Marco Tempest / 青木靖 訳
2011年7月
私はマジシャンですが、私の好きな種類のマジックはテクノロジーを使ってイルージョンを生み出すものです。最近やっているやつをご覧に入れましょう。一種のアプリなんですが、マルチメディア・アーティストに特に有用なものです。複数の携帯端末の画面を同期させ、映像を表示します。これをお見せするために、3つのiPodを会場のお客様からお借りしました。これを使って私の好きなテーマについてお話しします。「欺き」です。
私の好きなマジシャンにカール・ジャーメインがいます。観客の目の前でバラの木に花を咲かせるという素晴らしいマジックが十八番でしたが、一番見事なマジックは蝶が出現するやつでしょう。
「皆さん、ご覧ください。生命の創造です」
欺くことについて問われたとき、彼はこう答えています。
「マジシャンは唯一正直な職業なんです。欺くことを約束し、その約束通りにするのですから」
私は正直なマジシャンのつもりですが、いろいろなトリックを使い、それは観客に嘘をつかなければならないということです。そう考えると申し訳ない気もしますが、でも人はみんな嘘をつくものです。
(電話が鳴る) ちょっとお待ちを。
「ねぇ、今どこにいるの?」「渋滞につかまっちゃって。すぐ着くから」
皆さんやっているでしょう? (笑)
「すぐ支度できるから」
「これずっと欲しいと思っていたんだ」
「あなたすごかったわよ!」
欺き。それは人生の基本をなしているものです。アンケートによると、男性は女性の倍も嘘をつくそうです・・・その女性たちが正直に答えていたらの話ですが。
私たちは自分に有利になるよう、そして弱みを隠そうと嘘をつきます。古代中国の武将だった孫子は、戦争はすべて嘘に基づいていると言っています。オスカー・ワイルドは恋愛について同じことを言いました。お金のために嘘をつく人もいます。
ひとつゲームをしましょう。3枚のカード、可能性は3つ。
「1枚の5が10になり、10が20になり、さてレディーはどこに? 女王はどこでしょう?」
これですか? お生憎様、ハズレです。私は騙していませんよ。あなたが自分で騙したんです。自己欺瞞です。嘘が本当だと思い込むのです。ときには両者を区別するのが難しいこともあります。ギャンブル中毒者は自己欺瞞の専門家です。(スロットマシンの音) 彼らは勝てると思い込み、負けたときのことは忘れています。脳は忘れるのが得意で、嫌な体験はすぐに忘れてしまいます。嫌な体験は速やかに消え去ります。それこそ、この広大で孤独な宇宙にあって私たちがこうも楽天的でいられる理由なのです。私たちの自己欺瞞はポジティブな幻想になります。なぜ映画は、私たちをものすごい冒険に引き込めるのでしょう? ジュリエットを愛しているというロミオを、どうして私たちは信じるのでしょう? なぜ個々の音符が、一緒に演奏されるとソナタとなって意味を持ち始めるのでしょう?
これは「月の光」です。作曲したドビュッシーは、芸術は最大の欺きであると言っています。芸術というのは本物の感情を生み出す欺き、真実を作り出す嘘なのです。そして欺きに憂き身をやつすとき、それはマジックとなるのです。
どうもありがとうございました。
(スタンディングオベーション)
[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたSawa Horibe氏に感謝します。]
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オリジナル: Marco Tempest: The magic of truth and lies (and iPods) |