ジェフ・ハンの画期的なタッチスクリーン (TED Talks)

Jeff Han / 青木靖 訳
2006年2月


この場でお話できることに興奮しています。研究室で出来上がったばかりのものをこれからお目にかけます。皆さんが最初にこれを直接目にする人間となるのは素晴らしいことです。これは人がコンピュータと接する方法を今後本当に変えるものになるでしょう。

ここにあるのはリアプロジェクション方式の製図台です。幅が36 インチほどあって、マルチタッチセンサを備えています。キオスク端末や対話式ホワイトボードにある通常のタッチセンサは、1 度に1 つの点しか把握できませんが、これは同時に複数の点を捉えることができます。両手が使えます。指を同時に動かす。やりたければ10 本の指全部を使ってもいい。こんな具合に。

マルチタッチセンサというのはまったく新しいものというわけではありません。ビル・バクストンのような人たちが80 年代に研究していました。私のアプローチは、高解像度のものを低価格で作ること、そしてさらに重要なのは、スケーラブルにするということです。だからテクノロジー自体は、新たなアクセシビリティという点を別にすると、すごくエキサイティングなわけではありませんが、ここで興味深いのは、これを使って何ができるか、そしてこの上にどのようなインタフェースを作れるかということです。

例えばこれはラバランプ アプリです。ご覧の通り、両手を使い、掴んで固まりを作れます。手で熱を加えることができます。2 本の指を使って引きちぎれます。まったく直感的です。使用説明書は必要なし。インタフェースがなくなったかのようです。これは元々は私のドクターコースの学生のイリヤ・ローゼンバーグが作った一種のスクリーンセーバーだったのですが、これに載せることで本当に面白いものになりました。

マルチタッチセンサのいいところは、たくさんの指が使えるということですが、これはユーザが複数いても良いということでもあります。クリスがこっちの方をいじり、同時に私が別なところをいじることもできます。新しい彫刻の道具をイメージできます。温めて形を変えられるようにし、冷めるとある状態で固まるというような。Google のロビーにはこんなのがありそうです。(Gの文字をかたどったような形を作る―笑)

次にお見せするのは、もう少し実用的な例です。今ロードしています。これは写真家のライトボックスアプリです。ここでも両手を使って操作したり写真を動かしたりできます。特にいいのは、2 本の指を使って、写真を掴んでサッと引き伸ばせることです。パンだって、拡大だって、回転だって簡単にできます。両手全体でもやれますし、両手の人差し指だけでもできます。キャンバス自体を掴んでも同じことができます。引き延ばす。同時にもできます。一カ所を押えて、別なところを掴み、こう引き延ばせます。

ここでもインタフェースが消失しています。マニュアルはいりません。思ったとおりに動きます。コンピュータに触ったことがなければなおのことそうでしょう。100 ドルノートPC のような活動で、まったく新しい世代の人々に標準的なマウスとウィンドウを使わせるというのはどうかと思います。これから先私たちがコンピュータに接する方法は、このようなものであるべきだと思います。(拍手)  もちろんキーボードを出すことだってできます。画面上で動かせます。普通のキーボードですが、自分の手に合うように大きさを変えられます。今の時代、物理的なデバイスに人が合わせなければならない理由はありません。それでは反復性ストレス障害みたいな悪いことが起きるだけです。今日では進んだテクノロジーがあり、インタフェースの方が人に合わせるべきでしょう。インタフェースに接する方法をこういう方向から改善するというのは、現在ほとんど行われていません。このキーボードはたぶん正しいやり方ではありませんね。将来このようなテクノロジーがどう発展するか想像してみてください。手の動きに合わせてキーボードも動いて、打とうと思ったキーがどれなのか知的に判断する。これちょっといいと思いません?

(観客: どこのラボにいるの?)

私はニューヨーク大学の研究員です。

これはまた別なアプリで、このように小さなボールを作れます。指の動きを記録します。もちろん全部の指を使えます。お分りになると思いますが、圧力感知式になっています。ここでも2 本の指のジェスチャーで素早くズームできます。手のひらツールやら虫眼鏡ツールやら切り替える必要はありません。いろいろなスケールで同時に作り出すことができます。こっちで大きなのを作り、素早く元の場所に戻って小さなのを作る。

データ可視化のようなことをやろうとするとき、これはとても重要になるでしょう。たとえば私たちはみんなハンス・ロスリングの講演をとても楽しみましたが、私も長い間考えていたことを彼は強調していました。我々には素晴らしいデータがあるのに、それが活用されていません。アクセスできずにいます。その原因のある部分は、グラフィックスや可視化やインタフェースによって改善できるでしょう。中でも大きいのは、全体的なことを考えながらデータを掘り下げていける、優れたインタフェースだと思います。

アプリをもう1つご覧に入れましょう。これはWorldWind で、NASAが作ったものです。みなさんGoogle Earth はご存じだと思いますが、これはそのオープンソース版です。NASA が長年に渡って集めた様々なデータを読み込めるプラグインがあります。2 本の指を使ったジェスチャーにより、シームレスに拡大していくことができます。インタフェースはないようなもの。誰でも使え、思った通りに動きます。ほら、インタフェースなし。単に消えてしまったかのよう。データビューの種類を切り替えられるようになっているのがいい。NASA はほんとにいかしてますね。これは色づけされたハイパースペクトル画像で、植生がわかるようになっています。こちらに戻しましょう。

この地図アプリが素晴らしいのは、2D だけでなく、3D 表示もできることです。再びマルチタッチインタフェースを使い、このようなジェスチャーで傾けて見ることができます。2D だけのパンや動きとは違います。このジェスチャーは私たちが開発したもので、2 本の指を置いて傾ける軸を決め、上下に傾けます。その場で思いついたものです。あまりいいやり方ではないかもしれませんが、このようなインタフェースを使うと、こういう面白いことができるのです。遊んでいると時間を忘れます。(笑)

次のがお見せする最後になりますが、これを使ったエンターテインメントをいろいろ考ることができます。私は特に創作のためのアプリに興味があります。このアプリは単純です。曲線を描き、閉じると、キャラクタのようになります。これが面白いのは、制御点を設定してやると、指を同時に使って操作できることです。お分りになるでしょう。操り人形みたいです。たくさんの指を使って、描き…これは中ではたくさんの数学を使っています。メッシュを制御し、しかるべく動くようにする。この複数の制御点を使ってメッシュを操作するテクニックは、実際最先端のテクノロジーなのです。去年のSIGGRAPH で発表されました。これは私が好きな研究の例です。コンピュータの力を使ってものに直感的でしかるべき動きを、人が期待した通りの動きをさせる。

マルチタッチ操作は 現在ヒューマン インタフェースの分野でとても活発に研究されています。こういうことは私だけでなく、たくさんの人がやっています。このようなテクノロジーに取り組む人は今後さらに増えるでしょう。この後の数日間で、皆さんの分野でどんな応用ができるかお話しできるのを楽しみにしています。ありがどうございました。(喝采)

 

[これはTED 公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた久島昌弘氏に感謝します。]


附録

Jeff Hanの会社Perceptive Pixelkのデモ

 

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オリジナル:  Jeff Han demos his breakthrough touchscreen