テスラモーターズ、SpaceX、ソーラーシティの夢 (TED Talks)

Elon Musk / 青木靖 訳
2013年2月

クリス イーロン、どんなクレージーな夢が、電気だけで動く車を作って自動車業界に挑戦しようなんて気を起こさせたんですか?

イーロン 大学時代に遡ります。未来の世界や人類の将来に最も影響する問題は何だろうかと考えていました。そして持続可能な輸送手段と持続可能なエネルギー生成が極めて重要だろうと思ったのです。環境問題を別にしたとしても、持続可能なエネルギーの問題は私たちが今世紀中に解決しなければならない最大の課題です。仮に二酸化炭素排出が環境に良かったのだとしても、炭化水素を使い果たしてしまうことを考えれば、何か持続可能な手段を見つける必要があります。

クリス アメリカでは電力のほとんどを化石燃料を燃やすことで得ています。電気自動車がどうしてエネルギー問題の解決に繋がるんですか?

イーロン 答えは2つあります。1つは、たとえ同じ燃料を使って発電所で発電し、電気自動車を充電するのだとしても、その方が状況は改善されるということです。たとえば天然ガス。これは最も一般的な炭化水素燃料ですが、現在のゼネラル・エレクトリックの天然ガスタービンで燃やすと、効率は60%になります。同じ燃料を内燃機関の自動車で使うと、効率は20%です。その理由は、発電所ではずっと重たい物や大きな物を使え、廃熱でタービンを回して二次動力源とすることもできるからです。結果として、送電時のロス等を考慮しても、発電所で燃やして電気自動車を充電する方が、同じ燃料を少なくとも2倍効率良く使えるのです。

クリス 規模による効率というわけですね。

イーロン そうです。もう1つの理由は、持続可能な発電手段はどのみち必要になる、ということです。そうであるなら、輸送手段として電気自動車を選ぶのは理にかなったことでしょう。

クリス テスラの組立工場の映像があるんですが、最初の映像を流しましょう。この自動車の製造工程のどこが革新的なのでしょう?

イーロン 電気自動車時代の到来を加速させるためには——実際あらゆる輸送手段は、1つの例外を除いて完全に電化されるだろうと思っています。例外はロケットなんですが——ニュートンの第3法則を覆す方法はないので。問題はどうやって電気輸送の時代を加速させるかということです。自動車に関して言えば、エネルギー効率の極めて良い車を考え出す必要があります。非常に軽くする必要があります。ご覧いただいているのは、北米で生産されているものとしては唯一総アルミ製のボディとシャーシです。大きなバッテリーパックを付けても軽量な車を作るために、ロケット設計の技術をたくさん取り入れています。そしてこのサイズの車としては最小の抗力係数を持っています。だから基本的にエネルギー消費量が非常に低く、また最も先進的なバッテリーパックを備えていて、実用に耐える走行距離を実現しています。実際400キロくらい走ることができます。

クリス バッテリーパックはすごく重たいものですが、それでもうまくやれば、軽量な車体と重いバッテリーの組み合わせで優れた効率性を実現できるということですね。

イーロン ええ。バッテリーの重さを相殺するため車の他の部分を非常に軽くし、高速で長く走れるよう抗力係数を低くしているんです。モデルSのユーザの間では、どれだけ長く走れるか競うなんてことも行われています。最近、1回の充電で676キロ走ったという人がいました。

クリス その記録を作ったブルーノ・バウデンがこの会場にいますよ。

イーロン お見事。

クリス それは話の良い部分ですが、悪い部分は、記録を作ろうと時速29キロでずっと走っていたため、警官に止められたそうです。(笑)

イーロン 請け合いますが、通常のコンディションなら時速105キロで400キロ走れます。悪くない数字でしょう。

クリス 次のビデオを見てみましょう。雪の中を走っているところです。別にニューヨークタイムズを当てこすってるわけじゃありません。この車を運転していて一番驚くことは何でしょう?

イーロン 電気自動車を扱っていると、車の反応性は本当に驚くべきものです。皆さんにあの感覚を体験して頂きたいのですが、車に溶け込んで一体になったかのような感じがします。ターンや加速が、超能力でも使っているかのように、瞬時にできるんです。電気自動車の反応性の為せる技です。ガソリン自動車には無理な話です。とても本質的な違いで、実際に運転してみて初めて分かることです。

クリス とても素晴らしい車だと思いますが、高価ですよね。これを大衆向けの乗り物にする計画というのはあるんでしょうか?

イーロン ええ、テスラではずっと三段階のプロセスを考えてきました。バージョン1は高価で少量の車、バージョン2は中くらいの価格と数量の車、バージョン3は低価格で大量の車です。だから今は第二段階です。最初は10万ドルのスポーツカーのロードスターでした。次が5万ドルからというモデルS。そして第3世代の車は、3〜4年内に開発したいと考えていますが、3万ドルくらいになるでしょう。本当に新しいテクノロジーというのは、大衆市場に受け入れられるまでに3つのメジャーバージョンを要するのが普通です。私たちはその方向に進んでおり、実現できることに自信を持っています。

クリス 短い通勤であれば、運転していって、帰ってから家で充電すればよいわけですが、高速な充電ステーションの全国的なネットワークというのは現在ありません。そのようなものは実現されるのか、それとも一部の主要ルートにだけできるのでしょうか?

イーロン 実際には、みんなが思っているよりずっと多くの充電ステーションがあります。テスラではスーパーチャージング・テクノロジーというのを開発していて、モデルSを買った人は永久的に無料で利用できます。これは多くの人が知らずにいることかもしれません。カリフォルニア州とネバダ州は既に網羅していて、東海岸のボストンからワシントンDCの間も網羅しています。今年末にはロサンゼルスからニューヨークまで、スーパーチャージャー網で行けるようになります。これを使うと、他のより5倍速く充電できます。重要なのは、運転時間と停止時間の比率を6〜7程度にするということです。3時間運転したら20〜30分休憩したいでしょう。普通の人はそうします。だから朝9時に出発したら、昼には休憩して何かお腹に入れ、トイレに行き、コーヒーを飲んでから出発するという具合です。

クリス 消費者向けのアピールとしては、フル充電には1時間かかり、10分ではできないことを分かってもらう必要があるけど、良い報せは環境保護に貢献できることで、おまけに電気がタダになって、一文も払わなくていいと。

イーロン 多くの人は1時間でなく20〜30分休むだろうと思っています。実際のところ、260〜270キロくらい走ったら30分ほど休んでから出発した方が良いでしょう。それが自然なリズムです。

クリス なるほど。これはあなたのエネルギーへの取り組みの一面で、別にソーラーシティという太陽光発電の会社もやっていますね。これはどこが特別なんでしょう?

イーロン 前にも言いましたが、私たちは電気の持続可能な消費だけでなく、生産も行う必要があります。発電の中心的な方法は太陽光になると私は確信しています。これはいわば、間接的核融合です。空には太陽という巨大核融合炉があり、私たちはただそれを人類文明のために少しばかり利用すればいいだけです。多くの人があまり意識していないのは、世界は既にほとんど太陽エネルギーで動いているということです。太陽がなかったら、地球は絶対温度3度の凍った世界になってしまいます。水が循環するのも太陽の力によってです。生態系全体が太陽エネルギーで動いているんです。

クリス でも石油には何千年分もの太陽エネルギーが凝縮されているわけで、太陽光でそれと張り合うのは難しいでしょう。たとえば天然ガスとはとても競合できない。どうやって商売しようとしているんですか?

イーロン 実際のところ、太陽エネルギーは天然ガスを含め、あらゆるものを圧倒することになるだろうと思っています。(拍手)

クリス どうやって?

イーロン そうでなければいけません。でないと深刻な問題を抱えることになります。

クリス ソーラーパネルを消費者に売っているわけではありませんよね? 何をやっているんですか?

イーロン いいえ、売ってもいます。ソーラーパネルを買うこともできるし、リースすることもできます。多くの人はリースする方を選びます。太陽光システムのいいところは燃料も運用コストもかからないことで、一度設置すれば、ほっといても何十年も機能し続けます。たぶん100年くらい使えるでしょう。だから重要なのは初期の設置コストをいかに引き下げるか、融資のコストをいかに低くするかということで、この2つが太陽光発電の主要なコストなんです。この面で私たちは大きな前進をしており、それが天然ガスに勝てると自信を持っている理由です。

クリス つまり消費者に対するウリは、初期費用がそんなにかからず—

イーロン ゼロです。

クリス 初期費用ゼロで、皆さんの屋根にパネルを設置しますと。その後お支払い頂く。リース期間は通常どれくらいですか?

イーロン 20年リースが一般的です。ここでのセールスポイントは、あなたが言われたように明快で、初期投資不要で電気代が下がる。いい話だと思います。

クリス 消費者にとってはいいことずくめですね。リスクなし。支払いは今よりも下がる。でも、あなたにとってはどうです? 長期的には、ソーラーパネルの電気は誰のものになるのか? 会社としてどうやって利益を出すのか?

イーロン 基本的にソーラーシティ自身は資金を企業や銀行から調達します。Googleはここで大きなパートナーの1社です。彼らは投資のリターンを期待しています。この資金を使ってソーラーシティはソーラーパネルを買って屋根に取り付け、家や会社の持ち主に月々のリース料を払ってもらいます。リース料は電気代よりも安くなります。

クリス あなた自身はその電力から長期的に利益を得られますね。新しい種類の分散電力網を構築しているわけで。

イーロン その通りです。巨大な分散的電力網ができます。これは良いことだと思います。電力はずっと独占事業で、人々に選択肢はありませんでした。この独占に競争をもたらせる初めての機会なんです。電力網は電気会社が独占していたのを、今やみんなが屋根の上に持てるようになった。家や会社の持ち主にとって、とても力になることだと思います。

クリス そしてあなたは、将来アメリカの主要な電力源は、10年、20年、あるいはあなたの生きているうちに、太陽光になると思っているわけですね?

イーロン 太陽光が多数になることには、とても自信を持っています。たぶん大部分がそうなるでしょう。私は20年以内に多数が太陽光になると予言していて、ある人と賭けもしています。

クリス その「多数」の定義は?

イーロン 他のどの電力源よりも多くなること。

クリス なるほど。ちなみに誰と賭をしたんですか?

イーロン 友人ですが、名前は伏せておきます。

クリス 私たちだけに教えてよ。(笑)

イーロン この賭をしたのは2、3年前なので、18年後には他の何よりも太陽光発電が多くなっていると考えています。

クリス あなたがしたもう1つの賭けの話にいきましょう。ある種クレージーな賭です。あなたはPayPalを売って得た資金で宇宙事業を始めることにした。よりにもよって、なんでまたそんなことを?(笑)

イーロン その質問ならよくされます。「宇宙事業で小金持ちになった男の笑い話を聞いたことある?」と言われます。「元々は大金持ちだった」というのがオチなんですが。だから私は、大金を小金に素早く変える方法を探していたんだと言っています。すると相手は「マジかよ?」と。

クリス 妙なことに、あなたはマジだった。

イーロン 危ない時もありました。全然うまくいかなくて瀬戸際までいきましたが、乗り越えられました。2008年のことです。SpaceXの目標はロケット技術を発展させることで、宇宙旅行できる文明になることは、人類にとって極めて重要だと思っています。そのために素早く完全に再利用できるロケットが必要なんです。

クリス 人類を宇宙旅行できる文明にですか? それは子どもの頃からの夢とかですか? 火星に行くことを夢見ていたとか?

イーロン 子どもの頃確かにロケットを作ったりしましたが、将来の仕事としては考えていませんでした。それはむしろ、未来をワクワクする刺激的なものにするために何が起きる必要があるか、という視点から来たものです。これは根本的な違いをもたらすと思っています。宇宙旅行文明を持ち、星々を探検し、複数の惑星に広がるすごくエキサイティングな人類の未来と、永遠に地球に閉じ込められたまま絶滅をもたらす事態が起こるのを待つ、という違いです。

クリス あなたはロケット製造のコストを75%も削減したとか。計算の仕方で数字は多少変わりますが。どうしてそんなことが出来たんですか? NASAはずっと長い間やってきたわけですよね?

イーロン 私たちは様々な技術を大きく進めました。機体、エンジン、電子系、打ち上げの運用。革新したことは山ほどあります。私たちがしたことをこの場でお話しするのはちょっと難しいんですが—

クリス 真似されたら困りますものね。特許を取ってないから。私からするとすごく興味深いことです。

イーロン ええ、特許は取りません。

クリス 特許を取るのは、取らないのより危険だと?

イーロン 我々の主要な競争相手は国家で、特許を強制できるか疑わしいもので。(笑いと拍手)

クリス すごく興味深いですね。でも、やらなければならない大きなイノベーションが、まだ残っていますね。それについて話してください。

イーロン その大きなイノベーションというのは—

クリス あのビデオを流しましょう。これを見ながら何をやっているのか教えてください。

イーロン ロケットの問題が何かというと、使い捨てだと言うことです。現在のロケットはみんな使い捨てです。スペースシャトルは再利用可能ロケットを作る試みでしたが、メインタンクは毎回捨てていたし、再利用される部分も次の飛行までに9ヶ月と1万人の人手をかけて修理する必要がありました。結果としてスペースシャトルは1回の打ち上げに10億ドルもかかり、どう見ても割が良くない。

クリス (映像を指して) いったい今の何ですか? なんか着陸したみたいですが?

イーロン ロケットの各段が自分で打ち上げ場に戻ってきて、数時間内にまた打ち上げの準備ができるということが重要なんです。

クリス すごい。本当の再利用可能ロケットですね。

イーロン ええ。多くの人が知らないのは、燃料のコストはすごく小さいということです。ジェット機と大して違いません。燃料のコストはロケットのコストのうちの0.3%ほどに過ぎません。ロケットが本当に再利用可能になれば、宇宙飛行のコストは百倍も改善できるんです。それが再利用の重要な理由です。私たちが使う輸送手段は、飛行機、電車、自動車、バイク、馬、いずれも再利用可能で、ロケットだけが例外です。宇宙旅行文明になるために、これは解決すべき問題なんです。

クリス さきほど私に聞かれましたが、毎回船を焼かなきゃいけないとしたら、船旅に果たしてどれほど人気があるかと。

イーロン ある種の船旅にはかなり問題でしょう。

クリス 高くなるのは確かですね。再利用は確かに転換をもたらす技術で、あなたの夢である、いつか人類を大規模に火星に送るということの実現に道を開くことになるでしょう。あなたは火星への植民を考えているんですよね?

イーロン ええ、SpaceXは他の会社や政府と協力して、そういう方向に進まなければと思っています。複数の惑星に広がり、他の惑星——現実的な選択肢としては火星ですが、基地を作り、本当に複数の惑星にまたがる種となるまで、築いていく必要があります。

クリス その「再利用可能にしよう」というのは、どこまで進んでいるんですか? 今見たのはシミュレーション映像でしたが、実際はどうなんでしょう?

イーロン 最近その点で大きな進展がありました。グラスホッパー・テスト・プロジェクトと呼んでいますが、垂直着陸の部分をテストしています。この飛行の最終段階が特に難しいんですが、テストで良い結果が出ています。

クリス 見せていただけますか?

イーロン サイズが分かるように、ジョニー・キャッシュの格好をしたカウボーイのマネキンをロケットにくくりつけてあります。(笑)

クリス では映像を見ましょう。何をしているか考えると、すごい映像です。こんなの見たことないと思います。ロケットが打ち上げられ、それから—

イーロン このロケットは建物の12階くらいの大きさです。40メートルの高さでホバリングしています。絶えず角度を調整しています。ピッチとヨーをメインエンジンで、ロールを石炭ガス噴射機で制御しています。

クリス すごいね。イーロン、いったいどうやってやったんですか? これらのプロジェクトは、PayPal、ソーラーシティ、テスラ、SpaceX、どれもかけ離れていて、ものすごく野心的なプロジェクトです。どうしてそのような革新が1人の人間にできるのでしょう? あなたの何が特別なのか?

イーロン 正直なところ分かりません。良い答えを持ち合わせていません。ものすごく働きはします。

クリス 私は仮説を持っています。

イーロン 承りましょう。

クリス 私の理論では、あなたにはデザインをシステムのレベルで考える能力があって、デザインとテクノロジーとビジネスを——TEDならぬTBDですね——デザイン、テクノロジー、ビジネスをひとまとめにして、わずかな人にしか出来ないような仕方で総合することができる。そしてここが肝心なんですが、そのまとめ上げたものにすごく自信を持っていて、とんでもなく大きなリスクも負うことができる。あなたは自分の財産をそれに賭け、しかも何度もやっています。ほとんど誰にもできないことです。その秘伝のタレを教えることはできないでしょうか? それを教育システムに組み込んだり、誰かに伝えることはできないものか? あなたがしたのは本当に驚くべきことだから。

イーロン ありがとうございます。考えるための素晴らしいフレームワークがあります。物理学です。原理と推論——つまり物事を本質的な真理まで煮詰め、そこから推論するということです。アナロジーで推論するというのでなく。我々は生きていく上でアナロジーによる推論をしています。これは本質的には、人のしていることを真似て少しだけ変えるということです。それは必要なことです。そうしなければ精神的に一日も持たないでしょう。しかし何か新しいことをしようという時は、物理学のアプローチを使う必要があります。物理というのは、量子力学のような直感に反する新しいものを見つける方法なんです。だからそのようにするのが重要だと思っています。そしてまたネガティブなフィードバックに注意を払うことも重要です。特に友人に意見を求めることが大切です。シンプルなアドバイスに聞こえるかもしれませんが、ほとんど誰もやっていないことで、すごく力になるんです。

クリス 見ている子どもたち、物理を勉強しよう。この人に倣って。丸一日でも続けたいところですが、TEDに来ていただき感謝します。

イーロン こちらこそ。

クリス すごく良かった。本当にいかしてました。向こうを向きましょう。(拍手) 拍手に答えて。本当に素晴らしかった。ありがとうございました。

 

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