想像力をオープンソース化するArdurino (TED Talks)

Massimo Banzi / 青木靖 訳
2012年6月

何週間か前に、友達が8歳になる息子にご覧のようなおもちゃの車をあげたんですが、普通やるようにおもちゃ屋に行って買うのではなく、このWebサイトに行ってファイルをダウンロードし、このプリンタで印刷したんです。こういった装置を使って誰でもデジタル的にモノを作れるというアイデアを、エコノミスト誌は「第三の産業革命」と呼んでいます。

実は革命はもう1つ進行していると思うんです。それはオープンソース・ハードウェアと「Makerムーブメント」が引き起こしているものです。友人がおもちゃの印刷に使ったプリンタも実はオープンソースなんです。その同じWebサイトでプリンタを作るのに必要なすべてのファイルがダウンロードできます。構成ファイル、ハードウェア、ソフトウェア、すべての解説が揃っています。これはまた大きなコミュニティの一部であり、世界中の何千という人がこのようなプリンタを作ってたくさんのイノベーションを起こしていますが、それもオープンソースであればこそです。何かすごいものを作るのに誰の許可もいりません。この状況はAppleやその他の会社が競っていた1976年当時のパーソナルコンピュータの状況に似ています。数年のうちにこのような市場におけるAppleが現れることでしょう。

他にも興味深いことがあります。プリンタ自体がオープンソースになっていると言いましたが、あのプリンタの心臓部には私が深く関わっているArduinoがあるのです。プリンタを動かすマザーボード部分は、私が過去7年間取り組んできたオープンソースプロジェクトの成果です。

ここに出ている仲間たちと開発しました。5人のうち2人がアメリカ人、2人がイタリア人、それに生粋のスペイン人が1人。(笑) ご覧の通り国際的なプロジェクトなんです。(笑) 私たちはインタラクション・デザイン・インスティテュート・イブレアという、インタラクション・デザインを教える学校で出会いました。そこではシンプルな形のデザインから始めて、人とモノの間のやり取りのデザインへと進みます。人とのやり取りをするモノをデザインしようというとき、形だけの携帯電話の模型を作っても意味はありません。人と実際にやりとりするモノが必要だからです。それで私たちはArduinoやその他のプロジェクトに取り組んで、学生たちが簡単に使えるようなプラットフォームを作ったんです。5年もかけて電子工学を勉強しなくても学生たちがちゃんと機能するものを作れるように。1ヶ月でやるわけですから。

子どもでも使えるものをどう作るのか? このシルビアという女の子は実際にArduinoで物作りをしています。11歳の子どもたちがArduinoを使って自分で作ったものを見せてくれましたが、適切な道具を与えられた子どもたちの能力というのは怖いくらいです。

それでは誰でも使えて手早くものを作れる道具によってどんなことが起きるのか見てみましょう。いろいろ例をご覧いただきますが、まず最初に取り上げたいのはこの猫の給餌器です。これを作った人は猫を2匹飼っていて、1匹は病気で1匹は元気だったので、それぞれに適切な餌を与える必要がありました。それで猫の首輪に付けたチップで猫を識別し、扉を開けて餌を与える給餌器を作ったんです。古いコンピュータから取り外したCDプレーヤー、ボール紙、テープ、2つのセンサといくつかのLEDを使っています。そしてあっという間にこんなものが手に入りました。お店では買えないものを自分で作ったんです。私は「自分で痒いところを掻く」という言い回しが好きです。アイデアを思い付いたら自分で作ればいいだけです。紙にスケッチするのを電子部品を使ってやるようなものです。

Arduinoの何がいいかというと、このハードウェアが・・・愛を込めてイタリアで作られたこと、これは基盤の裏を見てもらえば分かりますが、(笑) それに加えてオープンであるということ。回路の設計書はすべてネットで公開されていて、それをダウンロードして何かを作ったり、改良したり、学ぶために使えます。プログラミングを学んでいた頃、他の人のコードや雑誌に載っていた回路図を見て勉強していました。他の人の作品を見るというのは学ぶのに良い方法なんです。

このプロジェクトの様々なものがオープンにされています。ハードウェアはクリエイティブコモンズライセンスで公開されています。ハードウェアが歌や詩のように文化の一部としてクリエイティブ・コモンズで共有され、それを元に新しいものを作っていけるという考えは素敵だと思います。またソフトウェアはGPLで、これもオープンソースです。ドキュメントや実践的なトレーニング方法もクリエイティブコモンズで公開されたオープンソースです。名前だけが商標で守られていますが、これは何がArduinoであり何がそうでないか明確にするためです。Arduino自体、多くのオープンソースの要素から成り立っています。それぞれの要素は12歳の子が使うには難しいものですが、それをArduinoでマッシュアップして1つにまとめ上げ、手早くものを作り上げられる最高のユーザ体験を与えられるよう努めています。

だから例えばあるチリの人たちなどは、基板を買う代わりに自分で作ってワークショップで使い、お金を節約しています。あるいは特定の用途に合わせた独自のArduinoを作っている会社もあります。現在そのような会社がたぶん150くらいあります。これを作った会社はエイダフルーツといって、ladyada (レディ・エイダ)として知られるリモア・フリードが経営しています。彼女はオープンソース・ハードウェアやMakerムーブメントにおけるヒーローの1人です。オープンソースやコラボレーション、ネット上の協同や、異なった領域での協同の力を信じる人たちの、ターボ加速されたDIYコミュニティが広がっているのです。『Make』という雑誌がそのような人たちを集め、コミュニティとしてまとめています。かなり技術を要するようなプロジェクトが、易しい言葉と美しい誌面で紹介されています。あるいはこのウェブサイトInstructablesでは、人々が互いにあらゆることを教え合っています。画面に出ているのはArduino関係のプロジェクトですが、このサイトでは、ケーキを始め、あらゆるものの作り方を学べます。

いくつかプロジェクトを見てみましょう。これはクワッドコプター、小さな模型ヘリコプターです。言ってみればおもちゃですが、ほんの数年前までは軍事技術でした。それが今やオープンソースになって、簡単に利用でき、ネットで買うこともできます。DIYドローンズというコミュニティがこのArduCopterを作っています。

このマターネットというスタートアップを立ち上げた人は、アフリカの村から村へ物資を運ぶのにこれが使えると気付きました。簡単に見つけられ、オープンソースで容易に改良でき、会社のプロトタイプを素早く作ることができました。

こちらは別のプロジェクトです—

(マット・リチャードソン) テレビで同じ人ばかりいつも出てくるのにうんざりしていたので、どうにかしようと思い立ちました。この「もうたくさん」という名のArduinoプロジェクトでは、このテレビに出すぎな人たちの名前が出てくると音を消すんです。(笑) どうやって作ったのかお見せしましょう。(拍手)

動いているところをご覧ください—

(マット) 「我々は今朝、キム・カーダシアンに突撃し、彼女がいったい何を着ていくつもりなのか——」(ミュートになる)。いいでしょう? (笑) キム・カーダシアンの結婚式について詳細に聞かされることから私たちの耳を守ってくれるわけです。

ここで興味深いのは、彼がArduinoでテレビ信号を処理するモジュールを見つけ、それからテレビ用の赤外線信号を生成する誰かの書いたモジュールを見つけ、それをまとめてこんなすごいものを作り上げたことです。

Arduinoはまた、大型ハドロン衝突型加速器のような本格的な現場でも使われています。Arduinoボードがデータを集め、パラメータを測定するのに使われています。

こちらはイタリアの学生が作った音楽インタフェースです。彼は今これを製品化しようとしています。学生プロジェクトが製品になるのです。

あるいは補助器具を作るのにも使えます。この手袋は、手話を理解して音声に変換したり、ディスプレイに表示したりできます。これもまたArduino互換パーツ販売サイトで見つけられる様々なパーツから作り上げられています。

これはニューヨーク大学 ITP発のプロジェクトです。この少年には重度の障害があってPS3で遊ぶことができなかったので、彼らはこの装置を作って、限られた運動能力で野球を楽しめるようにしたのです。

アートプロジェクトもあります。これはtxtBomberというもので、この装置にメッセージを入れると、それを壁面に転写できます。電気的なバネがスプレー缶のボタンを押すようになっていて、壁の上を動かすだけで政治的メッセージなんかが書き出されるようになっています。(拍手)

ここにある鉢植えはBotanicallsといって、中にWiFiモジュール付きのArduinoボードが入っていて植物の状態を監視しています。そしてTwitterを通して鉢植えとコミュニケートすることができます。(笑) 鉢植えが「暑くなってきたよ」と言い始め、「すぐに水がほしい」とつぶやきます。(笑) 鉢植えに人格を与えるわけです。

こちらはお腹の中の赤ちゃんが蹴ったときにTwitterでつぶやくようになっています。(笑)

このチリの14歳の少年は、地震を検知してTwitterにツイートするシステムを作りました。彼には28万人のフォロワーがいます。14歳の子が政府プロジェクトに1年先んじたわけです。(拍手)

これはまた別のプロジェクトで、家族のTwitterフィードを解析して「ハリー・ポッター」の映画みたいに各自がどこにいるか指し示します。詳細がウェブサイトに書かれています。

座っている人がおならしたらツイートする椅子を作った人もいます。(笑) 2009年にGizmodoは「これでようやくTwitterにも存在意義ができた」と書きました。3年で随分世の中変わったものです。(笑)

これは真剣な話ですが、福島で災害が起きたとき、日本の人たちの多くが、政府の情報はオープンでもなければ信頼もできないと気付きました。それで彼らはガイガーカウンターとArduinoとネットワークカードを組み合わせたものを100個作って、日本中に配りました。集められたデータは、このCosmというウェブサイトで公開されています。現場からのリアルタイムで信頼のできる偏りのないデータを見ることができるのです。

この機械はDIYバイオ・ムーブメントから生まれたもので、DNA処理に必要なあるステップを行います。これもすべてオープンソースになっています。

発展途上国の学生が高価な科学装置のレプリカを作っています。Arduinoやその他のパーツを使って、自分たちでずっと安く作っているわけです。これはpH測定器です。

こちらはスペインの子どもたちです。11歳くらいからロボット作りやプログラミングを学び始め、それからArduinoを使ってサッカーロボットを作るようになりました。Arduinoベースのロボットで世界チャンピオンになったんです。だから教育用のロボットを作ろうという話になったとき、彼らに言いました。「君らがデザインしてくれ。子どもたちがワクワクするすごいロボットを作るには何が必要か、君らなら分かるだろう」。私みたいなオッサンじゃなかなかワクワクもしませんしね、教材と言われても。(笑)

Googleのような会社も、このテクノロジーを使って携帯電話やタブレットと現実世界の間のインタフェースを作っています。GoogleのADKはArduinoベースのオープンソースです。クローズドソースでAppleに命を捧げますというNDAにサインさせるAppleのやつとは大違いです。巨大迷路の上にジョーイが立っていて、タブレットを傾けると迷路も傾きます。

私の出身地イタリアではデザインが重視されています。すごく保守的ですけど。ミラノにあるHabitsというデザインスタジオと協力して、この鏡を作りました。完全なオープンソースです。iPod用のスピーカーも兼ねています。ハードウェア、ソフトウェア、デザイン、製造、このプロジェクトのすべてがオープンソースで、皆さんご自分で作れます。他のデザイナたちに、これを見て実際的なものを手始めに素敵な装置やインタラクティブな製品の作り方を学んでほしいと思います。

しかしこんなに沢山のアイデアがあるとき、いったいどうしたものでしょう? 何千というアイデアがあって、全部紹介しようと思ったら7時間もかかるでしょう。7時間やるつもりはありませんので。ただこの例だけご覧いただきましょう。この人たちはPebbleという会社を作って、ブルートゥースで携帯と連携して情報を表示する腕時計を試作しました。ノキアの携帯から取った液晶画面とArduinoを使っています。それから商品化のための資金10万ドルをKickstarterで募りました。そうしたら1千万ドル集まったんです。十分な資金が得られ、VCなんかの助けは必要ありません。ただ素晴らしい製品で人々を熱狂させたんです。

最後にご紹介したいプロジェクトはArduSatです。Kickstarterで募集中なので、貢献したい方はどうぞ。宇宙に飛ばす衛星です。オープンソースでやろうとはなかなか思わないことですが、Arduinoを沢山のセンサに繋いでいます。ですからArduinoの使い方を知っていれば、自分の実験をこの衛星にアップロードして実施できるんです。想像してみてください。自分の高校で1週間衛星を自由に使えて宇宙で実験するというのを。

言いました通り、例はあまりに沢山あるので、この辺でお終いにしておきましょう。毎日たくさんのすごいプロジェクトを生み出し続けているArduinoコミュニティに感謝したいと思います。ありがとうございました。(拍手) そしてコミュニティの皆さん、ありがとう。

クリス・アンダーソン マッシモ、今朝話したときArduinoがこのように成功するとは想像もしていなかったと言っていましたね。

マッシモ・バンジ ええ。

クリス これだけのものを読み、自分の開いた世界を目にして、どう感じていますか?

マッシモ これは多くの人々の成果です。コミュニティが人々に素晴らしいものを作ることを可能にしているのです。圧倒されるばかりです。言葉にするのが難しいですが、毎朝目を覚ましGoogleアラートで届いたものを見ると、ただ驚きを感じます。想像しうるあらゆる領域に広がっています。

クリス どうありがとうございました。(拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた Akiko Hicks氏に感謝します。]

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オリジナル:  Massimo Banzi: How Arduino is open-sourcing imagination