんなに行き渡るわけでもありません。蚊帳はマラリアの蔓延抑止には効果がありますが、蚊帳でマラリアを根絶することはできません。

マラリアは非常に複雑な病気です。何時間でも話ができるくらい、メロドラマのような生き方をしています。関係を持って、肝臓に潜り込み、血球に侵入します。すごく複雑な病気ですが、私たちは実際そこに関心を持ち、取り組むことにしたのです。可能性がある方法は たくさんあります。

簡単に診断できるようにする

1つの方法は、より良い診断をすることです。これらの装置のプロトタイプを今年中に作りたいと思っています。1つは糖尿病の糖度計のように自動的にマラリアの診断をするものです。血を一滴取り、中に入れてやると 自動的に答えが出ます。現在では込み入った実験手順を踏んで、たくさんの顕微鏡スライドを作り、訓練された人間が見る必要があります。

血を採らずに済めばさらにいいでしょう。目を通して、白目の血管を見ることで、血を採らずに直に確認することができます。あるいは爪床でも可能です。爪を通して血管を見ることができます。そして血管が見えれば、マラリアも見ることができるはずだと考えています。見れば分かるのは、ヘモゾインという分子のためです。これはマラリアの寄生によって生成されます。とても面白い結晶構造を持つ物質で、固体物理学者にはとても興味深いものです。これを使ってできることがたくさんあるんです。

これは私たちのフェムトセカンドレーザー実験室です。フェムト秒の長さの光のパルスを作ります。実に実に短いものです。光の波長1つ分くらいの長さの光のパルスです。ひとまとまりの光子が同時にやってきてぶつかるわけです。非常に高いピーク出力があります。これでいろんなすごいことができますが、とくにヘモゾインを見つけるのに使えます。これは赤血球の画像です。赤血球の中のどこにヘモゾインがあって、どこにマラリアが寄生しているか映し出すことができます。このテクニックと、その他の工学的テクニックを使えば、診断ができると思います。

他にもヘモゾインを利用したマラリア治療法があります。緊急の場合に、血液からマラリア原虫を濾過して取り除くという、一種の透析のようなもので、寄生生物の毒性を緩和します。

対策のシミュレーション

これは1000コアのスーパーコンピュータです。私たちはソフトウェア屋で、どんな問題に対しても、何らかのソフトウェアで解こうとします。マラリアを根絶したり減らしたりしようとする上で問題になるのは、何が最も効果的か分からないことです。蚊帳という話が出てきました。蚊帳にいくらか使えば良いのでしょう。あるいは薬剤の散布。薬の処方。みんな異なった対処法であり、異なった効果があります。どうすれば分かるのでしょう? それで私たちはスーパーコンピュータを使って、世界最高のマラリアのモデルを作りました。それをご覧いただきましょう。

マダガスカルを選びました。全ての道、全ての村、ほとんど平方インチ単位のマダガスカルの情報がここにあります。降雨データがあり、気温データがあります。これはとても重要で、湿度や降雨量から蚊が産卵する水たまりがあるか判断できます。これで舞台が整いました。それから蚊を導入します。蚊がどのように発生するかのモデルを用意します。最終的に得られるのがこれ、マダガスカルに広がるマラリアの状況です。雨期の後半です。乾期になりました。乾期にはほとんどなくなります。蚊が産卵できる場所がなくなるためです。それから翌年また盛り返します。

このようなシミュレーションをすることで、実際に対策を行う前にソフトウェアの中で何千回もマラリアの根絶や制御を行い、経済的なトレードオフを検討します。蚊帳はどれだけで、散布はどれだけか。それに社会的なトレードオフも。社会不安が起きるとどうなるかというような。

蚊を飛ばなくさせる方法

私たちは敵のことも研究しています。これは蚊の高速度カメラ映像です。この後に空気の流れが出ます。蚊の羽の周りの空気の流れを、レーザーで発光させた微粒子によって可視化しています。蚊がどうやって飛んでいるか知ることで、どうすれば飛ばなくできるかを知りたいのです。

飛ばなくさせる1つの方法はDDTです。これは本物の広告です。作り物ではありません。昔はこれが主要な手段で、実際多くの国で、マラリアはDDTにより根絶されました。アメリカは1935年に行いました。アメリカでは年に15万のマラリア患者が出ていましたが、DDTと大々的な公衆衛生改善の努力により撲滅しました。

家電製品を使うアイデア

だから対処すべきことのうち、マラリア原虫については、できることをすべてしました。では蚊に対しては何ができるでしょうか? 家電製品を使って駆除するというのはどうでしょう? 馬鹿げたことに聞こえるかもしれませんが、これらの装置には利用可能な面白いものがいろいろ入っています。ブルーレイプレーヤーにはとても安価なブルーレーザー装置が入っています。レーザープリンタにはレーザービームを非常に正確に制御するために使われる検流計が入っています。それによって紙の上に小さな点を描くわけです。そしてもちろん信号処理やデジタルカメラなんかがあります。これらを一緒にして、飛んでいる蚊をレーザーで撃ち落とすのはどうでしょう? (笑) (拍手)  私たちの会社では、これを小指しゃぶりの瞬間と呼んでいます。(笑)

できたらどうなるのでしょう? 疑いはいったん置いておき、それができたらどんなことが起きるか考えてみましょう。診療所のような価値の高い場所を守ることができます。診療所にはマラリア患者がたくさんいます。彼らは病気で、蚊から自分を守る力がありません。彼らを守りたいと思うでしょう。もちろん、自宅の裏庭を守ることもできます。自然食品会社に売る作物を農家は守れます。私たちの使う光子は100%オーガニックですからね。全く自然のものです。

実際、これはもっと改善できます。虫を殺す前に殺傷力のないレーザーを当てて、羽音の周波数を聞き取り、大きさを計測することができます。そしてそれが退治したい虫か、そうでないかを判断できます。ムーアの法則は計算のコストを安価にし、個々の虫の命の重さを測って、やるかやらないか判断できるまでになったのです。殺すのはメスの蚊だけです。危険なのはメスなんです。蚊が血を吸うのは卵を産むためで、日常生活の栄養は花の蜜から取っています。実際私たちの実験室では干しブドウをエサにしています。しかしメスには血が必要です。すごくクレージーな話に聞こえますよね? ご覧になりたいですか? (会場 イェーイ) いいでしょう。うちの法務部が作った注意書きをお見せします。これです。(すごく恐いレーザー ―― 残っている目でビームをのぞき込まないで) (笑)

デモ

このデモについて少し考えて、殺傷力のないレーザーを使ったほうが分かりやすいだろうと思いました。エリック・ヨハンソンが実際にこの装置をeBayで買った部品で作りました。そして向こうにいるパブロ・フォールマンが、水槽に蚊を集めています。こちらに装置があります。瞬間的なパルスの殺傷レーザーを使う代わりに、緑色のレーザーポインタを使います。蚊に長い間当て続けることができますから。そうしないと見ても分からないでしょう。じゃあエリック、頼むよ。

(ヨハンソン)  ステージの反対側に水槽があります。このコンピュータ画面で飛び回っている蚊を確認することができます。パブロがもう少しかき回してくれたら、飛び回っているのがわかるはずです。これはごく単純な画像処理ルーチンです。仕組みをご説明します。飛び回っている蚊を追尾しています。ちょっと面白いでしょ。次にレーザーを実際に蚊に当ててみましょう。低出力のレーザーです。羽音の周波数を捉えることができます。飛び回っている蚊の羽音をお聞きいただけるかと思います。

(ミアボルド) 今鳴っているのが蚊の羽音です。

(ヨハンソン)  最後に、どんな具合になっているかよく見てみましょう。飛び回っている蚊が照らされています。何が起きているのか分かるようにスロー再生しています。高速モードで撮っていました。このシステムはTEDでこのようなものが実現可能であることを実演するために作ったものです。そしてアフリカのような地域で使えるようにするため、どうすればコスト効率を上げられるか熱心に取り組んでいるところです。(拍手)

(ミアボルド) 本番のレーザーが蚊に当たったときにどうなるかを見なきゃつまりませんよね。(笑) (拍手)  満足の瞬間です。(笑)

この映像は最初にやったときのです。エネルギーが少し強すぎですね。(笑) もう1つの映像をループ再生させて…。面白いのは、毎回撃ち落していて、空中で羽が止まったことはないということです。羽の筋肉は非常に弾力があるのです。羽を吹き飛ばしても、落下しながら羽の筋肉は動き続けています。

以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたTakako Sato氏に感謝します。]

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オリジナル:  Nathan Myhrvold: Could this laser zap malaria?