我々が築き、掘っている未来

Elon Musk / 青木靖 訳
2017年4月 (TED2017)

(クリス・アンダーソン) イーロン、またTEDに来ていただき、ありがとうございます。

(イーロン・マスク) こちらこそ光栄です。

(クリス) これから30分ほどで、心躍る未来の姿がどんなものになるのか、あなたのビジョンをお聞きしたいのですが、それからすると最初の質問は少し皮肉かもしれません。どうして穴なんか掘ってるんですか? (あなたはどうして退屈なんですか?)

(イーロン) そうですね、私自身よく自問しています。私たちはロサンゼルスの地下に穴を掘ろうとしています。ゆくゆくは3次元トンネル網を作り上げ、渋滞を緩和するのが狙いです。現在の我々にとって最もうんざりさせられるものが交通渋滞です。世界の至る所で問題になっています。とても多くの時間を奪われ、酷いものです。ロスはとりわけ酷い。

(クリス) それについて、最初のコンセプト映像をお持ちいただいているということなので、見てみましょう。

(イーロン) そうですね、何の話をしているのかそれで分かるでしょう。3次元トンネル網を作る上で鍵となるものが2つあります。まずトンネルの出入り口を都市の交通網と継ぎ目なく接続する必要があります。車をスケートみたいなものに載せエレベーターで運ぶことで、トンネル網への出入りを2台分の駐車スペースだけで実現できます。車はそのスケートに乗って運ばれます。速度制限というのは特になく、時速200kmで運用できるように設計しています。

(クリス) いくらですって?

(イーロン) 時速200km、言い換えると時速130マイルです。だから、たとえばウエストウッドからロサンゼルス国際空港まで5、6分で行けるようになります。(拍手)

(クリス) はじめは有料道路みたいになるんでしょうかね。

(イーロン) ええ。

(クリス) そして地上の渋滞もある程度緩和されると。

(イーロン) 映像で気付いたかどうか分かりませんが、トンネルを何階層作るかについては、実質制限はありません。上よりも下の方が先まで行けるんです。最も高い建物の高さよりも、最も深い鉱山の方がずっと深い。だから3次元トンネル網によって、どれほどの渋滞だろうとさばくことができます。これは重要な点です。トンネルのアイデアに対する主要な反論は、トンネルを1階層追加して渋滞が一時緩和されたところで、それが一杯になったらまた元の渋滞の状態に戻るということです。でもトンネルの数や階層はいくらでも増やせるんです。

(クリス) しかしトンネルの掘削にはとても費用がかかり、それがこのアイデアの障害だと考えられていますよね。

(イーロン) ええ、その通りです。例を挙げると、ロサンゼルス地下鉄を4km延長するのには20億ドルかかりました。ロスの地下鉄延長にはkmあたりおよそ5億ドルかかっているわけです。世界で最も利用者数の多い地下鉄というわけでもありません。だから確かにトンネルを掘るというのは一般に大変なことです。長さあたりのトンネル掘削コストを、少なくとも10倍は改善しなければならないと考えています。

(クリス) どうやって実現するんですか?

(イーロン) 実は2つのことをするだけで、ほぼ十倍か、それ以上の改善が可能だと思っています。まずトンネルの直径を半分か、それ以下にします。1車線のトンネルの直径は、8mとか8.5m確保するようにと規制されています。事故の際の緊急車両の通行や、ガソリン車の排ガスの換気などのためです。私たちはそれを電気スケートを走らせるのに十分な4mに縮小しようとしていて、そうすると直径が半分になり、断面積は4分の1になりますが、トンネル掘削のコストは断面積に比例します。これで10倍の改善の半分は達成できます。 また現在のトンネル掘削機は半分の時間は休んでいて、その間トンネル壁の強化をしています。だから掘削と壁の強化を連続して行える機械を作れば、効率を2倍改善できます。この2つを合わせると8倍の改善です。 掘削機はそのパワーや熱的な限界にはまだまだ達していないので、パワーを大きく引き上げることもできます。少なくとも2倍、もしかしたら4、5倍の改善を上積みできるでしょう。 だから一連のごく単純な手順で、長さ当たりの掘削コストを10倍以上改善できます。我々の実際の目標というのは──うちにゲイリーというペットのカタツムリがいて、『サウスパーク』のキャラクターから取った名前ですが・・・もとい『スポンジボブ』ですね。カタツムリのゲイリーは、現在のところトンネル掘削機よりも14倍速いんです。(笑)

(クリス) ゲイリーに勝ちたいわけだ。

(イーロン) 勝ちたいと思っています。(笑) ゲイリーは我慢強いチビなんかではないので、これは立派な勝利です。カタツムリを超えるのが勝利です。

(クリス) 未来の都市というと、多くの人は空飛ぶ車とか、ドローンとか、上へ向かうことを考えます。その方が良いやり方なのでは? トンネルを掘る費用もかかりませんし。

(イーロン) 私も空飛ぶものは好きです。ロケットも作ってますし、空飛ぶものはいい。空飛ぶものに抵抗があるわけではありません。しかし空飛ぶ車には難しい問題があって、非常にうるさく、とても大きな風を起こします。何かがすぐ頭の上を飛んでいる、沢山の空飛ぶ車がそこら中を飛び回っているというのは、あまり心安らぐ状況ではありません。「今日はすがすがしいな」とは思わないでしょう。むしろ「ホイールキャップはちゃんとはまってるのかな? 落ちてきて首をはねられやしないかしら?」などと心配になるでしょう。

(クリス) あなたは地下に大規模な3次元トンネル網がある未来の都市というビジョンを持っているわけですね。ハイパーループとのからみというのはあるんでしょうか? あなたが何年か前に発表したハイパーループのアイデアに、このトンネルを使うというのは?

(イーロン) 私たちはこのハイパーループというのをしばらくいじり回してきました。SpaceXのすぐ横にハイパーループの試験軌道も作りました。画期的な交通手段のアイデアを募る学生コンペのためでしたが、結果としてこれは大型ハドロン衝突型加速器に次いで世界で最も大きな真空チャンバーになりました。とても楽しい経験でしたが、一種の趣味のようなものです。 学生の作ったポッドを押す小さな推進車両を作りましたが、何も押していないときどこまで速くできるか試したいと思っています。たとえ1.3kmの距離だけではあっても、世界最速の超特急より速くできるのではと思っています。

(クリス) そりゃすごいブレーキだ。

(イーロン) 確かに、衝突してバラバラになるか、あるいは──

(クリス) ハイパーループがトンネルの中を長距離走る姿というのも想像できますよね。

(イーロン) ええ。トンネル技術の話をすると、地下水面に対して水漏れしないトンネルを作ろうと思ったら、大気圧の5、6倍に耐えるようトンネル壁を設計する必要があります。真空を保つには1気圧に耐えるだけでいいので、地下水面に耐えられるトンネルを作れば、自動的に真空を保つこともできるようになります。

(クリス) なるほど。

(イーロン) そういうことです。

(クリス) イーロンの未来では、ハイパーループが走るトンネルの長さはどれくらいになるのでしょう?

(イーロン) 実際長さに制限はないと思います。好きなだけ掘ることができます。例えばワシントンDC-ニューヨーク間のハイパーループであれば、全区間が地下になるでしょう。建物が密集した区域ですから。たくさんのビルや家の下を行くことになりますが、十分に深ければトンネルの存在に気付くことはありません。家の下にトンネルを掘られたら煩わしいに違いないと思うかもしれませんが、トンネルの直径の3つか4つ分深いところにトンネルが掘られたら、まず気付かないでしょう。それどころか、トンネル掘削を検知できたら、その装置で大もうけできるでしょう。ハマースの掘るトンネルを見つけようとしているイスラエル軍当局や、麻薬密輸トンネルを見つけようとしている米国税関・国境警備局が欲しがりますから。実のところ、土というのは振動吸収性に優れ、トンネルが一定以上の深さであれば、ほぼ検知不能になります。ごく高感度の地震計があればできるかもしれませんが。

(クリス) それで、そのための新しい会社を作ったわけですね。TheBoringCompany (ボーリング社/退屈な会社)。傑作ですね。笑えます。(笑)

(イーロン) 何が可笑しいんだろう?(笑)

(クリス) これにどれくらいの時間を割いているんですか?

(イーロン) たぶん2〜3%というところですかね。

(クリス) 趣味を手に入れたと。イーロン・マスクの趣味はこんなですよ、皆さん。(笑)

(イーロン) インターンやその他の人が一部の時間を使ってやっています。中古の機械を購入していじくり回している感じですが、結構進展があります。

(クリス) 多くの時間は、テスラを通じて自動車や交通手段を電化することに費やされているわけですね。トンネルプロジェクトの動機の1つは、自動車が電気になり自動運転になったとき、道路には今よりも多くの車が溢れることになるかもしれない、ということなのでは?

(イーロン) その通りです。車が自律的になれば、速く移動できて渋滞が減ると多くの人は思っています。ある程度まではそうですが、しかし共有自律が実現されると、車での移動は好きなところに行ける上安価になり、車の方がバスなんかより値ごろ感が出てきます。バス料金よりも安くなったりとか。だから共有自律により、車での移動量ははるかに増え、交通事情はずっと悪くなるでしょう。

(クリス) 電気が自動車の未来だと示そうとあなたはテスラを始めましたが、数年前はみんなあなたのことを笑っていたものです。今はそうでもなくなりました。

(イーロン) そうですかね。(笑) 分かりませんけどね。

(クリス) 自動車会社のほとんどは、短中期の将来計画として、本格的な電化計画をアナウンスしているのでは?

(イーロン) そうですね。ほぼすべての自動車会社に何らかの電気自動車の計画があるでしょう。本格度には差異がありますが。完全な電気自動車への移行を本気で考えているところも、ちょっとかじる程度のところもあります。いまだ燃料電池を追い続けているところもありますが、長くは続かないでしょう。

(クリス) 今は勝利宣言すべき時だとは感じませんか?「我々はやった」と。電化はもう他の人たちに任せて、別のことにエネルギーを注ごうとは考えませんか?

(イーロン) まあ、とりあえず想像できる範囲では、テスラに居続けるつもりです。ワクワクするようなことがたくさん待っています。モデル3がすぐにも登場しますし、テスラ・セミトレーラーも披露する予定です。

(クリス) ああ、その話をしましょう。モデル3は7月あたりに出る予定でしたね。

(イーロン) ええ、7月の生産開始に向けて順調に進んでいます。

(クリス) いいですね。みんなが高い期待を抱いているのは、自動運転が付くということでしょう。それがどんな技術なのか、少し前にこのビデオで披露しましたね。

(イーロン) ええ。

(クリス) 現在のモデルSにもオートパイロットはありますが、ここで見ているものは何なんでしょう?

(イーロン) これはカメラとGPSだけを使っています。LIDARやレーダーは使っていません。受動的な光だけを使っていて、それは人が使うのと同じものです。道路システムは、受動的な光やカメラを頼りに舵取りするよう意図されているので、カメラないしは視覚の問題を解決すれば、自動運転の問題は解決するんです。視覚が解決できなければ、自動運転もできません。それが私たちが視覚ニューラルネットに集中している理由で、これは道路状況の把握にとても効果的なんです。

(クリス) 他の会社の多くはLIDARを使っています。カメラとレーダーの組み合わせというのが多いでしょう。

(イーロン) カメラだけでも人間をはるかに凌駕できます。カメラだけでも、人間より10倍うまくやれるでしょう。

(クリス) 今売られている新車には8台のカメラがついていますが、この映像のようなことはまだできません。いつできるようになるのでしょう?

(イーロン) 今のところ計画通り、年末までに完全自動運転でロスからニューヨークまで、米国を横断して行けるようになる予定です。

(クリス) 今年の末には、テスラに乗り、ハンドルに触れることなく、ただ「ニューヨーク」と入れてやると、行ってくれるようになると。

(イーロン) ええ。

(クリス) 2017年の末には、ハンドルに触れる必要はなくなると。

(イーロン) ええ。今年の11月か12月には、カリフォルニアの駐車場からニューヨークの駐車場へと、制御装置には一切触ることなく移動できるようになります。(拍手)

(クリス) すごいですね。それが可能なのは、ある部分ではたくさんのテスラ車がすでにあらゆる道路を走っていて、国道の膨大なデータが蓄積されているというのがあるのでしょう。

(イーロン) そうですが、興味深いのは、ルートを動的に変えたとしてもできることに自信を持っているということです。決まったルートを自動運転で行けるというのとはまた違った問題になりますが、これはどこへでも上手く行けるはずです。一度幹線道路に入ったら、その国の幹線道路上のどこへだろうと行けます。ロス-ニューヨーク間に限定されず、その場で変更してシアトルからフロリダに行くこともできるし、ロスからニューヨークへ行くつもりだったのをロスからトロントに行き先を変えることもできます。

(クリス) 規制についてはひとまず置いておいて、技術という点に限れば、あなたの車を買って文字通り手放しで一眠りし、目覚めたら目的地に着いているというのを安全にできるようになるのは、どれくらい先のことでしょう?

(イーロン) 2年くらいだと思います。重要なのは、99.9%うまくいくというのでは駄目だということです。1000回に1度車が事故を起こすなら安心して眠れません。実際眠るべきではないでしょう。完璧になることは決してありません。どんなシステムも完璧ではありません。しかし人生を100回とか1000回分生きたとしても車が事故を起こす見込みがまずないとなれば、みんなこう思うようになります。へえ、1000回生きても事故に遭いそうにないなら、まあ大丈夫だろうと。

(クリス) 眠ってもね。あなたの大きな懸念は、人々があまりに早く安全だと思い込んでしまうことだろうと思います。そして酷い事故が起きて、進歩を押しとどめてしまうという。

(イーロン) 自律システムは、ごくまれな状況を別にすれば、少なくとも事故を緩和してくれると思います。車の安全性について理解すべきなのは、それが確率的だということです。どんな人間のドライバーであれ、車を運転していれば自分の人為的ミスで事故を起こす可能性があります。それは決してゼロではありません。だから自動運転のための本当の閾値は、みんなが自動運転に頼れるようになるためにはそれが人間よりどれほど優れている必要があるか、ということです。

(クリス) 手放し運転がまったく安全となったとき、業界が大きく変わることになりそうですね。というのも、あなたのお話では、車を買って仕事に行ったら、車にUberのようなサービスをさせて金を稼げるようになり、それで車のリース料がまかなえて車が無料で手に入るようになるんだと。本当にそんなことになるのでしょうか?

(イーロン) 間違いなくそうなります。共有された自動運転車が大量に現れます。車を買ったら、自分だけで使うこともできるし、友達や家族だけが使えるようにすることも、評価の高いドライバーだけに使わせることも、時間帯を限って共有することもできます。そういうことが100%起きるでしょう。問題はそれがいつかということだけです。

(クリス) すごいな。先ほどセミトレーラーの話があって、9月に発表の予定と聞きましたが、今日見せてもらえるものは何かありますか?

(イーロン) トラックの予告画像をお見せしましょう。本物ですよ。

(クリス) いいでしょう。

(イーロン) これは間違いなく、自動運転機能に用心深くありたいところです。(笑)

(クリス) よく見えませんが、近所の可愛いトラックとは違うようですね。格好良いですが、どんなセミトレーラーなんですか?

(イーロン) これは大型長距離セミトレーラーです。可搬重量が大きく、長距離走れます。大型トラック輸送の改善を狙っています。これは現在人々が可能だと思っていないことです。電気自動車では十分な馬力や走行距離が得られないと思われていますが、このテスラ・セミトレーラーによって、電気トラックはディーゼルトラックをトルクで凌駕できることを示したいと思っています。綱引き大会があったら、テスラ・セミトレーラーは上り坂を上りながらでもディーゼル・セミトレーラーに勝つでしょう。(笑) (拍手)

(クリス) そりゃすごい。短期的にはこれは自動運転ではありませんね。トラックドライバーが運転したくなるようなトラックになると。

(イーロン) ええ、これの本当にいいところは、電気モーターだと回転数に対するトルクのグラフが平坦になるということです。一方でディーゼルや何であれ内燃機関の場合、回転数に対するトルクのグラフは山形になります。だからこれはすばしっこいトラックになります。スポーツカーみたいに乗り回せます。ギアはなく、単一速です。

(クリス) なんだかすごい映画が作れそうですね。どんな話になるか、ハッピーエンドか分かりませんが、すごい映画になりそうです。(笑)

(イーロン) 試乗すると奇妙ですよ。最初のトラックの試作品を運転した時のことですが、すごく奇妙な感じで、巨大なトラックを運転しているというのにすごく機敏なんです。

(クリス) 試作品をもうご自身で運転しているんですか?

(イーロン) ええ、駐車場で乗り回しましたが、こいつはすごいと思いました。

(クリス) 絵に描いた餅じゃないんだ。

(イーロン) 巨大トラックですごい芸当ができますよ。

(クリス) そりゃいい。すごくカッコイイ写真からちょっとカッコイイ写真に話を変えますが、これは『デスパレートな妻たち』に出てくるおしゃれな家かなんかですか? これは何なんでしょう?

(イーロン) これは将来どんな風になるかをイメージしたものです。車庫に電気自動車があります。電気自動車と家の間を見てもらうと、3つのパワーウォールが立っていて、屋根はソーラーパネルになっています。ソーラーガラス製の屋根です。

(クリス) なるほど

(イーロン) あの家は本物です。本物のフェイクハウスです。本当に存在しています。(笑)

(クリス) あの屋根瓦にはソーラーパネルが入っているわけですね。

(クリス) ソーラーガラスタイルは質感や色をとても細かく調整できます。ガラスの中に微細な鎧戸があって、通りから屋根を見ると、ソーラーセルがあってもなくてもタイルは同じに見えます。地上からだと同じ色に見えるんです。ヘリコプターから見れば見通すことができて、ソーラーセルが背後にあるタイルとそうでないものを見分けられます。でも地上からだと分かりません。

(クリス) 日照の良いところであれば、あの屋根はすごく手頃になるんですよね。普通に屋根を葺くのと比べて、そんなに高価ではないと。

(イーロン) ええ。その点は自信を持っていますが、ソーラーガラスの屋根のコストは、普通の屋根プラス電気代よりも安くなります。経済的には悩むまでもありません。見かけも良く、長持ちします。永久保証を付けることも考えましたが、それだとむしろ嘘っぽく聞こえないかと。でも強化ガラスでできていて、家が崩れ去ったずっと後何も残っていなくとも、このガラスタイルだけはそのままでしょう。(拍手)

(クリス) それはすごい。2週間内に4つのタイプを売り出すとか。

(イーロン) 最初2種類から始めて、来年初めにあとの2種類を追加します。

(クリス) どれくらいの規模で考えているんでしょう? どれくらいの数の家がこのような屋根を持つようになると?

(イーロン) いつかはほとんどすべての家がソーラー屋根を持つようになると思います。考える必要があるのは、ここで話している時間のスケールが40年とか50年だということです。平均すれば屋根の葺き替えは20年から25年に1度です。屋根のすべてをすぐ置き換え始めるわけではありません。しかし15年くらい先のことを考えるなら、ソーラーパネルのない屋根はむしろ珍しくなっているでしょう。

(クリス) メンタルモデルとしてみんな理解しかねているのは、コストの変化、ソーラーパワーの経済の変化で起きることです。多くの家には十分な日照があり、それを捕らえさえすれば必要な電力は賄えるようになり、そうすると電力網に依存しなくて良くなります。

(イーロン) 家がどこにあるかや、屋根の面積に対する家の大きさにもよりますが、アメリカの家の多くには家で使う電気を賄うのに十分な屋根面積があるでしょう。

(クリス) 電気自動車や、電気セミトレーラーや、こういった家の経済で鍵になるのは、リチウムイオンバッテリー価格の下落で、あなたはテスラでそこに大きな賭をしました。いろいろな意味でコアコンピテンシーと言えるかもしれません。その競争優位性を確かにするため、世界最大の製造工場を作り、世界のリチウムイオンバッテリー供給量を2倍にしようとしていますね。そのことを聞かせてください。

(イーロン) これは「ギガファクトリー」の進展を示したものです。完成した暁には全体が巨大なダイヤ型になる予定で、それが真北を指しているという趣向です。細かい話ですが。

(クリス) 年間100ギガワット時のバッテリーを生産できるようになると。

(イーロン) 100ギガワット時か、たぶんそれ以上になるでしょう。

(クリス) すでに生産を始めているんですよね。

(イーロン) すでに生産しています。

(クリス) 映像を公開していますが、これはスピードアップしてあるんですか?

(イーロン) これはスローダウンしてありますね。(笑)

(クリス) 実際はどれくらい速いんですか?

(イーロン) フルスピードで稼働していると、ストロボを使わないとセルが見えないでしょう。ぼやっとしか。(笑)

(クリス) 素晴らしい未来を築く核となるあなたのアイデアの1つは、エネルギーについて罪悪感を抱かなくてよい未来です。そこに至るためには、いくつのギガファクトリーが必要になるのでしょう?

(イーロン) おおよそ100です。10でも1000でもありません。100というのがありそうなところです。

(クリス) そこがすごいと思います。あなたは化石燃料から世界を切り離すために必要なものがイメージできている。あなたが1つ作り、それには50億ドルとか100億ドルがかかる。そういうプロジェクトを思い浮かべられるというのはすごいことです。そしてあなたは年内にさらに2つの建設の発表を予定しているとか。

(イーロン) 2カ所から4カ所の建設地を今年発表する予定です。多分4カ所になるでしょう。

(クリス) それはまた。(拍手) 何か教えてもらえることはありませんか? どことか、どの大陸とか? ノーコメントでもいいですよ。

(イーロン) 世界市場に答える必要があると思っています。

(クリス) いいでしょう。(笑) 素晴らしい。どうしても外せない話題があるんですが、政治について1つだけ質問します。政治の話にはうんざりしていますが、1つだけお聞きしたい。あなたはある人にアドバイスするメンバーに名を連ねていますね。

(イーロン) 誰だろう?

(クリス) その人は気候変動を信じないと言い、多くの人はあなたがそんな人に与すべきでないと思っています。歩み去って欲しいと。それについてどう言われますか?

(イーロン) そもそも私は2つの顧問機関に入っているだけです。その形式は、部屋の中を歩き回って相手の意見を聞くというもので、1〜2ヶ月に1度会議があります。それだけのことです。その部屋には気候変動や社会問題に取り組むべきという立場の人たちもいて、私自身そうした会議を通じて移民や気候変動の問題に取り組むべきという主張をしてきました。(拍手) 私がそうしなければ、それは議題にすらなっていなかったんです。何も変わらないかもしれませんが、少なくとも言うべきことは言いました。

(クリス) 分かりました。ではSpaceXと火星の話をしましょう。前回お越しいただいた時、あなたは再利用できるロケットという野心的な夢について語っていましたが、あなたはそれをやってのけましたね。

(イーロン) だいぶかかりましたが。

(クリス) 映像を見ながら話しましょう。これは何ですか?

(イーロン) これは高速で高高度の宇宙にいる打ち上げロケットが地上に戻ってくるところです。上段を高速で届けたところで、マッハ7くらいだと思いますが、上段を届けて──(拍手)

(クリス) これはスピードアップしている──

(イーロン) これはスローダウンしてあります。(笑)

(クリス) スピードアップとばかり思っていました。すごいことですが、最終的に成功する前に何度か失敗していますね。何度くらいやったんでしょう。5回か6回?

(イーロン) 8回か9回ですね。

(クリス) そして初めて、着地したロケットを再びまた飛ばしましたね。

(イーロン) 打ち上げロケットを着地させ、飛行準備をして、再び打ち上げました。再打ち上げが本当に意味を持つ軌道ブースターとして初の再打ち上げです。再利用は短時間で完全であってはじめて意味があるというのを理解しておくことが重要です。飛行機や車のように短時間で完全な再利用ができます。次の飛行前に工場に持って行って整備する必要はありません。

(クリス) これによって多くの人を火星に送るという本当に野心的なアイデアが可能になるんですね。10年とか20年先のことだと思いますが。

(イーロン) ええ。

(クリス) そしてあなたはそのためのとんでもないロケットを設計した。それがどれほど大きいかみんなに教えて欲しいんですが。

(イーロン) あれが人間で、これがロケットです。

(クリス) 建物に見立てると40階建て相当だと何かで読みましたが。

(イーロン) 多分もう少し高いですね。これの推進力はサターンV型月ロケットの約4倍になります。

(クリス) 人類がかつて作った最大のロケットの推進力の4倍だと。

(イーロン) ええ。

(クリス) 飛んだらの話ですが。(笑)

(イーロン) ええ。ボーイング747の推進力は100万ポンドの1/4なので、1000万ポンドの推進力には40機の747がいります。このロケットには120機の747がエンジンを全開したのに相当する推進力があります。

(クリス) 地球の引力圏を離脱できるロケットですが、あなたのお話では、これで人や貨物を満載した747をまるごと軌道に乗せられるのだとか。

(イーロン) その通りです。このロケットは、満タンの燃料と、満席の乗客と、貨物室一杯の荷物を積んだ747を貨物として運べます。

(クリス) これに基づいた惑星間輸送システムのイメージ映像を最近公開されましたね。あなたが描いたのは30年後、あるいは20年後の姿でしょうか? 人々がこのロケットへと乗り込んでいくというのは。

(イーロン) 願わくは8年から10年後ですね。夢として、それが目指していることです。社内的な目標はもう少し強気なものですが。(笑)

(クリス) いやはや。

(イーロン) このロケットは他のロケットと比べるととても大きく見えますが、将来の宇宙船からすれば手こぎ船のように見えることでしょう。将来の宇宙船は本当に巨大なものになります。

(クリス) なぜなんですか、イーロン? なぜ我々が生きているうちに火星に百万都市を築く必要があるのか? それがやりたいことだと言っておられたと思いますが。

(イーロン) 魅力的で鼓舞されるような未来があるというのは重要なことだと思います。朝起き出し、生きたいと思う理由がなければならないと思います。なぜ生きたいと思うのか? 何の意味があるのか? 何に鼓舞されるのか? 未来の何に憧れるのか? もし我々が宇宙へ出て行かないなら、星々の中へと出て行って複数の惑星に住む種族とならないのだとしたら、それはすごく残念なものに思え、そんなの我々の未来ではないと思うんです。(拍手)

(クリス) 人々はこっちを取るかあっちを取るかという見方をします。今地球上では沢山の差し迫った問題が起きています。気候から貧困から、選り取り見取りです。そして宇宙進出は、問題から目をそらすもののように感じるのです。そんなこと考えていないで、今ここにある問題を解決すべきだと。公平を期して言うなら、あなたは持続可能エネルギーに関して相当なことをされています。でも、なぜそういうことだけしないのでしょう?

(イーロン) 私はその、未来を可能性という視点で見ています。枝分かれしていく可能性の流れのようなものとして。我々の取る行動がその可能性に影響し、何かを加速したり、別のものを減速したりします。その可能性の流れに自分が何か新しいものを導入するかもしれない。 持続可能エネルギーは、いずれにせよ起きることでしょう。テスラがなかったとしても、必要にかられて起きたはずです。同語反復的ですが、持続可能エネルギーがなければ「持続不能」エネルギーを使うということで、やがてそれは尽きることになり、経済の法則によって文明が持続可能エネルギーへと向かうのは必然でしょう。 テスラのような会社の根本的な価値は、それが持続可能エネルギーの到来を加速する度合いにあります。どれだけ実現を早められるかという。テスラのような会社の根本的に良いところは何かと考えたとき、持続可能エネルギーの到来を10年とか、あるいはそれ以上加速したのだとしたら、それはとても素晴らしいことです。それがテスラの根本的で志的な面で良いところだと考えています。 一方で複数の惑星に住む種族、宇宙に生きる文明となるというのは、必然的なことではありません。これが不可避でないと認めるのは重要なことです。持続可能エネルギーという未来はおよそ確実なものですが、宇宙に生きる文明になるというのは確実なことではまったくありません。 宇宙進出の進展に目を向けると、1969年には月へ人間を送ることができました。1969年ですよ。それからスペースシャトルができましたが、人間を低周回軌道に運べただけです。スペースシャトルが引退すると、アメリカは軌道に人を運ぶことさえできなくなりました。それがトレンドです。無へと下降していくトレンドです。 テクノロジーは黙っていても進歩していくものだとみんな勘違いしていますが、自動的に進歩するものではないんです。改善しようと多くの人がとても熱心に働いてはじめて進歩するんです。放っておけば劣化していくと思います。古代エジプトのような優れた文明を見てください。彼らはピラミッドを作れましたが、その方法は忘れ去られてしまいました。ローマ人はすごい水道を作り上げましたが、それだって忘れ去られてしまいました。

(クリス) あなたの話を聞き、あなたがした様々なことを見ていると、何に対してもあなたには独特の二重の動機があって、ともて興味深く感じます。1つは人類の長期的な利益のために寄与したいという欲求、もう1つは何か胸躍ることをしたいという欲求です。そして時に一方を推し進めるために他方が必要になるように見えます。 テスラの場合、持続可能エネルギーを望み、そのためにあのセクシーな胸躍る車を作りました。太陽エネルギーの場合、そこに到るためにあの見事な屋根を作る必要がありました。あなたの最新の試みについてはまだ話しておらず、話す時間もありませんが、あなたは悪いAIから人類を救いたいと思い、洒落ている脳と機械のインターフェースを作って、無限の記憶やテレパシー能力をもたらそうとしています。火星についてはこう考えているように見えます。我々は人類を救うためのバックアップ計画が必要だ。しかし同時に人類を鼓舞する必要もある。そしてこれが鼓舞する方法なのだと。

(イーロン) 美やインスピレーションの価値は、明らかに過小評価されていると思います。はっきりさせておきたいのは、私は誰かの救い主になろうとしているのではないということです。私はただ未来のことを考え、悲観的になるまいとしているだけです。(拍手)

(クリス) 素晴らしい言葉です。ここにいる人は皆頷くことでしょう。この何一つとして不可避的に起きるものではないと。あなたは頭の中でそういう夢を描き、他の誰も敢えて夢見なかったことを、他の誰も夢見ることのできなかったレベルの複雑さで夢見ています。あなたがそうしているという事実は本当にすごいことだと思います。みんながもっと大きな夢を見るよう助けてくれて感謝します。

(イーロン) でも私の夢がまったく狂気の沙汰になり始めたら、どうか教えてくださいよ。(笑)

(クリス) ありがとうございました、イーロン・マスク。本当に素晴らしかったです。(拍手)

 

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オリジナル:  Elon Musk: The future we're building — and boring