私の7つのロボットたち (TED Talks)

Dennis Hong / 青木靖 訳
2009年9月



STriDER

最初にご紹介するロボットはSTriDERです。「三脚動的自励式試作ロボット」(Self-excited Tripedal Dynamic Experimental Robot) という意味です。3本脚のロボットで、自然からヒントを得ました。でも自然界に3本脚の生き物なんていたでしょうか? たぶんいないでしょう。ではなぜ? どんな風に動くのでしょう? それをご説明する前に、ポップカルチャーにちょっと目を向けましょう。H・G・ウェルズの「宇宙戦争」の小説と映画はご存じでしょう。今映っているのは人気ゲームの一場面です。この架空の物語の中では、地球を脅かす宇宙人が3本脚ロボットとして描かれています。でも私のロボットSTriDERはこんな風には動きません。

これは動的シミュレーションの動画です。ロボットがどんな風に動くかご覧ください。ボディを180度反転させています。1本の脚を他の2本の脚の間に通し、倒れ込むのを支えます。こんな風に歩くわけです。人が二足歩行するときだって、筋肉を使って脚を持ち上げてロボットみたいに歩くわけではありません。実際には、脚を振って、倒れるのを支え、立ち上がり、脚を振って、倒れるのを支え…という具合にやっています。体自体の重みや物理的な特性を、ちょうど振り子のように利用しているのです。私たちはこれを受動動的移動と呼んでいます。私たちが歩くときも同じです。位置エネルギーから、運動エネルギーへ、位置エネルギーから、運動エネルギーへ。繰り返し落下するプロセスです。だから自然界にこんな生き物はいないにしても、実際に生物からヒントを得て、生物が歩く原理を応用しているのです。だから生物をヒントにして作ったロボットというわけです。

これは私たちが次にやりたいと思っていることです。脚を畳んで遠くへ打ち出します。それから脚を出します。スターウォーズみたいですね。着地時はショックを吸収し、歩き出します。この黄色いのは殺人光線じゃありませんよ。単にカメラか他の種類のセンサーを表しています。高さが1.8メートルあるので、藪のような障害物があっても見渡すことができます。

プロトタイプを2つ作りました。最初に作ったのが後ろにあるSTriDER Iで、手前にある小さいのがSTriDER IIです。STriDER Iの問題は重すぎることです。関節の調整などに使うモーターがたくさん入っていたためです。それで機械的な機構を統合し、1つのモーターですべての動作を制御できるようにしました。メカトロニクスを使わずに機械的なもので問題を解決したのです。新しい方は本体が軽いのでラボの中でも動かせます。成功した第一歩でした。まだまだ完璧ではありませんので、やるべきことはたくさんあります。

 

IMPASS

次のロボットはIMPASSです。「作動スポークシステムによる知的移動プラットフォーム」(Intelligent Mobility Platform with Actuated Spoke System)の略です。車輪と脚のハイブリッドになっています。リムのない車輪、あるいはスポークでできた車輪だと考えてください。スポークが個々に動いてハブを出入りします。車輪と脚の組み合わせです。文字通り「車輪を再発明」したわけです。動いているところをお見せしましょう。この映像では反応的アプローチを取っています。足の触覚センサーを使って、押すとへこむ柔らかい変化する地形の上を歩いています。触覚センサーの情報をたよりに、うまく柔らかい地形を移動しています。

大きな地形の変化に出会ったときはどうするのか? ここではロボットの高さの3倍以上ある障害物にぶつかっています。すると計画的動作モードに切り替えます。レーザー式の距離計やカメラを使って障害物の大きさを識別し、スポークをどう動かすか注意深く計画し、調整することによって、このように、とても優れた機動性を発揮します。こんなものをご覧になったのはきっと初めてでしょう。私たちが開発した。超高機動性ロボットIMPASSです。ほら! すごいでしょう?

自動車の運転ではアッカーマンステアリングと呼ばれる方法が使われます。前輪がこの様に曲がります。小さな車輪を持つロボットでは、多くの場合、差動ステアリングを使います。左の車輪と右の車輪を逆向きに回転させるのです。IMPASSの場合、様々な異なるタイプの動きをさせることができます。例えば左右の車輪が1つの車軸でつながり、角速度が同じであっても、、曲がらせることができます。スポークの長さを変えてやれば良いのです。すると直径が変わって左右に曲がります。これはIMPASSにできる面白いことのほんの一例です。

 

CLIMBeR

次のロボットはCLIMBeR、「ケーブル支持式有足知的適合動作ロボット」です(Cable-suspended Limbed Intelligent Matching Behavior Robot)です。私はNASAのJPLの科学者たちとよく話をします。マーズローバーが有名ですね。地質学者がいつも言っているのは、科学的に本当に興味深い場所というのはいつも崖のようなところにあるということです。現在のローバーでは行くことができません。それで私たちはごつごつした崖をよじ登れるロボットを作りたいと思いました。

それがこのCLIMBeRです。3本脚で、見えにくいですが上にウィンチとケーブルがついています。そして最適な足の置き場を見つけ、力の分散のさせ方をリアルタイムで計算します。表面にどれだけの力をかければ滑ったり転んだりしないか? 安定したら、足を持ち上げ、ウィンチを使って這い上がります。捜索や救助のような用途にも使えるでしょう。

 

MARS

5年前に私はNASAのJPLで、ひと夏の間研究スタッフとして働きました。その時すでにLEMURという6本脚ロボットが開発されていて、これはそれをベースにしたMARSです。「多肢ロボットシステム」(Multi-Appendage Robotic System)、六本脚を持つロボットです。適応型の歩行プランナーを開発しました。面白い荷物を積んでいますね。学生たちは楽しいことをやりたがります。凹凸のある地形を越えています。こちらは粗い砂地の上を歩いているところです。湿り具合とか砂粒の大きさによって脚の沈み加減のモデルを変更します。足運びを環境に適応させることで、このような地形をうまく渡ることができます。すごく面白いものをご覧に入れましょう。ラボを見学しに来る人はたくさんいるのですが、お客様が来るとMARSはコンピュータの前に歩み寄り、タイプし始めるのです。「こんにちは、私はMARSです。バージニア工科大学ロボティクスラボRoMeLaへようこそ」

アメーバロボット

これはアメーバロボットです。技術的な詳細をご説明している時間はないのですが。いくつか実験の様子をお見せしましょう。実現可能性を検討している段階です。弾性のある表面に位置エネルギーを蓄えて移動したり、あるいは弾性コードを使って前後に動きます。こちらはChIMERAで、ペンシルバニア大の人たちと協力して作っている、化学物質に反応するアメーバロボットです。あるところにあることをすると、魔法のように動き出します。変な生き物みたいですね。

 

RAPHaEL

お次は新しいロボットのRAPHaELです。「弾性靱帯を持つ空気式ロボットハンド」(Robotic Air Powered Hand with Elastic Ligaments
)です。商用で非常に良いロボティクスハンドはたくさんありますが、それらの問題は値段が高すぎるということです。何万ドルもします。だから義肢という用途で使うのはあまり現実的ではありません。私たちはこの問題に別な方向から取り組みたいと思いました。電気モーターや電気化学的アクチュエーターを使うのではなく、圧搾空気を使っています。関節のための新しいアクチュエーターを開発しました。柔軟にできていて、空気圧を変えるだけで力加減を簡単に変えられます。ジュースの空き缶を潰すことができますが。生卵や電球のような壊れやすいものを掴むこともできます。一番いいのは、最初のプロトタイプ作成に200ドルしか かからなかったことです。

 

HyDRAS

次はヘビ型ロボットのシリーズで、HyDRASという名前です。「超高自由度ヘビ型連節ロボット」(Hyper Degrees-of-freedom Robotic Articulated Serpentine)です。このような地形をよじ登ることができます。こちらはHyDRASの腕です。12の自由度のあるロボットアームです。いかしているのはユーザインタフェースの部分です。あのケーブルは光ファイバーです。この学生はたぶん初めて使うのですが、関節を様々に動かすことができます。たとえばイラクなんかの交戦地帯では道端に爆弾があります。現在はリモコン式の武装車両を送り込んでいますが、すごく時間がかかり、複雑な腕を操作できるようオペレータを訓練するのも高く付きます。このロボットなら直感的に操作できます。この学生も恐らく初めて使っているのですが、モノを拾い上げて操作するとても複雑なタスクをうまくこなしています。このようにとても直感的なんです。

 

DARwIn

次のロボットは現在の我々のスターです。このDARwInには実際ファンクラブがあります。「ダイナミック人型知的ロボット」(Dynamic Anthropomorphic Robot With Intelligence)です。私たちはヒューマノイド、つまり人型の歩くロボットにとても関心があります。それで小型のものを作ってみることにしました。2004年当時にはとても革新的なことで、実現可能性を探る研究でした。どんな種類のモーターを使うべきか? そもそも可能なのか? どのような制御が必要になるか? これにはまだセンサーがついていません。開ループ制御です。皆さんはきっとご存じですね。センサーなしでバランスを崩したら… (笑)

この成功をベースとして、次の年には運動学に基づいてちゃんとした機械設計を行い、2005年にDARwIn I が誕生しました。立ち上がり、歩きます。しかしまだコードが繋がっています。外部の電源と外部との通信にまだ頼っていました。

2006年に本当に面白いものになりました。知性を持たせたのです。必要な計算能力を与えました。1.5GHzのペンティアム、2つのFireWireカメラ、8つのジャイロ、加速度計、足には4つのトルクセンサー、リチウム電池。DARwIn II は完全に自律的です。遠隔操作はしていません。ケーブルもついていません。周りを見回し、ボールを探し、周りを見回し、ボールを探し、自律的な人工知能によって、サッカーをプレーします。見てみましょう。この時はまさに私たちの最初の試行でした。ゴーーール!!

RoboCup

RoboCupという大会があります。ご存じの方がどれくらいいるかわかりませんが、国際的な自律ロボットによるサッカー競技会です。RoboCupの目標は、2050年までに等身大の自律ヒューマノイド型ロボットで人間のワールドカップ優勝チームと試合をして勝つことです。それが真の目標です。野心的な目標ですが、私たちはやれると信じています。

2008年は中国で行われました。この競技会にアメリカから参加したのは、私たちが最初でした。今年2009年はオーストラリアで行われました。3対3で全く自律的に試合を行います。そら入った! ロボット同士でチームプレーを競うのです。とても見応えのある、エキサイティングな競技イベントの形を取った研究イベントです。これは美しいルイヴィトンカップのトロフィーです。最高のヒューマノイドに与えられる賞です。来年には是非、このトロフィーを初めてアメリカに持ち帰るチームになりたいと思っています。(拍手)

DARwIn IV

DARwInは他にもたくさんの才能があります。去年はホリデーコンサートでロアノーク交響楽団の指揮をしました。これは次世代のロボットDARwIn IV です。より賢く、より速く、より強くなっています。その能力を披露しようとしています。「俺はマッチョだ、俺は強いんだ」。ジャッキー・チェンみたいなカンフーアクションだってできます。(笑) そして歩き去ります。これがDARwIn IV です。ロビーでご覧いただけます。これをアメリカ初の走れるロボットにしたいと思っていますので、ご期待ください。

創造の秘密

私たちのエキサイティングなロボットの動作をご覧頂きました。では私たちの成功の秘密は何でしょう? どうやって考え出しているのか? どうやってアイデアを発展させているのか? 私たちは都市域を完全自動走行する自動車を作り、DARPAアーバンチャレンジで50万ドルの賞金を獲得しました。私たちはまた、視覚障害者が運転できる世界最初の車も作りました。これは視覚障害ドライバーチャレンジと呼んでいます。まだまだお話ししたいエキサイティングなロボティクスプロジェクトがたくさんあります。これは私たちが2007年秋にロボティクス関係のコンペで受賞したものです。

インスピレーション

秘密は5つあります。まずどこからインスピレーションを得るか、イマジネーションの閃きをどうやって得ているかです。これは本当のことで、私自身の話です。夜眠るとき、明け方の3時か4時頃ですが、横になって目を閉じると、線や円やいろいろな形が浮遊して、組み合わさり、ある種のメカを形作ります。そうすると私は、「ああ、これはいいな」と思い、ベッドの脇に置いてあるノートと特別なLEDライト付きペンを取り出します。明かりを付けて妻を起こしたくはないので。

思いついたことをすべて書き、絵を描いて、それから眠りにつきます。毎朝一番にやるのは、一杯のコーヒーよりも、歯磨きよりも先にするのは、そのノートを開いて見ることです。多くの場合何も書かれていません。時々何か書かれていますが、大抵、自分でも何が書いてあるのかわかりません。朝の4時に寝ぼけて書いたのですから無理もありません。解読する必要があります。でも時々そこにすごいアイデアが書かれていることがあります。「見つけた!」という瞬間です。すぐに書斎に走り、コンピュータの前に座ってアイデアを打ち込み、スケッチを描き、そうやってアイデアのデータベースに保存します。そして公募があると、要件に合う可能性のあるアイデアをその中から探します。ピッタリのものがあれば、研究企画書を書いて、研究資金を獲得します。私たちの研究プログラムはそうやって始まります。

ブレインストーミング

しかしイマジネーションの閃きだけでは十分ではありのません。そのようなアイデアをどうやって発展させるのか? 私たちのラボRoMeLaでは素晴らしいブレインストーミングセッションをやっています。みんな集まって、課題や、社会的問題について議論し、話し合います。始める前にルールを確認します。そのルールとは、「誰のアイデアも批判しない、どんな意見も批判しないこと」です。これはとても重要で、学生は、自分の意見や考えを他の人がどう思うか不安になったり、怖れたりするものだからです。

このルールを徹底するだけで、学生たちは驚くほど自由にアイデアを出せるようになります。彼らはすごいクールでクレージーな素晴らしいアイデアを持っています。部屋全体に創造的なエネルギーが充満しているかのようです。そうやってアイデアを発展させるのです。

ツール

もう時間がありませんが、もう1つお話ししておきたいのは。アイデアを閃めかせ展開させるだけでは十分でないということです。TEDで素晴らしい講演がありました。ケン・ロビンソン卿です。彼は教育や学校がいかにクリエイティビティを殺しているかという話をしました。これには実際2つの面があります。巧妙なアイデアとクリエイティビティと工学的直感だけでは、できることが限られています。ただの工作以上のことをやろうと思ったら、趣味のロボットを越え、しっかりした研究に基づいて本当に大きなロボティクスの課題に取り組もうと思ったら、他にも必要になるものがあります。そこが学校の生きてくる部分です。

悪者たちと戦うバットマンは、ユーティリティーベルトや引っ掛けフックやさまざまな小道具を持っています。私たちロボティクス研究者、エンジニア、サイエンティストにとって、そのツールに当たるのが大学の授業や教程なのです。数学、微分方程式、線形代数、科学、物理、最近では化学や生物学まで活用しています。これらは私たちが必要とするツールなのです。ツールがたくさんあるほど、バットマンは悪者相手に効果的に戦うことができます。私たちには大きな問題に取り組むための足がかりが増えます。教育というのはとても重要なのです。

熱心に働き、楽しむこと

またそれだけでなく、本当に熱心に働く必要があります。私は学生にいつも言っています。「賢く働き、そして熱心に働くこと」。後ろに出ている写真は午前3時のラボの様子です。私たちのラボに午前3時とか4時に来ていただけば、きっと学生たちがまだ働いているでしょう。私がしろと言ったからではありません。みんなすごく楽しいからやっているんです。これが最後の点に繋がります。「楽しみを忘れないこと」。これこそ私たちの成功の一番の秘密です。みんな本当に楽しんでやっています。最高の生産性は楽しんでいるときにこそ得られるのです。それが私たちのしていることです。以上です。どうもありがとうございました。(拍手)。

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいた岡田祐輝氏に感謝します。]

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オリジナル:  Dennis Hong: My seven species of robot