ボットはいかにして私から価格付けの力を奪ったのか

Carlos Bueno / 青木靖 訳
2012年2月25日


Lauren Ipsum——コンピュータサイエンスやその他のありそうにないもののお話

私に降りかかった問題について話す前に、“Computer Game Bot Turing Test”(コンピュータゲームボットのチューリングテスト)という別な本の話をしよう。ランダムなWikipediaの記事を元にマルコフチェーンを使って「書かれ」ネット上で法外な値段で売られている10万冊以上ある「本」の中の1冊だ。出しているのはBetascriptという、その手の出版社として悪名高い会社だ。

なんかすごいことになっている。Amazonマーケットプレイスには古本を持ったフリをしたボットが山ほどいて、誰もいまだ目にしたことのないような価格戦争を繰り広げているのだ。このチューリングテストの本では輝く未来的なナンセンスを目にすることができる。人間のフリをしたプログラムが人間のフリをしたプログラムに関する本を売り出していて、人間のフリをした別なプログラムが自分はその古本を持っているというフリをしているのだが、その本は実際読まれたことも出版されたこともなければ、書かれたことすらないのだ。

インターネットは何でもありだ。

これは単におかしな話というに過ぎないが、問題はそういうボットが実在する本の値段にも影響を与えているらしいということだ。去年私は“Lauren Ipsum”という子どものためのコンピュータサイエンスの本を書いた。ペーパーバック版の値段を$14.95にして、なかなかの売れ行きだった。それから先週になってマーケットプレイスのボットがその本を$55.63で売り始めたのに気づいた。「マヌケなボットだな」と思った。「バグってるに違いない」。元々オンデマンド印刷の本なのに、どっから新品を仕入れるつもりなんだ?

それから気づいたのは、彼らはただ注文されてからAmazonで買えばよいのであって、連中から買うほど愚かな人がいたら、そのまま彼らの儲けになるということだ。リアルに遅延評価をするわけだ。なんと狡猾なボット!

それから別なボットが現れ、さらにまた別なイギリス発のボットが加わった。そのボットたちは互いに価格競争をやり始め、速やかに価格を正価よりも安い値段まで下げ、「送料および手数料」で穴埋めするようになった。私は少しばかり気掛かりになり始めた。

そのオチが何かというと、Amazon自身が価格競争するボットに他ならないということだ。マーケットプレイスのボットによる競争が行くところまで行くと、Amazonは私の本をセール品にして28%引きで売り始めたのだ! それが私の取り分にどう響くのかぜひとも知りたいところだ。(追記 どうやら響かないらしい。ディスカウント分は全部Amazonがかぶるのだ。これは嬉しい驚きだった。)

このアルゴリズムの化かし合いに対する私の反応は一種救いがたい当惑だった。コンピュータの理解は21世紀において自分の生活をコントロールするための第一歩であるというのが私の本の趣旨なのだが、今や何を信じていいのかわからなくなった。

もしかするとLauren Ipsumの最適価格は本当に$10.76なのであって、Amazonの価格付けアルゴリズムを書いているタトゥーを入れたヒップなプログラマを信頼して私は心安らかになるべきなのかもしれない。どの道私には選択肢がないのだから。価格は今や複数のプログラムの複雑なやり取りで決められており、それらの当事者のほとんどは売る本を実際持ってすらいないのだ。

しかしあの古いギャンブラーの諺を思わずにはいられない。「カモになっているのが誰かわからないなら、それは自分だということだ」

 

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オリジナル: How Bots Seized Control of My Pricing Strategy