圧力に屈するか、それとも交渉するか

Gerald Weinberg / 青木靖 訳
2006年5月4日 木曜

私の最近のコンサルティング・クリニックで、1日ちょっと使って交渉というテーマに取り組んだ。仕事の内容、価格、条件、日程、そのほか、コンサルタントとクライアントの 間で行われるあらゆる交渉を扱った。宿題として、みんな何かについて交渉してくることになった。私はただの食事にありついた。ある人はジャケットを50ドル値切った。ある参加者は クライアントに電話をかけて受け取っていた報酬を2倍にした。

少なくともアメリカ人には、交渉(negotiation)というのは汚い言葉、一種のタブーと見られている。宿題はこのタブーを乗り越えるために出したものだ。私たちは交渉についていろんなことを学んだが、中でも一番重要なのは、私たちが自分の回りに張り巡らしている心理的な障壁 のことだ。そのような障壁について知るために、2つのシナリオを見てみることにしよう。そこではクライアントのためにソフトウェアコンポーネントを作っているコンサルタントの交渉がまずく進んでいく。

 

シナリオ1:

ボブ(クライアント側のボス):  フェイ、例のコンポーネントをテスト向けにリリースできるのはいつになる見込み?

フェイ(コンサルタント):  注文しているツールさえ手に入れば、14週間で用意できると自信をもって言えます。

ボブ:  [がっかりした様子] そうなんだ。

フェイ:  何かまずいですか?

ボブ:  ウーン・・・

フェイ:  本当に根詰めてやれば、12週間でやれると思います。

ボブ:  [まだ浮かない様子] そう。

フェイ:  いいでしょう、すべてうまくいけば、10週間でやれます。

ボブ:  [いくぶん明るくなる] 8週間だって言ってたよね?

フェイ:  わかりました。8週間でやりますとも。

ボブ:  [頬笑んで] そうこなくちゃ、フェイ。君ならやってくれるとわかっていたよ!

 

シナリオ2:

ダーリーン(クライアント側のボス):  アイラ、例のコンポーネントをテスト向けにリリースできるのはいつになる見込み?

アイラ(コンサルタント):  注文しているツールさえ手に入れば、14週間で用意できると自信をもって言えます。

ダーリーン:  [席を立って声を上げる] アイラ、そんなの受け入れられない。8週間後に必要なの。それより1日だって後じゃだめよ!

アイラ:  [目を落として靴紐を見ている] あの・・・でもやることがすごくたくさんあって・・・

ダーリーン:  [顔を紅潮させ、声を一段と高くする] アイラ! あなたにそんなネガティブなこと言って欲しくないわね! 私たちチームでしょ。否定的な人のいる場所なんかないのよ!

アイラ:  [喉がカラカラになって、唾を飲み込もうとする] まあ・・・どうにか・・・

ダーリーン:  [満面の笑み] ・・・できるんじゃない! どうにかしてくれるってわかっていたわ、アイラ。[ドアの方に向かう] いいわ、じゃあ、約束だから、失望させないでちょうだい。8週間後にまた! [ドアから出て行く]

 

問: この2つのシナリオの間の重要な違いは何か?

答え: ない。重要な違いはない。ボブはソフトなアプローチを使い、ダーリーンはハードなアプローチを使ったが、本当に違っていることは何もない。成功する交渉には通常、日程、リソース、技術的な仕様の間のトレードオフが関わっているものだ。しかしこれらの2つのシナリオにはトレードオフがまったくない。一方の人が相手を望みに従わせる操作の仕方が違っているだけだ。

 

シナリオ3。より良い結果が得られるのは何か

アナベル(クライアント側のボス):  マイロン、例のコンポーネントをテスト向けにリリースできるのはいつになる見込み?

マイロン(コンサルタント):  注文しているツールさえ手に入れば、14週間で用意できると自信をもって言えます。

アナベル:  [がっかりした様子] そうなの。

マイロン:  まずいですか?

アナベル:  そうね、あまり良くないわ。

マイロン:  もしスケジュールが重要なのでしたら、代替案を考えましょう。

アナベル:  もう人は増やせないわ。すでに人手不足だし。

マイロン:  いいでしょう、実際のところ、今の時点で新しく人を入れてもらっても、益より害の方が大きい。でも、どこかで帳尻を合わせる必要があります——スケジュールを短くして、リソースはそのまま、仕様も変えないというわけにはいきません。

アナベル:  確かにその通りね。でもマーケティングチームに見せられるものを何か、8週間で準備する必要があるの。ビジネス展示会があって、デモをやんなきゃいけないのよ。その日程は変えられないわ。

マイロン:  わかりました。たぶんデモから何かの機能を削るか、見かけだけのものを作る必要がありそうですね。

アナベル:  [笑顔になって] どうやらそのようね、マイロン。ちゃんとした見た目で8週間で作れるものということで、考えることにしましょう。

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そうしてアナベルとマイロンは、どの機能がいいデモをするためにもっとも効果的で(アナベルの問題)、マイロンのチームの能力の範囲内で実現可能か(マイロンの問題)を検討するという実務に取りかかる。ここでは誰も犠牲になっていないし、誰も操作されていない。交渉はオープンで事実に基づいており、憶測や金切り声や懐柔によって行われてはいない。

もちろん、このような交渉をするには信頼が不可欠だ。相手への信頼が必要だが、しかしそれ以上に、自分への信頼が必要なのだ。

私の経験では、コンサルタントとクライアントの間の問題の少なくとも半分は、まずい交渉の結果として起こる。通常それは、交渉相手の様々な形態の意識的・無意識的な操作に対処するスキルと意志を欠いていることが原因だ。

理解した? 操作への対処の仕方についてもっとよく学ぶと約束したからね。失望させないでよ!

 

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オリジナル: Yielding to Pressure vs. Negotiating