バーチャル合唱団ライブ

Eric Whitacre / 青木靖 訳
2013年3月 (TED2013)

1991年に、私の人生の中で最も深く動かされる体験をしました。大学の学部の3年目のことで—学部には7年いたんですが・・・何回か「ビクトリー・ラップ」をしていたもので—合唱団のツアーで北カリフォルニアに行って、丸一日バスに乗っていた後、山の中ののどかな湖畔で休憩していました。コオロギや鳥やカエルが賑やかに鳴いています。それから北の方の山から、スピルバーグの映画に出てきそうな雲がこちらに迫ってきて、雲が谷になかば差し掛かった時、鳴いていた動物たちが一斉に鳴きやんだのです。ひゅーっ。瞬時に訪れた静けさ。みんな何が起きようとしているのか知っているかのようでした。そして雲が頭上まで来たとき、ドカーン! ものすごい雷鳴がして、激しい雨が降り出しました。すごいとしか言いようのないものでした。家に帰ってから、メキシコの詩人オクタビオ・パスの書いた詩を見つけ、それに音楽を付けて『豪雨』という合唱曲を作ることにしました。すぐ後でお聞かせします。

時を進めて3年前のことですが、YouTubeでこの「バーチャル合唱団」プロジェクトを公開しました。12カ国から185人の歌手が参加しています。映像の中で、それぞれ寮の自室や自宅の居間にいるその人達を、小さな私が指揮しているのが見えるかと思います。2年前、この場所で「バーチャル合唱団2」を初披露しました。58カ国の2,052人の歌手が参加し、私の書いた『眠り』という曲をやりました。そして昨年の春に「バーチャル合唱団3」を公開しました。『ウォーター・ナイト』という私の書いた曲を、73カ国の4千人近い歌手が歌っています。

バーチャル合唱団の将来について今後どう持っていくかクリスと話していた時、技術を極限まで押しやることになる挑戦を彼は私に課しました。これをリアルタイムでできないか? みんなリアルタイムで歌い合わせるというのは? Skypeの助けを借りて、今日それをやろうとしています。『豪雨』を皆さんにお聞かせします。はじめの半分はステージにいる歌手が歌います。参加してくれたのはカリフォルニア州立大ロングビーチ校とフラートン校、それにリバーサイド・シティ・カレッジで、アメリカでも最高のアマチュア合唱団です。(拍手) 後半部で30カ国から30人のバーチャル合唱団がこれに加わります。技術の粋を尽くしても遅延が出て、1秒未満ですが、音楽では一生くらいの長さです。ミリ秒単位でやっているわけですから。それで私がやったのは、『豪雨』を編曲して遅延を許容できるようにし、歌手達が正確に合わせようとするのではなく、遅延の中で歌えるようにするということです。では恐れながら皆さんのお許しを頂いて、『豪雨』を演奏させて頂きます。(拍手)

雨・・・
影の水の目
井戸水の目
夢の水の目
青い太陽 緑の風
光の嘴がつつき開く
ザクロ色の星々
教えてほしい 焼けた地よ
水はないのか?
血ばかり 塵ばかり
とげの上の裸足の足音がするばかり
雨が目を覚ます・・・
目を開けて眠らなければならない
手で夢を見なければならない
道を探す川の夢を 夢見なければならない
自らの世界を夢見る太陽の夢を
声に出して夢見なければならない
歌わなければならない
歌が根を張り 幹 枝 鳥 星になるまで
失われた言葉を見つけねばならない
血が 潮が 大地が 肉体が言うことを覚え
出発の地まで戻らねばならない

(オクタビオ・パス 『豪雨』 ライサンダー・ケンプ訳 エリック・ウィテカー編)

 

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オリジナル:  Eric Whitacre: Virtual Choir Live