仕事する意義 (TED Talks)

Dan Ariely / 青木靖 訳
2012年11月

今朝の講演を見ていて、自分は何ができるだろうと思いました。ポールはシャツを脱ぎましたが私にはできません。でもあれだったら・・・やめときましょう。今日は仕事とモチベーションの話をします。仕事をする人を私たちは迷路の中のネズミのように見ています。みんな仕事が嫌いで、本当はビーチでモヒートでも飲んでいたいところだけど、お金のために仕事をしていて、それもビーチでモヒートを飲めるようにするためなのだと。でも本当にそうなのか? 山登りみたいなものもあります。山登りというのは大変なものです。登山について書かれた本を読むと、そこには高揚感や喜びが満ちているのでしょうか? いいえ、そこに描かれているのは惨めさや痛みや凍傷です。そんな体験をして帰ってきたら、「とんだ間違いだった。もう2度とやらないぞ」と思いそうなものですよね。ところがまた山に行くんです。傷が治り体力が回復したらすぐ登りに行きます。これは疑問を投げかけます。人は何に喜びを見出すのか? 何が動機付けになるのか? 人は何を気にかけるのか?

私が仕事の意義と動機付けについて考えはじめたのは、以前の学生が会いに来た時でした。デビッドという名前でした——今でもデビッドですが——彼は会いにやってきて、こんな話をしました。彼は投資銀行に勤めていて、M&AのためのPowerPointを準備していました。何週間もそれに取り組み、夜遅くまで熱心に働きました。そしてそのM&Aが行われる前日にPowerPointを上司にメールすると、上司からすぐに返事が来ました。「ご苦労さん。契約はキャンセルになったよ」と。彼はこの仕事をものすごく張り切ってやっていました。やりがいを持って仕事をし、上司もねぎらってくれました。でも誰もその結果を目にしないことにがっかりしました。次のプロジェクトをやることになっても、前のようにはやる気が出ませんでした。これは興味深いと思います。形の上では万事順調で、上司は認めてくれ、昇給もし、何も問題ないのですが、何かが欠けていて、それはやっていることの意味のようなものです。

それで簡単な実験でそれを確かめられないかと思い、レゴを使うことにしました。お金を払ってご覧のようなバイオニクルを組み立ててもらいます。そして払うお金を減らしていくんです。こんな感じです。「バイオニクルを1つ組み立ててもらえませんか? 3ドル払いますから」。相手がやると言って組み立てたら「もう1つ作ってもらえませんか? 2.7ドルで?」 それができたら、次は2.4ドルでやるか聞きます。問題はやめるのがどの時点かということです。私たちは完成したバイオニクルは取っておくと言い、机の下でバラして次の被験者に渡します。(笑) これが1番目の条件です。被験者は次から次へと組み立てていきます。

2番目の条件は「シーシュポスの条件」です。シーシュポスの話がどんなだったかというと、彼は神から罰を受け、岩を山頂に押し上げています。でも頂上に着くやいなや岩は転がり落ち、またやり直さなければなりません。どんなにやる気をそがれるか分かるでしょう。毎回別の山に押し上げるのならどれほどマシかと思います。何度も同じ山ではやる気になりません。これが「シーシュポスの条件」でやろうとしたことです。バイオニクルを渡し、完成したら「もう1つ作ってもらえますか?」と聞き、やると言ったら次のを渡しますが、彼らが2番目のに取り組んでいる間に最初のやつを彼らの目の前でバラします。そして3つ目を作ると言ったら、最初のを渡すんです。(笑) 壊しては組立て、組み立てては壊すのを際限なく繰り返します。

どうなるでしょう? まず分かるのは、人は「意義ある条件」の時により多くのバイオニクルを作るということです。指摘しておきたいのは、「意義ある条件」の意義は実のところ大した意義ではなく、ごく些細なものだということです。さっき作ったものを目の前で壊すことで違いが出るというのはとても重要です。それからこの効果がどれほど大きいか他の人たちに予想してもらいました。「この実験に参加したら、それぞれの条件でどれだけバイオニクルを作ると思いますか?」と聞きます。みんな「意義ある条件」の方がモチベーションが高いはずだとは理解していても、それがどれほど大きいかは分かっていません。違いは1つくらいだろうと考えます。でも実際はもっと大きいんです。最後にバイオニクルが好きな度合いとバイオニクルを作る数の相関を調べました。当然のこととして、バイオニクルが好きな人ならわずかなお金でも作ると思うでしょう。確かにそのように観察されました。「意義ある条件」ではきれいな相関が見られました。バイオニクルが好きな人はたくさん作り、あまり好きでない人は少ししか作りません。「シーシュポスの条件」ではどうでしょう?「シーシュポスの条件」では相関が見られませんでした。目の前で仕事の成果を壊すことで仕事の喜びを奪うことができるのです。(笑)

この研究を終えた後、私は講演しにシアトルのとある大きなソフト会社に行きました。(笑) 大きな部屋に200人のエンジニアが集まっていました。彼らはその会社の次の発展を支えるはずのプロジェクトに2年間取り組んでいましたが、私が行く1週間前にCEOがそのプロジェクトを打ち切りました。彼らほど意気消沈したグループというのは見たことがありませんでした。「最近会社に来るのが遅くなったという人?」と聞くとみんな手を挙げました。「早く帰るようになった人は?」と聞くとみんな手を挙げました。「必要経費を余計に請求するようになった人は?」と聞くと誰も手を挙げませんでしたが、その晩夕食をごちそうになりました。(笑) 創意で何ができるか示してくれたわけです。

それからあのレゴの実験のように感じていることを話してくれました。意義を感じられるようにすることもなく、自分の目の前でやってきたことを打ち切られたように感じていました。この会社のCEOは仕事の意義を理解していないと思います。彼は単に「これまでずっとこっちの方に進むよう言っていたが、やっぱりあっちの方にすることにしたのでそうしてもらいたい」と言ったんです。これは人が働くやり方ではありません。それで尋ねました。「CEOはどうすれば良かったのでしょう? プロジェクトは打ち切る必要があったにしても、どうすれば皆さんのやる気を維持できたと思いますか?」 彼らは様々なアイデアを出しました。「全社員の前でプレゼンをさせてもらえたら」。「いくつか試作を作って開発していた技術の一部でも他のプロジェクトで使えないか試させてくれていたら」。問題はそのようなことをやろうと思ったら労力や注意や時間を必要とすることです。人が意義を気にかけると思わなければやらないでしょう。でも意義がどれほど重要か理解していたらきっとやるでしょう。

次の実験でこの点をさらに押し進めました。紙の中からある文字を探すように頼みます。今回も1枚目はたくさんお金をもらえますが、2枚目以降減っていきます。ある人達は「意義のある条件」でやります。紙に名前を書いて提出してもらい、実験者が目を通して「なるほど」と言って脇に重ねておきます。2番目の条件では実験者は紙を見ません。名前の記入もなしで、実験者はただ受け取って机に置きます。3番目の条件では、実験者は紙を受け取るとそのままシュレッダーにかけます。(笑) 指摘しておきたいのは、3番目の条件では紙はすぐ細切れにされ誰も見ないので、ズルができることです。わずかなお金でも手間をかけずに沢山やることも可能です。結果はどうなったでしょう?「評価される条件」つまりちゃんと見る場合には、1枚15セントになるまで働きます。とてもよく働きます。「シュレッダー条件」ではずっと早くやめてしまいます。「評価される条件」での方がずっと楽しんで仕事するのです。「無視される条件」はどうでしょう? 中間のどの辺になるのか?「評価される条件」と「シュレッダー条件」のどちらに近くなるのか? すごく「シュレッダー条件」に近くなります。だから良い報せは、人を動機づけたければ、ただ彼らのしたことを見て「君のしたことはちゃんと見ましたから」と言えば十分なのです。褒め言葉なしでも、ただ認めさえすればいいんです。一方でやる気をくじいてやりたいと思ったらすごく簡単です。シュレッダーはやる気をくじく最適の方法ですが、ただ無視するのでもほとんど同じ効果が得られます。これは何が人のやる気をなくさせるかという話で、いろいろありますが、避ける必要があります。

ではやる気にさせるのは何か? 方程式のもう一方の項は何か? これに関するヒントはIKEAが教えてくれました。皆さんはどうか分かりませんが、私はIKEAの家具を持っています。思い返してみると、説明書に従って家具を組み立てるのに随分時間がかかりました。説明が不明瞭で、間違って取り付けてやり直さなければなりませんでした。でももう1つ気付くのは、IKEAの家具を気に入っているということです。ここで鍵になるのは、ただ店で買ったのではないということだと思います。何かに愛情と労力と注意とそれに苛立ちまで投じる時何が起きるのか? より愛着を持つようになるのでしょうか?

古いけど素敵な話があります。ケーキの素です。アメリカでケーキの素が売り出された時、主婦に受け入れられませんでした。マフィンやパン用のものは売れていましたが、ケーキの素は売れませんでした。彼らは不思議がりました。味は申し分ありません。それが欠いていたのは仕事の感覚だと分かりました。ケーキの素を水と混ぜてオーブンに入れれば出来上がり、というのでは自慢できません。(笑) 「ケーキおいしいよ。ありがとう」と言ってもらえても、実際何もしていません。それでメーカーはどうしたか? 卵と牛乳を除いたんです。(笑) ケーキの素に卵を割ってミルクを加えます。これで今や「私のケーキ」になります。(笑いと拍手)

このアイデアはどうすれば確認できるでしょう? 折り紙を作るよう頼むことにしました。折り方の説明書を渡します。みんな折り紙のやり方を知らない人たちでひどい出来になりますが、それは構いません。それから折り紙は返してもらうが、持ち帰れるならいくら出すかと聞きます。そうやってその折り紙にどれだけ価値を認めているか計ろうというわけです。彼らは自分の折った折り紙が好きでした。(笑) それから他の人に同じ折り紙をいくらで買うか聞きました。(笑) 彼らの方はあまり気に入らなかったようです。折った本人は素晴らしいものだと思っていましたが、他の人は違いました。ここで疑問は、折った人たちは気に入るのは自分だけと思っていたのかということです。「ああ私の折り紙の素敵なこと! みんなはいいと思わないだろうけど、私にとっては素晴らしい」と思ったのでしょうか? 違います。彼らは他の人も気に入るはずだと思っていたんです。(笑)

次は「IKEA効果」です。説明書はどうでしょう? それが複雑で難しかったとしたら? それで、ある人たちには易しい説明書を、他の人たちには上の凡例の隠して難しくした説明書を渡しました。難しい方だと本当に頭を悩ませることになります。それでどうなったでしょう? まず基本的な結果として、折った本人は他の人より折り紙を気に入ります。説明書が難しい場合にはどうなるのでしょう? 作った本人はより愛着を持ち、他の人はより嫌うようになります。なぜなら、客観的には出来が悪くなるからです。だから他の人たちはくしゃくしゃの紙の塊を客観的に見て好きにはなりませんが、作った本人は一層素晴らしいと思うのです。手間は愛着に繋がるというだけでなく、手間をかけるほど愛着は深まるのです。

子どもも同じように考えることができます。自分に子どもがいてこう聞かれたら? 「いくらなら子どもを譲ってもらえますか?」(笑) 子どもについての思い出や思いやりや体験があり、多くの人は「膨大なお金!」と言うことでしょう。(笑) 子どもがなかったらどうでしょう? 公園に行ったら、そこにいた子を自分の子のよう感じて一緒にしばらく遊び、お別れを言う段になってその子の親が「よかったらお譲りしますよ」と言ったとしたら? (笑) 「いくらなら買いますか?」 多くの人はそんなに出そうと思わないでしょう。(笑) 私が思うに、子どもというのはIKEA効果の典型例です。(笑いと拍手) 複雑で難しく、いい説明書もありません。(笑) 多くの労力がかかっています。私たちの深い愛情は彼ら自身のためというよりは、自分の投資によるものなのです。ちなみに写真の子は私の素晴らしい子どもたちです。私たちは自分の子どもを素晴らしいと思うだけでなく、他の人が自分と同じようには見ないことに気付きません。

これらすべてから何が分かるでしょう? 労働に関しては相対する2つの理論があります。アダム・スミスとカール・マルクスです。アダム・スミスは労働市場における効率について、ピン工場を例に見事に説明しています。ピンを作る12の工程すべてを1人でやるとすごく非効率ですが、仕事を12に分割してそれぞれ別な人が受け持てば、全体としての効率は劇的に上がります。これこそ生産性に関して産業革命がもたらしたものです。一方でカール・マルクスはこれを労働の疎外だと言い、仕事にどれだけ愛着を持つかに目を向けました。2人の考えは真っ向から対しています。どちらがより重要なのでしょう? 効率か、それとも仕事への愛着か? 大きな仕事を分割すると効率は上がりますが、その代わりにそれぞれの作業をする人の作業への愛着は減ります。どちらがより重要なのでしょう? 工業化の時代にはマルクスよりスミスの方が正しかったと思います。とても大きな効率の向上が得られます。しかし現在のような知識労働の時代にはどうでしょう? 自分の仕事をよりコントロールできるならどうか? シャワーを浴びている時や友達と話している時にも仕事のことを考えてほしいなら、本当に入れ込んで全力でやってほしいならどうでしょう? 今や状況は変わっていると思います。知識社会においてはマルクスの考えの方が重要になるのです。仕事に意味を持たせるために多少効率を犠牲にするのも時に理にかなうのです。私たちは仕事についてシンプルなモデルを持っていて、人はお金のために働くと思っています。そしてこの考えに従ってお金を出しています。しかし考えるべきことが2つあります。第一にお金以外にも人が気にかけることは沢山あるということです。意義、創造、挑戦、所有感、アイデンティティ、プライド、その他。良い報せは、そういったものをすべて与える職場を作れたならみんな得をするということです。職場にとっても個々人にとっても良くなります。人間の素晴らしいところは、様々なことで動機づけられるということです。問われるのは、職場や社会としてそういった動機づけをどう生かすかということです。どうもありがとうございました。(拍手)

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オリジナル:  Meaning in Labour - Dan Ariely at TEDxAmsterdam