ジョン・アンダーコフラーが示すユーザインタフェースの未来 (TED Talks)

John Underkoffler / 青木靖 訳
2010年2月

25、6年前のMacintoshの出現は、マンマシンインタフェースやコンピュータ全般の歴史の中で、驚くほど大きな出来事でした。コンピュータや計算に対する人々の考えを、根本的に変えました。誰が、どれだけの人が、どんな風に使えるかを変えたのです。それは非常に大きな変化であり、実際1982年から84年頃の初期のMacintosh開発チームは、新しいオペレーティングシステムを一から作る必要がありました。そこには興味深い小さな教訓があったのですが、その教訓はその後忘れ去られ、消えてしまったように見えます。それはつまり、OSとはインタフェースであり、インタフェースとはOSであるということです。アーサー王物語における国と王のように、両者は不可分なものなのです。新しいOSを作るというのは気まぐれでできるようなことではありませんでした。グラフィックスルーチンをチューンナップすれば済む話ではありません。グラフィックスルーチンもなければ マウスドライバもなかったのです。すべて作る必要がありました。

 

ハードウェアの発達

しかしその後の4半世紀の間に、基本技術の狂ったような発展を私たちは目にしました。メモリ容量とディスク容量は1万倍とか100万倍というスケールで拡大しました。プロセッサの処理速度も同様です。それにネットワーク。Macintoshが現れた頃、ネットワークはありませんでした。ネットワークは今ではコンピュータにおけるもっとも重要な要素となっています。それにもちろんグラフィックスも。今日、家電量販店で84.97ドルで買えるグラフィックス装置は、ほんの10年前、100万ドルしたSGIのものより高性能なのです。ものすごいパワーの上昇です。それに加え、私たちはWebを手に入れ、クラウドを手にしつつあり、素晴しいのですが、インタフェースの方は初歩的で、どちらかと言えば煩わしいままです。新しいインタフェースを作ることは忘れられています。しかし最近は多くの変化を目にします。人々はこの点に関して目を覚ましつつあります。では次に何が起きるのでしょう? どこへ向かうのでしょう?

 

空間を理解しないコンピュータ

問題の鍵になるのは、単純な1つの言葉「空間」、あるいは単純な1つのフレーズ「現実世界における幾何学」です。コンピュータやコンピュータに指示するプログラミング言語は、空間について恐ろしく無頓着です。現実の空間を理解しません。私たち自身は非常にうまく空間を扱っているので、これはおかしなことです。コンピュータはまた時間も理解しませんが、これはまた別な話になります。

 

Luminous Room

ではコンピュータに空間を教えたらどうなるのでしょう? 答えの1つは“Luminous Room”のようなものになるでしょう。Luminous Roomは、入力と出力の空間が同じところに設定されたシステムです。奇妙なくらいにシンプルでありながら、いまだよく探求されてないアイデアです。マウスを使うときは、手は下のほう、マウスパッドの上にあり、扱う対象と同じ平面上にさえありません。ピクセルはディスプレイの上にあります。これは壁や床やペットや鉢植えといった様々なものがある部屋で、それぞれが表示するだけでなく、反応することもできます。入力と出力が同じ空間にあって、このようなことを可能にしています。物理的な入れ物にデジタル情報を保管します。ここでの決まり事は、現実の世界にある実際の容器と同じです。入れたものは何でも取り出せなければなりません。この小さなデザインの実験作品には、他にもいくつか仕掛けがあります。チェス盤を載せると、それが何を意味するのか理解しようとします。そしてすることがなくなれば、チェスの駒たちはそのうち飽きてどっか行ってしまいます。

 

光学プロトタイプワークベンチ

学者の目にはこの作品が不真面目すぎると映るので、「光学試作作業台」のような、ごくまじめな応用例も用意しました。厚紙の箱に付けた歯磨きチューブのキャップがレーザーを出します。物理的なモノがビームスプリッタやレンズを表し、レーザービームの経路が表示されます。いわばインタフェースのないインタフェースです。この世界では現実世界と同じように、自分の手で操作することができます。同様に、この「デジタル風洞」では、デジタルの風が右から左へと吹いています。私たちが理論を発見したわけではないのでそんな大した話ではありません。でもCRTや液晶画面に表示していたら、現実のモノをそこに置いたところで何の意味もありません。ここでは現実世界とシミュレーションとが混じり合っています。

 

Urp

最後に、あらゆるものを取り入れて“Urp”という都市計画者のためのシステムを作りました。CADを作った時に取り上げてしまった模型を建築家や都市計画者の手に取り戻そうというものです。マシンが現実を半分だけ補っていて、ご覧のようにデジタルの影を表示します。そしてこのような「時計ツール」を持ってくると、空にある太陽の位置をコントロールできます。これは午前8時の影です。9時になると影が少し短くなります。こうやって太陽を動かすことができます。正午には影はうんと短くなります。この中には様々なツールを作り込みました。これを使うと、子どもでも日陰の影響を検討できます。都市計画のことは何も知らなくても構いません。建物を動かすには、ただ手を伸して動かしてやればいいのです。「素材スティック」を使うと 、フランク・ゲーリーの作品みたいに光りを反射するようになります。建物が通行人や道路を走るドライバーの目を眩ませたりしないか? 「区画ツール」は離れた建物や道を繋ぎます。都市計画委員会に訴えられたりしないか? こんなアイデアは見慣れているとか、少し古いと感じられるなら、それは結構なことです。見慣れていてしかるべきなのです。この作品は15年前に作られたのですから。

 

マイノリティレポート

これはMITメディアラボでタンジブルメディアグループを率いる石井裕教授の素晴しい指揮の下に作られました。そしてこれが世界的に有名なプロダクションデザイナである、アレックス・マクドウェルの目にとまったのです。アレックスは当時、漠然としたインディー的実験映画を準備していました。スティーブン・スピルバーグが監督する「マイノリティレポート」です。そして私たちをMITから招いて映画に出てくるインタフェースをデザインさせたのです。素晴しいのは、迫真性にアレックスが真剣に取り組んでいたことで、映画に描かれる2054年の世界を可能な限りリアルなものにするため、デザイン作業を研究開発のようにやらせてくれたのです。結果はとても満足のいく永続的価値を持つものになりました。人々はいまだに新しいUIデザインの話となると、「マイノリティレポート」のシーンを引き合いに出しています。そしてそれが奇妙な具合に一回りして、私たちがマンマシンインタフェースの必然的な未来であると考えている「空間操作環境」のアイデアへと繋がりました。

 

空間操作環境

ここにはたくさんの画像があります。手を使って6つの自由度のあるナビゲーション操作を行うことができます。ベケット氏の目の間を自由に飛び抜け、それから威嚇するオランウータンの間を戻っていきます。とてもいい具合です。もっと難しいことをやってみましょう。様々な画像があります。飛び回ることができます。ナビゲーションは基本的な問題です。3次元をナビゲートできる必要があります。私たちがコンピュータでやりたいと思うことの多くは、そもそも本質的に空間的なものなのです。そして空間的でないものも、空間的にすることで私たちの頭にわかりやすくすることができます。これをいろいろ違ったやり方で配置できます。この様に広げられます。リセットしてこんな風に並べてみましょう。

もちろんナビゲーションだけでなく操作もできます。嫌いなものや、特に興味深いものがあれば…エルンスト・ヘッケルの科学的に歪曲された絵をこのように取りのけておくこともできます。分析するときには、少し後ろに引いて、配置を変えます。もう少し下に移動して眺めてみましょう。これもまた1つの見方です。分析的な人は、これを色のヒストグラムとして見てみたいと思うかもしれません。色に従って並べてみました。色と角度が対応づけられています。

この3次元空間で選択をしようと思ったら、現実の空間の中で手をトラッキングすることが重要になります。私たちが触れるのは、2次元ではなく、擬似的3次元でもなく、本当の3次元だからです。この選択平面を使って論理演算をし、大好きな黄色と緑の草の上のバクを取り出しました。

次に、実際の仕事の世界を見てみましょう。これは私たちが現在構築しているロジスティックスシステムの一部です。たくさんの要素があります。ここで重要なのは、従来的な表形式データと3次元的な地理空間情報を結びつけることです。おなじみの場所ですね。表をいったん持ってきて一部を選択し、グラフにして、今度はこっちに移って、近寄って…これにはアメリカ中に散らばっているロジスティックス要素が表示されています。

 

協同作業の場

3次元的インタラクションと空間を取り入れた計算という考えによって、人とコンピュータの間の嘆かわしい1対1の関係を打ち壊すことができるでしょう。古いやり方、古いしきたりでは、1台のマシンに、1人の人、1つのマウス、1つの画面です。そんなのはもはや立ちゆきません。現実世界では作業は協同して行われます。一緒に作業する相手がいて、たくさんの画面があります。見たい画像がたくさんあります。誰か手伝ってほしいと思うかもしれません。

この新しいポインティングデバイスの作者が向こうに座っています。画像をこちらから向こうに移動することができます。別なマシンの間でです。計算が空間やネットワークを越え 溶け込んでいます。ポールに聞きたいことがあるので、あれは向こうに置いておきましょう。ポールはこのスティックのデザイナなので、彼に出てきて説明してもらった方が早いかもしれません。ここをちょっと片付けて、これを分解し、さらにバラバラにします。ケビン、手伝ってくれるかな? 回路基板を見つけられるかやってみましょう。銃の分解組み立ての練習みたいなものです。ラボでしょっちゅうやっています。いいでしょう。協同作業というのは、同じ場所にいようと遠隔地にいようと、常に重要なものです。そして物事は空間というコンテキストにおいて捉える必要があるのです。

 

TAMPER

最後にもう一度映像の世界に戻ってお見せしたいものがあります。これはTAMPERというシステムで、未来におけるメディアの編集や操作がどうなるかを垣間見せてくれる、少し奇妙な装置です。Oblong社ではメディアというのはもっと細かい粒度でアクセスできてしかるべきだと考えています。この中にはたくさんの映画が入っています。素材をいくつか取り出しましょう。何がいいか素早く目を走らせ、要素を切り出して、再び再生し、こちらのテーブルにドラッグします。次にジャック・タチの映画から、青服の人物を選んで、こちらもテーブルに引っ張ってきます。何人かいた方がいいですね。それからたぶんカウボーイが欲しいですね、率直に言って。(笑)  この人に来てもらいましょう。(笑)  見ての通り、カウボーイとフランス人とではそりが合わないのをシステムはちゃんと承知しています。

 

まとめ

最後に申しあげておきたいこと、それは、この30年における最も偉大な英語圏の作家が言っていることですが、優れた芸術は常に賜であるということです。小説が24.95ドルするとか、盗まれたフェルメールの絵を買い戻すために7千万ドル出すべきだとか言うことではありません。彼が言っているのは、芸術の創作の状況とあり方についてです。私たちはテクノロジーについても同じことを求める時が来ていると思います。テクノロジーはある種の寛容さを表現し、吹き込むことができ、私たちは実際それを求めるべきなのです。このようなテクノロジーの中心にあるのは様々なデザインの組み合わせであり、とても重要なものです。デザインや効用や効果がはじめから組み込まれているのでない限り、もはやテクノロジーを前に進めることはできないのです。私たち人類はものを作る生き物です。我々のマシンがその助けになり、イメージ通りに使えるべきなのです。以上です。ありがとうございました。(拍手)

 

Q & A

アンダーソン  当然の質問をしたい…ビル・ゲイツからの質問なんですが、いつですか? いつ実現されますか? ラボやステージ上でなく、普通の人にとっては? これは万人のためのものなのか、それとも企業や映画制作者のためのものなのか?

アンダーコフラー  これはすべての人のためのものです。それが私たちの目指していることです。その大きな一歩を踏み出さなければ成功することはないでしょう。25年変わってないのです。本当にインタフェースは1つだけでいいのでしょうか? そんなことあり得ません。

アンダーソン  しかし、みんなのデスクや家にプロジェクタやカメラが必要になるのでしょうか? どのように実現するんですか?

アンダーコフラー  すべてのディスプレイに組み込まれるようになるでしょう。アーキテクチャの中に組み込まれるのです。グローブは数ヶ月とか数年の内に不要になるでしょう。これが必然的な方向なのです。

アンダーソン  あなたの考えでは、5年のうちに人々がこれを普通のコンピュータの一部として手に入れられるようになると思われますか?

アンダーコフラー  5年後には、コンピュータを買えばこれが手に入るようになると思っています。

アンダーソン  そいつはすごい。(拍手) このようなものがどんな使われ方をするか、私たちはいつも驚かされてきました。これの最初のキラーアプリになるのはどんなものだと思われますか?

アンダーコフラー  いい質問です。私たち自身そのことは日々考えています。現時点では、アーリーアダプターの顧客や現実に使われているシステムでは、大きなデータ集約型のデータ中心の問題を扱っています。サプライチェーンのロジスティクスとか、天然ガスや資源の採掘とか、金融サービス、製薬、バイオインフォマティクスといったものが現時点での対象ですが、キラーアプリというのではないでしょう。あなたの言われていることはわかります。

アンダーソン  ありますよね、格闘技とか、ゲームとか。ほら! (笑) ジョン、SFを現実にしてくれたことにお礼を言います。

アンダーコフラー  お招きいただいて光栄でした。皆さんありがとうございました。 (拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた久島昌弘氏に感謝します。]


付録

アンダーコフラーの会社Oblong Industriesによるg-speakのデモ

 

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オリジナル:  John Underkoffler points to the future of UI