今度から美に生きることにしました。(笑) みんな言ったものです。ノーマンはいいけど、彼の言う通りにやると使いやすくてみっともないものができる。そんなつもりはなかったんですけどね……。これ素敵でしょう? セッティングをしてくれてありがとう。純粋に素晴らしい。これが何なのか、何の役に立つのかわかりませんが、ただ欲しいと感じます。それが私の新しいあり方です。美や、魅力や、感情とは何かを理解すること、それが新しい私です。ものを素敵で楽しくするというのが、私の新しいテーマです。 |
下に置いてあるナイフをご覧ください。日本製のグローバルナイフです。まずこの形。見ているだけでも素晴らしい。それから手に持った時のバランスが絶妙で、心地良い。3番目に、切れ味がすごくいい。使っていて楽しく感じます。だからこれには全部揃っています。美しくて、機能的。これについてストーリーを語ることができ、観念的でもあります。私は情動に関して理論を持っているのですが、この3つがその要素なのです。 |
Googleの画面です。"emotion and design"で検索すると、10ページの結果が返ってきますが、それに合わせてGoogleのロゴが引き延ばされています。「73,000件の1から20番目を表示」みたいに言うかわりに、ページ数に合わせて“o”を付けるのです。すごくシンプルで些細です。これを目にしてそうとは気づかない人も多いと思います。潜在意識は気づいていて快く感じるのですが、本人にはそれがなぜなのかわからない。うまいやり方です。何よりもいいのは、"design and emotion"で検索すると、1番上に出てくるのが私のWebサイトだということです。(笑) 変なのはGoogleが嘘を付くことです。"design and emotion"で検索すると、「andは省略可能です」と言われます。それならと"design emotion"で検索してみると、私のWebサイトは1番目ではなく3番目になってしまいます。まあ、これは別な話ですが。 |
たとえば地面に板を置いたとしましょう。幅60センチ、長さ10メートルの板があって、その上を歩くところをイメージしてください。足元を見なくとも歩けます。前でも後でも、 ジャンプだってできます。全然問題ありません。では同じ板を100メートルの高さに据えたらどうでしょう? 私は近づこうとも思いません。遠慮しておきます。強い恐怖感のため体が動かなくなります。これは実際脳の働き方に影響を与えるのです。ポール・サフォーは、講演の直前にならないと話す内容が決まらないと言っていました。不安感が集中させてくれるのだと。それが恐怖や不安がすることなのです。深さ優先処理とでも言うのでしょうか、気を散らさずに集中させ、そして板の上を渡らせない。できる人もいます。サーカスの団員や建設現場の作業員など。しかしこれは本当に頭の働きを変えるものなのです。 心理学者のアリス・アイセンは。見事な実験をしました。問題を解くように学生を部屋に集めます。こっちに紐がぶら下がっていて、向こうにも紐がぶら下がっています。部屋は空っぽ、ただ紙やらハサミやらガラクタがいろいろと載ったテーブルがあるだけです。そして学生たちを呼んで、言うのです。「生活の中でいかに良く行動できるか測定するIQテストをします。ここにある2本の紐を結び合せることはできますか?」 1本の紐をつかんで引っ張っても、もう1本に手が届きません。どうやっても届かないのです。解ける人は1人もいませんでした。次のグループを部屋に入れて、こう言いました。「始める前に、キャンデーの箱があるんだけど、私食べないから、みんなキャンデーは好きかしら?」 みんなキャンデーが好きだったので喜びました。すごくではありませんが、ちょっとうれしくなりました。そして彼らは問題を解いてしまったのです。わかったのは、不安な時には脳の中で神経伝達物質が放出され、深さ優先の思考をさせるということです。楽しい時には……正の誘発性と呼ばれていますが……前頭葉にドーパミンが放出され、脳は幅優先の問題解決をするようになり、周りの刺激を受けやすく、より自由な発想をするようになります。ブレーンストーミングなんかそうです。ブレーンストーミングでは楽しくみんなでゲームをします。「批評しないこと」と言い、奇抜でいかしたアイデアを出し合います。しかしいつもそんな状態だったら、仕事が進まなくなるでしょう。途中で「ああ、いいこと思いついた」となるからです。だから仕事を成し遂げるためには締め切りを設定する必要があります。そうすると不安になり、脳は違った働き方をします。楽しい時に物事がうまくいくのは、クリエイティブになるからです。小さな問題があっても、「どうにかなるさ。大したことないよ」とね。 処理には本能レベルというのがあります。私たちは共適応によって明るい色を好むようになりました。哺乳類や霊長類は、果物や鮮やかな植物が好きで、果物を食べて種子を広めます。脳の中には驚くほどたくさんのものが詰まっているのです。私たちは苦い味や、うるさい音や、熱い気候、寒い気候が嫌いです。怒っている声や、しかめっ面が嫌いです。私たちは対称的な顔が好きです。などなど。本能レベルとはそういったものです。デザインではこの本能レベルをいろいろ活用できます。フォントを選ぶとき、赤は活気やエキサイティングな感じを出せます。 1963年型ジャガーです。これは実際ひどい車で、壊れてばかりいます。でも持ち主には愛されています。とても美しく、近代美術館の所蔵品にもなっています。 水の壜です。これを買うのは水のためではなく、壜のためです。水を飲んだ後、捨てたりはせず、とっておきます。古いワインの壜のように、飾ったり、水を入れたりします。水のために買ったのではないということです。これは本能的な体験なのです。 処理の中間レベルは行動レベルで、私たちは多くのことをこのレベルでやっています。本能レベルは無意識で自覚はありません。行動レベルも無意識で自覚はありません。私たちのすることの多くは無意識です。私はステージを歩き回っていますが、自分の足をコントロールしようとは思っていません。講演も多くの部分を無意識に行っています。あらかじめリハーサルし、十分に考えてあります。私たちのすることの多くは無意識で、自動的な振る舞いです。熟練の技は無意識で、体が覚えているものです。そして機能のデザインにおいてはコントロールの感覚が大事です。これにはユーザビリティや理解が含まれますが、重みとか感触というのも重要です。グローバルナイフが素敵なのはそこです。とてもバランスが良く、鋭く、切る行為を本当にコントロールしていると感じられる。あるいは高性能なスポーツカーで難しい道をぶっ飛ばす。ここにも環境を完全にコントロールしている感覚があります。感覚的な喜びです。 これはKOHLERの「ウォーターフォールシャワー」です。下にある出っ張りがすべてシャワーヘッドになっています。一度に全身にシャワーを浴びることができます。何時間でも浴びていられます。水を無駄にすることもありません。同じ汚れた水が再利用されるようになってますから。(笑)。 |
処理の第3のレベルは内省レベルで、これは超自我のような、行動を制御しない脳の部分、感覚とつながっていない、筋肉をコントロールしない部分です。これは何が起きているのか見ている頭の中の小さな声です。観察して言うのです。「これは良い、あれは悪い」。「何でそんなことするの? わからないよ」。これは頭の中の小さな声であり、意識の座です。 これは素晴らしい内省的製品です。ハマーを持つ人は言っています 「いろんな車に乗ってきて、魅力的な車もあったけど、これほど人の注意を引ける車は他にないよ」。車自体よりも、車のイメージが重要なのです。さらにポジティブなモデルをお望みなら、このGM車があります。この車を買う理由は環境に気を使っているからです。初期のモデルは高価で、完成度が低くいものですが、それでも環境を守るために買うわけです。これは内省的デザインです。そしてこのびっくりするような高級腕時計。見た人は言うでしょう。「そんな時計持ってるとは思わなかった」。こっちの時計とは正反対です。これは純粋に機能的な時計で、さっきの1万3千ドルの時計よりも正確でしょうが、でも醜い。ドナルド・ノーマン的です。 |
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[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた成田渉氏に感謝します。]
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オリジナル: Talks Don Norman on 3 ways good design makes you happy |
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