「イノベーションの神話」の著者Scott Berkunが10の疑問に答える

Guy Kawasaki / 青木靖 訳
2007年6月28日

Scott Berkunは1994年から1999年までMicrosoftのInternet Explorerチームで働いていた。最近出版された"The Myths of Innovation"(イノベーションの神話)の著者である。また2005年に はベストセラーとなった「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」を書い ている。ワシントン大学の大学院でクリエイティブシンキングについて教えており、ニューヨークのGELカンファレンスで「聖なる場所」と題する建築ツアーを行い、イノベーションとデザインとマネジメントをテーマ に執筆を行っている。

彼の新しい本ではイノベーションがどのように起きるかについてのロマンチックな見方を探って(というよりは吹き飛ばして)いる。このQ&Aセッションでは、彼がイノベーションの本当の姿について説明している。

  1. 問: (後付の物語ではなく)実世界で「ひらめき」が起きるのにはどれくらいの時間がかかるものなのか?
    答え: ひらめきというのは創造の氷山の一角に過ぎない。そしてひらめきはすべて努力に基づいている。歴史上知られている魔法のような発見の瞬間をどれでも選 び、そこから時間を遡ってみるなら、その発見を可能にした何ダースもの小さな観察、探索、誤り、喜劇が起きているのを見出すことだろう。すぐれたイノベータはそのことを知っており、たいてい魔法の瞬間を重くは見ていないものだ。しかし私たちはみんなエキサイティングな物語が好きで——ニュートンに落ちてきたりんごが当たったとか、チョコレートを持った人とピーナツバターを持った人が廊下でぶつかったとか——そんなふうに考える方が面白いからだ。映画が「アインシュタインが90分黒板とにらめっこしている」というのではヒットしそうにない。
  2. 問: イノベーションというのは直線的に進んでいくものなのか? たとえば、トランジスタから集積回路、パーソナルコンピュータ、Web、MySpaceという具合に。
    答え: 多くの人が歴史に期待するのは、どうやれば未来を変えられるかではなく、我々はどうやって今いる場所にたどり着いたのかということだ。その期待に応えるため、人気のある歴史の話というのは英雄的で筋の通った物語になっている。トランジスタが作られ、それが集積回路につながり、それによってPCが可能になり、という具合にずっと続いていく。しかしウィリアム・ショックレー(トランジスタ)やスティーブ・ウォズニアック(PC)に彼らのアイデアや成功がどれくらい当たり前のことだったのか尋ねてみ たなら、混乱と不確かさと見込みの悪さでいっぱいの全然違った話を聞くことになるだろう。
    現在のイノベータたちにとって物事が不確かであると思うなら、過去のイノベータたちにとっても物事は同じように不確かだったことを覚えておく必要がある。それが私の本の大きな目的となっている。イノベーションの歴史の驚くべき話を、イノベーションを今起こそうとする人の道具として使うということだ。
  3. 問: イノベータというのは生まれつきのものなのか?
    答え: それはどちらでもある。モーツァルトを取り上げるなら、確かに彼は作曲について驚くべき才能を持っていたが、音楽の世界の中心だった国に生まれ、音楽教師を父とし、幼稚園に入る前の年齢から毎日何時間も練習をしていたのだ。私は歴史上の多くの天才やクリエーターのことを調べたが、彼らの偉業を可能にした要因には常に広範なものがあり、その中には彼ら自身コントロールできたものもあれば、できなかったものもある。
  4. 問: イノベータが直面するもっとも困難な問題は何か?
    答え: それは個々のイノベータによって違うが、多くの人が直面しているのは、彼らのアイデアに周りがいかに無関心かということだ。感情的なものにせよ金銭的なものにせよ知的なものにせよ、新しく大きなアイデアに対して支持を得ることは非常に難しく、それには知的能力やクリエイティブな能力とは関係のないスキルが必要になる。これは天才になれるかもしれない人たちの多くにとって、致命的なことになりうる。彼らは創造をしながら、それよりずっと多くの時間を他の人たちを納得させるために費やさなければならず、そのためのスキルや忍耐強さは持ち合わせていないのだ。
  5. 問: 発明家やイノベータはアイデアをどこから得るのか?
    答え: 私はワシントン大学でクリエイティブシンキングについて教えているが、そこで基本的なことは、アイデアは他のアイデアの組み合わせということだ。 「クリエイティブ」であるとされる人たちは、実際にはより多くのアイデアの組み合わせを考え出し、おもしろい組み合わせをより早く見つけ、そういう試みを喜んでやれる人たちなのだ。問題なのは多くの学校や組織がそういうことをしないように人々を訓練しているということだ。
  6. 問: イノベータはなぜ拒否や否定に直面するのか?
    答え: それは変化から自分を守ろうとする人間の本性のためだ。我々は自分たちが進歩的であると思いたがるが、イノベーションの波というのは話に聞いているよりもずっとゆっくりしたものだ。電報、電話、PC、インターネットはいずれも、アイデアの段階から一般の人たちが使うようになるまでに何十年もかかっている。種としての我々は変化に脅かされるものなのであり、人々に振る舞いを変えるように説得するのには長い時間がかかる。
  7. 問: 「専門家」に言わせるとバカみたいに見えるアイデアを持っているとき、それが成功するものなのか、それとも文字通りのバカなアイデアなのかは、どうすれば知ることができるか?
    答え: 責めないでほしいのだが、それは分らないというのが答えだ。確かなことはわからない。それが楽しいことや悲惨なことの生まれる源になっている。たくさんのバカなアイデアが成功してきたし、たくさんの素晴しいアイデアが無駄に死んできた。それは成功というのがコントロール不能な要因に左右されるためだ。
    一番見込みが高いのは、実験者、いじくり屋になることだ。アイデアを金をかけずに素早く試せるようになり、象牙の塔で夢想するのでなく、人々のいるところへ出て行くことだ。実際の人間相手の経験は、多くの場合専門家の分析に勝る。イノベーションというのは実践——習慣のセット——であり、進んで多くの間違いをしてそこから学ぶということなのだ。
  8. 問: ベンチャーキャピタリストであればどのように投資するのが良いか?
    答え: 2つある。どちらも私のオリジナルではなく、歴史から出てきたものだ。1つ目はポートフォリオ。多くのベンチャーは、たとえいいものであろうと失敗するということを知っておく必要がある。だから適当な範囲にリスクを分散しておくことだ(たとえば1/3は超ハイリスク のもの、1/3はハイリスクのもの、1/3は適度なリスクのもの、という具合に)。一見小さくローリスク/ローリターンと見えるイノベーションが大きなインパクトを持つことがあり、大きな賭けばかりするのは誤りだ。
    もう1つは人間だ。私ならアイデアやビジネスプランよりも人間に対して投資する(アイデアやビジネスプランが重要なのはもちろんだが)。簡単にあきらめず、学びつづけ成長し続ける優れた起業家というのは宝だ。最初から成功する起業家の割合は非常に小さい。3M、Ford、Flickrは いずれも2度目か3度目の試みで生まれたものだ。それからタイトルに 「神話」を含むイノベーションの本を出した著者にも何百万ドルか寄贈するといい。未来は本当にイノベータたちの手にあるのだ。
  9. 問: イノベーションが受容されるスピードを決める主要な要因は何か?
    答え: そのトピックについての古典的な研究にロジャーズの「イノベーション普及学」がある。その中で定義されている要因は今日でもよく当てはまると思う。驚くのは、それがすべて社会学的なもの だということで、価値の認識とリスクに対する恐れに基づいている。人がそのテクノロジーをどれくらいすごいと思うかとはあまり関係ない。利口なイノベータはこのことが分っていて、誰向けにデザインするのかを最初から意識しており、Webサイトや製品を彼らのフィーリングや考え方に合わせるように心がけている。
  10. 問: 問題の設定と問題の解決ではどちらがより重要か?
    答え: 問題の設定が過小評価されているのは確かだが、どちらも重要だ。新しいアイデアはしばしば新しい質問を問い、クリエイティブな質問者になることから生まれる。私たちはソリューションの方ばかりに目を向けがちで、クリエイティブな人々を扱った読み物も彼らを解決者として取り上げているが、クリエイティビティの肝心な部分が問題を解きやすい形に再定式化することにある場合がしばしばある。 優れた問題設定者として知られる人にアインシュタインとエジソンがいる。彼らは他の人たちとは違った仕方で問題を設定し、それが彼らの成功に繋がったのだ。
  11. 問: 一番いいアイデアが必ずしも勝たないのはなぜか?
    答え: 理由の1つは一番いいアイデアというのは存在しないからだ。同じ問題に対し、視点によって最良の解や最良の選択は別なものになる。電報を作った人たちは電話がいいアイデアだとは思わなかったと思うが、それが彼らの生計を奪うことになった。だから進歩が間違った方向に進んだ という話の多くは、認識の傲慢さのためだ。誰かが正しいと考える道(彼ら自身に一番利益のある道)が、より大きな影響力を持つ別のグループの人にとっては正しい道ではない のだ。
  12. 問: イノベーションは年取った人より若い人から生まれる可能性が高いのか? あるいは年齢は関係がないのか?
    答え: イノベーションは困難でリスキーなものだ。そして年を取るほど、そのことを強く感じるようになる。そういう説明が一番いいと思う。ベートーベンが第9を書いたのは晩年であり、クリエイティブな人の多くが年と関係なくクリエイティブでいつづけることがわかる。しかし世界に新しいアイデアをもたらすことにともなうストレスや困難に耐える気持ちは年とともに小さくなっていく。経験からそのコストをより理解するようになるためだ。若い人は恐れるべきものがあることも知らず、自分を証明したいという欲求が強く、縛られるものも少ない(たとえば子供やローンなど)。そういった要因によってクレージーなことにもトライしやすくなるのだ。

 

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オリジナル: Ten Questions with Scott Berkun, Author of "The Myths of Innovation"
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