ハッカーの流儀

Mark Zuckerberg / 青木靖 訳
2012年2月1日

Facebookは元々会社にしようと作ったのではありませんでした。世界をもっとオープンで繋がり合ったものにするという社会的なミッションのために始めたのです。

私たちにとってこのミッションがどんな意味を持ち、私たちがどのように決断し、私たちがどんな理由でやっているのかを、Facebookに投資される皆さんに理解していただくことは非常に重要だと考えています。このメッセージで私たちのやり方の概要を示せればと思います。

Facebookで働く私たちは、人々が情報を広め消費する方法に革命をもたらしたテクノロジーに触発されます。私たちは印刷術やテレビのような発明についてよく話します。単にコミュニケーションをより効率的に行えるようにすることで、社会の重要な部分の多くがすっかり変容を遂げることになりました。より多くの人が意見を言えるようにし、進歩を促しました。社会が組織される仕組みを変えました。人々の間の距離を近づけました。

今日、私たちの社会は別の転換点に差し掛かっています。世界の大部分の人がインターネットや携帯電話を利用できる時代に私たちは生きています。これは基本的な道具であり、考えていること、感じていること、やっていることを望む相手誰とでも共有し始められるようにする上で必要になるものです。私たちはサービスを構築することで人々に共有する能力を与え、多くの中核的組織や産業に再び変化がもたらされることを望んでいます。

世界のすべての人々が繋がり合えるようにし、みんなに意見を言う機会を与え、未来のため社会を変えていく手助けをすることには、大きなニーズがあり、大きなチャンスがあります。作らなければならない技術やインフラの規模は空前であり、これは私たちが取り組みうる最も重要な課題であると思っています。

人々の間の繋がりを強くしたい

私たちのミッションは壮大に聞こえるかもしれませんが、始まりは小さく、2人の間の関係から始まります。

個人的な人間関係は私たちの社会の基本要素です。人間関係というのは私たちが新しいアイデアを見つけ、世界を理解し、ひいては長期的な幸福を得るための方法です。

人が望む相手と繋がりを持ち、好きなものを共有できるようにする道具をFacebookでは作っており、そうすることで人間関係を構築し維持するみんなの能力を広げているのです。

より多くを共有することは、たとえ親しい友達や家族とだけであったとしても、よりオープンな文化を作り、他の人の生活や考え方についてもっと良く理解できるようにします。それはずっと多くの強い繋がりを人々の間に作り、ずっと多くの多様な考えに接する助けになるはずです。

そのような繋がりをみんなが築く手伝いをすることで、人々が情報を広め消費する手段を配線し直したいと私たちは望んでいます。世界の情報構造は、これまでずっと続いていた一枚岩でトップダウンの構造ではなく、ボトムアップあるいはピアツーピアで構築されたネットワークであるところのソーシャルグラフを反映したものになるべきです。私たちはまた、人々に共有するものをコントロールする力を与えることが、この配線のし直しをする上で重要な原則であると思っています。

私たちはこれまで8億の人々が1千億の繋がりを作り上げる手助けをしてきました。私たちのゴールはこの配線のし直しを加速する力になるということです。

人々が企業や経済と繋がりを持つ方法を改善したい

世界がよりオープンで繋がり合ったものになることは、より良い製品やサービスを作っているきちんとした会社によって強い経済が作られることを後押しするでしょう。

人々がより多くを共有するなら、使う製品やサービスについて信頼する人たちからもっと意見を聞けるようになります。これは一番良い製品を見つけるのを容易にし、生活の質と効率を改善します。

より良い製品が見つけやすくなることの帰結は、人々に合わせてパーソナライズされデザインされた優れた製品を作る企業が報われるようになるということです。「はじめからソーシャルに作られた」製品は、従来的な製品よりも人を引きつけます。私たちは世界の製品がもっとそういう方向に進むことを期待しています。

私たちの開発者プラットフォームはすでに何十万という企業がより高品質でよりソーシャルな製品を作れるようにしています。ゲームや音楽やニュースといった業界で新しい破壊的なアプローチを目にしています。はじめからソーシャルに作る新しいアプローチによって、同様の破壊的変化がもっと多くの業界で起きることを期待しています。

世界がよりオープンになることは、優れた製品を作ることに加え、顧客と直接的で本物の関係を築くように企業を後押しします。4百万以上の企業がFacebook上に会社のページを持ち、顧客との対話に利用しています。このトレンドがさらに広がっていくことを期待しています。

人々が政府や社会的組織と関わる方法を変えたい

人々が共有するのを助けるツールを作ることで、政府ともより率直で透明性のある対話ができるようになり、人々がもっと直接的な力を手にし、役人がもっと説明責任を持ち、私たちの抱える大きな問題にもより良い解決法がもたらされると信じています。

人々に共有する能力を与えることは、これまで歴史的に可能だったのとはまったく異なるスケールで人々が声を上げることを可能にします。そういった声は数の上でも強さの上でも増加していくでしょう。無視することはできなくなります。時とともに、政府も人々から直接上がってくる問題や懸念にもっとよく対応するようになるでしょう。選ばれた少数によってコントロールされた仲介者を通すのではなく。

その過程を通して、あらゆる国でインターネットを支持し人々の権利のために戦うリーダーが立ち現れるでしょう。この権利には望むものを共有する権利や、他の人が自分と共有しようとするすべての情報にアクセスする権利も含まれます。

そしてまた、経済がより高品質でパーソナライズされた製品へと向かうにつれ、はじめからソーシャルに作られた新しいサービスが現れ、雇用、教育、医療といった大きな世界的な問題に対処していくでしょう。その進展を手助けするため私たちに何ができるだろうかと楽しみにしています。

私たちのミッションとビジネス

上で述べたように、Facebookはもともと会社にしようと作ったのではありませんでした。私たちの主要な関心事はいつも、社会的なミッション、私たちの作るサービス、それを使っているユーザでした。これは公開企業が取るアプローチとしては変わっているので、それがうまくいくと思う理由を説明しましょう。

私は最初のバージョンのFacebookを自分で作りましたが、それは私自身があったらいいなと思うものだったからです。それ以降Facebookに投じられてきたアイデアやコードの多くは、私たちのチームへと引きつけられた優れた人々によるものです。

優れた人々は優れたものを作り、優れたものの一部となることを第一に気にかけますが、稼ぎたいとも思っています。会社のチームや、開発者コミュニティ、広告市場、投資家基盤を作るプロセスにおいて深く理解するようになったことがあります。強い経済的推進力を持ち力強く成長する強い会社を作ることが、たくさんの人を一致して重要な問題に取り組ませるための最良の方法だということです。

端的に言って、私たちはお金を稼ぐためにサービスを作っているのではありません。より良いサービスを作るためにお金を稼ぐのです。

これはものを作るのに良いやり方だと思います。最近ではますます多くの人が、単なる収益の最大化以上の何かを信じている会社のサービスを使いたいと思うようになっています。

ミッションに集中し素晴らしいサービスを作ることで、長期的には株主やパートナーに最大の価値をもたらせると思っています。それはまた優れた人材を引きつけることになり、さらに素晴らしいサービスを作れるようになります。私たちはお金を稼ぐという目標をもって朝目覚めるわけではありません。私たちのミッションを実現する最良の方法は価値ある強い会社を築くことだというのが私たちの考えなのです。

これは私たちのIPOへの考え方でもあります。私たちが株式公開するのは社員や投資してくれた人々のためです。私たちは彼らに株式を渡すとき、その価値を高めより換金性の高いものにするよう熱心に努力すると約束しましたが、このIPOはその約束を果たすものなのです。公開企業になることで、私たちは新しい投資家の方々にも同様の約束をし、それを果たすべく熱心に努力するつもりです。

ハッカーの流儀

強い会社を作ることの一環として、優れた人々が世界に大きなインパクトをもたらせ、他の優れた人たちから学べる最高の場所にFacebookをしようと努力しています。私たちは「ハッカーの流儀」と呼ぶ独自の文化とマネジメント手法を育んできました。

「ハッカー」という言葉は、メディアがコンピュータに侵入する人を指して使っているため不当にネガティブなイメージがありますが、ハッキングというのは本来は何かを手早く構築するとか、何がなしえるのか限界を探るといったことを意味しています。他の多くのこと同様、これは良いことにも悪いことにも使えますが、私の出会ってきたハッカーの多くは理想主義的な人々で、世界をより良く変えたいと望んでいます。

ハッカーの流儀というのは継続的な改善と反復をともなう構築アプローチです。ハッカーは常に物事は改良でき、いかなるものも完成することはないと信じています。彼らは直さずにいられないのです。時には現状に満足した人々やそんなこと不可能だと言う人ばかりがいる中でそうします。

ハッカーは、すべて最初から正しくやろうとするよりも、素早く公開して小刻みに反復しながら学ぶことによって、長期的に最良のサービスを構築しようとします。このやり方を支えるために私たちはテストフレームワークを作り、常に何千というFacebookのバージョンを試せるようにしています。私たちが壁に書いている言葉に「完璧であるより出来上がる方がいい」というのがあって、絶えずサービスを繰り出し続けるように促しています。

ハッキングというのは本質的に手を使う活動的な領域です。ある新しいアイデアが実現可能かどうか、何が最良の構築方法かと何日も議論する代わりに、ハッカーはプロトタイプを作り、何がうまくいくかを探ります。Facebook社内でよく耳にするハッカーの信条は、「コードは議論に勝る」というものです。

ハッカー文化というのは極度にオープンで実力主義です。ハッカーは最高のアイデアや最高の実装が常に勝つべきだと思っています。アイデアの売り込みに長けた人や部下のたくさんいる人が勝つわけではありません。

このやり方を徹底するために、私たちは何ヶ月かごとにハッカソンをしていて、みんな自分の持っている新しいアイデアを形にします。そして最後にチームみんなで集まってできたものを1つひとつ見ていきます。私たちの成功した製品の多くがハッカソンから生まれています。タイムライン、チャット、ビデオ、モバイル開発フレームワーク、それにHipHopコンパイラのような最も重要なインフラのいくつかもそうです。

社内のすべてのエンジニアにこのアプローチが共有されるように、新しく入った人は、コードを書くことが主な仕事ではないマネージャも含め、すべて「ブートキャンプ」(新兵訓練)と呼ばれるプログラムで会社のコードベースやツールや開発アプローチについて学びます。この業界にはエンジニアのマネジメントだけして自分ではコードを書こうとしない人がたくさんいますが、私たちが求めているのは手を動かすタイプの人であり、ブートキャンプに進んで参加してプログラムをやり遂げています。

上に挙げた例はどれもエンジニアリングに関するものですが、これらの原則はFacebookを経営する上で核となる5つの価値として抽出されています。

インパクトへの集中

最大のインパクトを求めるなら、最良の方法は常にもっとも重要な問題に集中するということです。簡単なことに聞こえますが、多くの会社はそれができておらず、多くの時間を無駄にします。Facebookでは取り組むべき最大の問題を見出すことに長けていることが全社員に期待されています。

素早く動く

早く動くことでより多くのものを作り、より早く学ぶことができます。しかし多くの会社は大きくなるにつれてスローダウンするようになります。それは動きの遅さのためにチャンスを逃してしまうことよりも、失敗することの方をより恐れているためです。私たちはよく「壊してでも早く進め」と言っています。その心は、何も壊すことがないようなら、たぶん十分早く動いていないということなのです。

大胆に

何かすごいものを作ろうとするならリスクが伴います。リスクは怖いものであり、多くの会社が本当はやるべきである大胆なことを避けています。しかしこのように移り変わりの早い世の中にあってリスクを取らないでいるのは、最初から失敗したようなものです。私たちが良く口にするもう1つの言葉は、「最もリスクが高いのは何もリスクを取らないこと」というものです。私たちはみんなに大胆な決断をするよう促しています。たとえそれで時に間違うことになろうとも。

オープンに

私たちはオープンな世界のほうが良い世界であると信じています。人々はより多くの情報を手にしてより良い決断をし、よりインパクトの大きなことができるようになります。これは会社の経営についても言えることです。私たちが努めているのは、Facebookで働く誰もが会社のあらゆる情報に可能な限り多くアクセスできるようにし、最大のインパクトのある最善の決断ができるようにするということです。

社会的価値を生み出す

繰り返しになりますが、Facebookは世界をよりオープンで繋がり合ったものにするために存在します。単に会社を存続させるのが目的ではありません。Facebookで社員全員に期待されているのは、何をするときであれ、世界のために本当の価値をどう作り出すかに常に集中するということです。

時間を割いてこのメッセージを読んでいただきありがとうございました。世界に対して重要なインパクトを与えるチャンスを私たちは持っており、その過程で持続する会社を築けると信じています。ともに素晴らしいものを作れることを楽しみにしています。

 

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オリジナル: Letter from Mark Zuckerberg