ゲームで10年長生きしましょう (TED Talks)

Jane McGonigal / 青木靖 訳
2012年6月

私はゲーマーなので、ゴールを設定するのが好きです。特別な使命とか、秘密の目的みたいな。それで今日の講演にも使命を用意しました。この場にいる人みんなの寿命を7分半伸ばします。文字通り、皆さんはこの講演を聴けば、7分半長生きするんです。なんか疑っている人もいるみたいですね。いいですよ。それが可能だと証明する数式がちゃんとあるんです。今はまだ分からないでしょうけど、後で説明しますので、最後の数字にだけ注目してください。この7.68245837分というのが、使命達成の暁に、私が皆さんにプレゼントするものです。皆さんにも秘密の使命があります。それは、このおまけの7分半の使い道を見つけるということです。何かいつもとは違うことに使うべきだと思います。これはボーナスで、元々なかったものなんですから。私はゲームデザイナーなので、「どうせ、その時間で何をさせたがっているか分かるぞ。ゲームをしろって言うんだ」と思っているかもしれませんね。もっともな推測です。私はずっとみんなにもっとゲームしましょうと言い続けてきたわけですから。たとえば最初のTEDTalkの時は、地球全体で週210億時間をゲームに費やすべきだと提案したのでした。210億時間といったら相当な時間です。

それだからこそ、あのTEDTalkの後、世界の人たちから寄せられたコメントで一番多かったのがこれだったんです。「ジェーン、ゲームも結構だけど、死の間際になってもアングリーバードでもっと遊びたいと思うの?」 そういう考えはすごく一般的です。ゲームは時間の無駄で、後で後悔することになる・・・どこへ行っても耳にします。これは実話なんですが、ほんの数週間前、このタクシーの運転手は、私と友人がゲームカンファレンスのために町に来たと知ると、振り向いて言ったんです。「ゲームは大嫌いだね。人生の無駄遣いだ。人生の最後に後悔するところを考えてみなよ」。この問題を真剣に考えたいのです。ゲームは世界を良くする力であって欲しいし、ゲームに費やした時間をゲーマーたちに後悔して欲しくはありません。だから最近この問題をよく考えています。人生最後の時に私たちはゲームしていた時間を後悔するのでしょうか?

驚くかも知れませんが、実はこの疑問に対する科学的な調査結果があったんです。人生の最後を迎える人たちを世話するホスピスの看護師が、死の間際に人がよく後悔することを、最近記事に書きました。今日は皆さんにそれをお教えします。人が死の間際によく後悔する5つのことです。1番、あんなに仕事ばかりするんじゃなかった。2番、友達と連絡を絶やさずにいればよかった。3番、もっと自分を幸せにしてあげればよかった。4番、本当の自分を表す勇気を持てばよかった。5番、他の人の期待に合わせるのでなく、自分の夢に忠実に生きればよかった。私の知る限り、もっとゲームをやればよかったと言っていた患者さんはいなかったわけですが、でもこの5つの後悔の話を聞いて、そこにある人間の深い欲求は、ゲームで満たすことができる、そう気付きました。

「あんなに仕事ばかりするんじゃなかった」というのは、多くの場合、もっと家族や成長しつつある子どもたちと過ごすべきだったということでしょう。いっしょにゲームをするのは、家族にとって良い点がたくさんあります。ブリガムヤング大学家政学部の最近の研究によると、子どもたちとビデオゲームをして多くの時間を過ごした両親は、実生活でも子どもたちとより強い絆を持っていることが分かりました。

「友達と連絡を絶やさずにいればよかった」。何億という人たちが、ファームビルやワーズ・ウィズ・フレンズのようなソーシャルゲームを通して友達や家族と日常的な連絡を保っています。ミシガン大学の最近の研究で明らかになったのは、こういったゲームが人間関係を保つ上で非常に強力なツールになるということです。いっしょにゲームをすることで、疎遠になりがちな人たちとも関係を維持することができるのです。

「もっと自分を幸せにしてあげればよかった」。最近、東カロライナ大学で行われた画期的な臨床試験の話を思わずにいられません。患者の不安や抑鬱を解消する上で、オンラインゲームが薬よりも高い効果を示したのです。毎日30分オンラインゲームをするだけで、気分や長期的な幸福度が劇的に改善されたのです。

「本当の自分を表す勇気を持てばよかった」。アバターというのは、本当の自分を英雄的な理想化された姿で表現する方法です。ロビー・クーパーが撮影した、このゲーマーとその分身の写真がそれをよく表しています。スタンフォード大学では5年にわたる調査から、理想化されたアバターでゲームをすることで、実生活での考え方や行動も変化し、より勇敢で野心的になり、目標に集中するようになると報告しています。

「他の人の期待に合わせるのでなく、自分の夢に忠実に生きればよかった」。ゲームがこれを実現しているのか分かりません。スーパーマリオのクエスチョンマークを付けておきました。後でまた取り上げます。

何でゲームデザイナーが死の間際の後悔の話なんかしているのかと思っているかもしれませんね。確かに私はホスピスで働いたこともなければ、自分自身、死に直面したこともありません。でも最近死にたいと思いながら3ヶ月ベッドで過ごしました。本当に死にたいと思っていたんです。お話ししましょう。2年前のことですが、頭を強く打って脳震盪を起こしました。脳震盪が治らず、30日過ぎても、絶えざる頭痛、吐き気、めまい、物忘れ、頭に霞がかかったような状態が続きました。医者は頭を癒すには休息が必要だと言って、症状の引き金となることを禁じました。だから、読書も駄目、書くのも駄目、ゲームも駄目、仕事もメールも駄目、走っても駄目、お酒もコーヒーも駄目。言い換えると、生きている意味がないような状態です。面白おかしく話していますが、真面目な話、脳の外傷が自殺願望に繋がることはよくあるんです。3人に1人に起き、私にも起きました。私の脳が言い始めたのです。「ジェーン、死にたいでしょ? きっと治らないわ。もう痛みが消えることはないのよ」。その声があまりに強く、絶えることがないので、自分の命を本当に心配し始めました。

はっきり覚えていますが、34日目にこう思ったんです。もう自殺するか、これをゲームにするしかない。どうしてゲームなのか? 10年以上ゲームの心理学を研究してきて分かったことがあります。ちゃんと学術研究があるんですが、ゲームをするときには私たちはよりクリエイティブになり、意志が強くなり、楽観的になり、他の人に助けを求めやすくなるんです。現実の問題の解決にこのゲーマーの特性を生かしたくて作ったのが、回復ロールプレイングゲーム「脳震盪ハンター・ジェーン」です。これが私の新しい秘密の自分となり、ハンターとして最初にしたのは、一卵性双生児の妹のケリーにこう言うことでした。「頭を治すためにゲームをやってるんだけど、あんたにも一緒にやってほしいの」。そう言う方が助けを求めやすかったんです。妹がこのゲームの最初の仲間になり、続いて夫のキアシュが加わりました。みんなで悪者を見つけてやっつけました。悪者というのは、私の症状を引き起こし、治癒を遅らせるもの、明るい光や、人混みなんかです。そしてパワーアップを集めて発動させました。これは最悪の日だろうと多少とも気分を改善し、生産的にしてくれるものです。飼っている犬を10分間抱きしめるとか、ベッドから出て近所を一回りするとか。ゲームは単純です。秘密の自分になり、仲間を集め、悪者と戦い、パワーアップを発動させる。ゲームは単純でも、やり始めてほんの数日で、鬱や不安の霧が晴れたのです。消えたんです。奇跡のようでした。頭痛や認知的な症状が魔法のように治ったわけではありません。それは1年以上続き、私の人生でも一番辛い時期でした。でも症状があり痛みがあっても、気に病まなくなったんです。

それからこのゲームで驚くようなことが起きました。私はブログを書き、ビデオをアップロードして遊び方を説明しました。でもみんな脳震盪を起こしているわけじゃないし、「ハンター」になりたいわけでもありません。だからゲームの名前を「スーパー・ベター」に変えました。すぐに世界中のいろんな人から反響がありました。みんな秘密の自分に変身して仲間を集め、「スーパー・ベター」になって癌や慢性痛や鬱やクローン病に立ち向かったんです。ALSのような不治の病の人までこのゲームをやっていたんです。彼らが寄せてくれたメッセージやビデオで、このゲームが私同様に彼らにも力になっていることが分かりました。「力と勇気を感じるようになった」「友達や家族と理解が深まった」「痛みや人生最大の困難に直面しながらも幸福を感じられるようになった」。これはどういうことなのでしょう? こんなに単純なゲームが、これほど深刻な、時には生死にかかわる状況で力強い効果を発揮するのはなぜなのか。自分で体験していなければきっと信じられなかったと思います。ここでも科学的な裏付けがあるのが分かりました。人によっては、深刻な出来事の後、より強く、より幸せになるんです。それが私たちに起きたことだったんです。このゲームは科学者が「心的外傷後の成長」と呼ぶ体験を促していたのです。あまり聞き慣れない言葉ですね。よく聞くのは「心的外傷後ストレス症候群」です。でも科学者たちは、心的外傷を起こす出来事がいつまでも私たちを苛むわけではないのを明らかにしました。逆にそれをバネにして自分の長所を引き出し、幸せな人生を歩むこともできるのです。

心的外傷後の成長を体験した人がよく口にする5つのことがあります。「優先順位が変わり、幸せを追求するのを怖れなくなった」「友達や家族とより親密になった」「自分自身がよくわかるようになり、本当の自分を知った」「人生に意味や目的を感じられるようになった」「自分の目標や夢に専念できるようになった」。聞き覚えがありませんか? 心的外傷後の成長の5つの特徴は、死の間際に後悔する5つのことのちょうど反対なんです。面白いですよね? 心的外傷を起こす出来事が、後悔せずに人生を送る能力を開放したかのようです。でもどういう仕組みなんでしょう? どうしたら心的外傷を成長に繋げられるのか? 心的外傷なしで心的外傷後の成長の利点だけ得られたらもっといいですよね? 頭を強く打ったりすることなしに・・・そのほうがいいと思いません?

この現象をもっと理解したくて科学文献を読み漁って分かったことがあります。心的外傷後の成長に寄与する4種類の回復力があって、それを高めるために毎日できる、科学的に裏付けられた方法があるんです。しかも心的外傷は不要です。その4種類の力を説明してもいいんですが、それより自分で体験して欲しいんです。今から全員でこの力をつけていきましょう。これからやるのは簡単なゲームです。お約束した7分半のボーナスをこのゲームで手に入れるんです。「スーパー・ベター」の最初の4つのクエストを皆さんにやり遂げていただきます。きっとできます。そう信じています。

じゃあ始めますよ。最初のクエストです。どちらか1つ選んでください。立ち上がって3歩進むか、両の拳を握って高く頭の上に5秒間突き上げてください。始め! 両方やっている人もいますね。頑張り屋さんですね。いいですよ。(笑) 良くできました。これは肉体的回復力+1です。皆さんの体がストレスに強くなって、早く回復できるようになるということです。肉体的回復力を高める一番良い方法は、じっとしていない、ということです。それだけでいいんです。じっと座っていない時間の1秒1秒が、心臓や肺や脳を積極的に健康にするんです。

次のクエストにいきますよ。指をちょうど50回鳴らすか、100から7ずつ減らして数えてください。始め! (指を鳴らす音)。諦めないで。(指を鳴らす音)。お互いの声でカウントを間違わないで。(笑) いいですね。こんなの初めて見ました。肉体回復力のボーナスポイントです。良くできました。今のは精神的回復力+1です。集中力、自制、決意、意志力を高められます。意志力は筋肉のようなものであることが科学的研究から分かっています。鍛えるほど強くなるんです。小さな挑戦だろうと諦めずにやれば、指を50回鳴らすとか、100から7ずつ減らしていくといったつまらないことでも、意志力を高められることが科学的に示されています。

良くできました。3つ目のクエストです。この場所ではやれるのが決まってしまうんですが、2つから選びます。屋内にいるなら窓から外を、屋外にいるなら窓の中を覗きます。もしくはYouTubeかGoogleで好きな動物の赤ちゃんの画像を見つけてください。携帯で探してもいいし、動物の名前を言ってくれたら探して画面に出します。何が見たいですか? ナマケモノ、キリン、ゾウ、ヘビ。では見てみましょう。赤ちゃんイルカに、赤ちゃんラマ。ご覧ください。いかがですか? もう1つ出しましょう。赤ちゃんゾウです。拍手してる人がいますね。素晴らしい。皆さんが今感じているのは、感情的回復力+1です。好奇心や愛のような力強いポジティブな感情を引き起こす力です。動物の赤ちゃんを見たときとか、それがまさに必要なときに起きる感情です。

科学文献で見つけた秘訣をお教えしましょう。ネガティブな感情1つに対してポジティブな感情3つを1時間か1日か1週間のうちに体験するなら、健康や問題解決能力が劇的に向上します。これは3対1のポジティブな感情の比率と呼ばれています。「スーパー・ベター」の中でもお気に入りの秘訣です。最後のクエストです。誰かと6秒間握手するか、誰かに感謝の気持ちをメールかFacebookかTwitterで送りましょう。始め! (おしゃべりの声) いい感じ、いい感じ。続けて。いいですね。皆さん、これは社会的回復力+1です。友達やご近所や家族やコミュニティから力を与えられます。社会的回復力を高める良い方法は感謝の気持ちです。触れあうのはもっと良いです。

もう1つ秘訣をお教えしましょう。誰かと6秒間握手すると、信頼のホルモンであるオキシトシンの血中濃度が劇的に上がります。握手した人たちは生物化学的に互いに好きになり、助け合いやすくなります。効果はすぐには消えないので、休み時間の交流の機会に活用してください。(笑)

皆さんは4つのクエストをクリアしました。では私の方も7分半のボーナス寿命を与えるミッションを完了できたか見てみましょう。もう1つ科学豆知識をご紹介します。この肉体的、精神的、感情的、社会的の4つの回復力を日常的に高めている人は、そうでない人より10年長く生きることが分かっています。本当です。3対1のポジティブな感情の比率を守り、1時間以上続けて座らず、気にかけている誰かと毎日連絡を取り、意志力を高める小さな目標に挑戦するなら、そうしない人より10年長く生きて、最初にお見せした計算式が導かれます。アメリカやイギリスで平均寿命は78.1歳ですが、1,000以上の査読付き科学論文から、4つの回復力を高めることで、これを10年伸ばせることが分かっています。だから1年当たりでは4つの回復力によって寿命を0.128年、つまり46日、あるいは67,298分伸ばせます。言い換えると、4つの回復力で1日当たり184分、1時間当たり7.68245837分寿命を伸ばせるということです。やりましたね。7分半は皆さんのものです。皆さん自分で勝ち取ったんです。(拍手) すごいでしょう。

ねぇ、待って、まだ秘密のミッションが残っています。この7分半の寿命のボーナスをどう使うつもりですか? こんなのはどうでしょう。この時間は魔法のランプにお願いするのに似ています。最初にプラス100万個の願い事を頼むことだってできるんです。いいアイデアでしょう? だから今日、この7分半を使って楽しい気分になり、体を動かし、好きな人と連絡を取り、小さなパズルに挑戦するなら、自分の回復力を高め、さらに時間を手に入れられます。しかも、それをずっと続けていけるんです。毎日の1時間1時間、人生の1日1日を、最後の時までずっと。しかもその時は、元々よりも10年先に伸びています。そして最後の時を迎えても、もはやあの5つの後悔をすることはないでしょう。力と回復力をつけて自分の夢に忠実な人生を送っているからです。それに余分の10年があれば、もっとゲームをする時間だってとれるでしょう。ありがとうございました。(拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたKazunori Akashi氏に感謝します。]

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オリジナル:  Jane McGonigal: The game that can give you 10 extra years of life