道路を走れる飛行機をつくる (TEDTalks)

Anna Mracek Dietrich / 青木靖 訳
2011年7月

空飛ぶ自動車って何でしょう? 100年もの間、私たちはこれを作りたいと思い続けてきました。そして技術的にある程度の成果を残した歴史的な試みも中にはありました。それでも私たちはまだ、朝ここへ来る途中で、馴染み深い2次元の世界とその上にある3次元の空を本当に切れ目なく行き来できるようなものを目にする段階には至っていません。皆さんはどうか知りませんが、私は空を飛ぶのが本当に好きなんです。

これまで行われてきた試みを見ていて気づいたことがあります。確かに今日ではかつて利用できなかったたくさんの技術革新があります。最新の複合材料、優れた燃費と出力荷重比を持つ航空エンジン、飛行に必要な情報を電子的に直接表示するグラスコックピット。それでも根本的に違う観点で問題にアプローチしない限りは、これまでの100年間に他の人々がしてきた試みと同じ結果に終わることでしょう。そうなりたくはありません。そこで空飛ぶ車を作ろうとするのではなく、道路を走れる飛行機を作ることにしたのです。

その結果生まれたのが「テラフュージア・トランジション」です。2人乗り単発の飛行機で、通常の小型機のように飛びます。最寄りの飛行場から離陸し、着陸したら、羽を畳んで家までドライブし、ガレージの中に止めるのです。そして成功しました。2年間の革新的なデザインと製造プロセスを経て、2008年に試作機をお披露目しました。

既存のものと大きく異なる試みの常として、この飛行機のテストはすぐにはうまくいきませんでした。でもそれは良いことだったのです。何か壊れて戻ってきたときには、最初からテスト項目がすべてOKだった場合よりもずっと多くのことを学べるのです。もちろん私たちは自分たちの作った飛行機が離陸し空を飛ぶところを見たいと切に願っていました。そしてすごく冷えたある朝に、ニューヨーク州北部で行った3度目の高速稼働テストで、初めて空を飛んだのです。後ろの写真は、追尾した飛行機の副操縦士が撮った、初飛行の際の離陸直後のスナップ写真です。誰もが不可能と思っていたことを達成するということの象徴としてこの写真が取り上げられているのを、私たちはとても嬉しく思っています。

その後の飛行テストは可能な限り最小限でリスクの小さなものにしましたが、それでもこの計画を次のステップへと進め、航空機設計の規制当局や私たちのマーケットとなる航空機ユーザのコミュニティから信頼を勝ち取るために必要なことは達成することができました。連邦航空局は1年ほど前、私たちの飛行機トランジションに対してライトスポーツエアクラフトの基準より50キロ超過することを許容してくれました。些細なことに聞こえるかもしれませんが、大きな意味があります。トランジションをライトスポーツエアクラフトとして提供できれば、私たちは認可を取りやすくなりますし、またユーザにとっても飛ばすのがずっと簡単になるからです。スポーツパイロットの免許は最低20時間の訓練飛行で取得できます。そして50キロというのは、道路を走るというもう一方の側面を実現するためにとても重要だったのです。

道路を走るためには、設計や規制のハードルがあり、実際のところ空を飛ばすよりも難しいのです。いつも地上で過ごしている私たちには直感に反することかもしれませんが、道路を走る上では道のくぼみやでこぼこ道、歩行者や他の車、それに事細かな連邦自動車安全基準など、取り組まなければならないものが沢山あります。でも必要は発明の母とはよく言ったものです。この飛行機で私たちが誇りにしている設計上の成果の多くは、地上走行における個々の問題を解決する中で生まれたものです。航空エンジンを交通渋滞でも使えるようにする無段変速機や液冷システム、飛行中はプロペラを地上ではタイヤを駆動させる特製のギアボックス、後でお見せする翼の折り畳み機構、衝突安全性のための機能もあります。乗っている人を保護するためのカーボンファイバー製の安全ケージは、通常の車の鋼鉄製シャーシの10%以下の重さしかありません。それ自体とても良いものですが十分ではありませんでした。自動車の規制は飛行機を念頭に書かれてはいないのです。それで道路交通安全局から少しばかり助けてもらう必要がありました。最近のニュースでご覧かもしれませんが、先月、安全局は特例としていくつかの項目を緩和し、SUVや軽トラと同じ分類でのトランジションの販売を許可してくれました。多目的乗用車は今や文字通り「オフロードでの使用に適すようデザイン」されたものになったわけです。(笑)

実際動いているところをご覧に入れましょう。羽をボディの横に折り畳んでいる状態です。プロペラではなくタイヤを動かして走っています。高さ7フィート以下なので、通常のガレージに格納できます。翼の自動折り畳み機構です。実速度で再生しています。コクピットでボタンを押すだけで翼が展開します。すっかり開いたら、再びコクピットからロック機構を操作します。すると飛行中の過重を支えられるようになります。オープンカーの屋根みたいなものです。これを見た隣人の反応が気になりますよね。

(初飛行の映像)
「開発中の飛行機で危険の75%は初飛行のときなんだよ」
「本当に飛んで。やった!」
「勇ましいね」
「感想はどう?」
「ここからは素晴らしいの一言だね」

お聞きの通り、この小さな飛躍に私たちはすごく興奮していました。初飛行の後、テストパイロットが最高のフィードバックをしてくれました。「驚くほど驚きがなかったね」と言うのです。さらに続けて、テストパイロットを30年してきてこれほど着陸が楽な飛行機はなかったと言いました。

一見革新的なものを作っているように見えるでしょうが、私たちは出来る限り新しいことを少なくしようと努めていました。普通の航空機の先進技術や自動車レースから多くの技術を借用しました。本当に独自なことをしなければならないときには、段階的な設計・テスト・再設計のサイクルを小さなステップで行い、リスクを減らしました。テラフュージア社を始めて6年になりますが、そういう小ステップをたくさん踏んできました。MITの地下室で作業している3人の大学院生というところから、ボストン郊外の製造施設で作業する20数名の会社というところまで来ました。数々の困難な問題がありました。ライトスポーツエアクラフトの重量制限とか、規制当局者に礼儀正しく対応するとか・・・何と言われたと思います?「でも翼を広げたら料金所を通れないじゃないか」ですって。(笑) 先に述べたような道路上での耐久性や工学的な問題もあります。今私たちが取り組んでいる2機の製造試作のテストと製作が順調にいけば、すでに100人ほどいる予約者にこの飛行機を来年末頃から届け始められるでしょう。

トランジションの値段は、他の小型飛行機と同じくらいになります。皆さんにシボレーから買い換えるようせっつく気はありませんが、次に飛行機を買うとしたらきっとこれになると思います。理由はこうです。世界の商用航空路線のほとんどは比較的少数の巨大ハブ空港に集中しており、利用されずにいるリソースがたくさんあります。日常的な利用数が許容量よりずっと少ない飛行場が何千とあります。アメリカのどこに住んでいようと、平均して30〜50キロ以内に飛行場があります。トランジションはこのリソースを利用する安全で便利で楽しい方法を提供します。

まだパイロットでない皆さんのために言うと、私たちが望むほど多く飛べない理由は主に4つあります。第一に天候、それにコスト、トータルでの所要時間、目的地での移動手段です。天気が悪くなったときには、ただ着陸して羽を畳み、家までドライブして帰れます。多少雨が降ってもワイパーがあります。お金を出して格納庫に預ける代わりに自宅のガレージに止められます。私たちが使っている自動車用無鉛ガソリンは航空用ガソリンと比べて安く、環境にも優しいものです。トータルでの所要時間も短縮できます。鞄を運んだり、駐車する場所を探したり、靴を脱いだり、飛行機を格納庫から引っ張り出す必要はなく、その時間を目的地へ向かうために使えるからです。目的地での移動手段という問題も解決します。羽を畳んでそのまま走り出せばいいのですから。

トランジションは私たちの地平を広げると同時に、世界を小さくアクセスしやすい場所にします。それにまた飛ぶことは素晴らしい冒険であり続けるでしょう。このようなものがどんな風に使えるか、それによってどれほど自分の世界がアクセスしやすく、移動が快適で楽しいものになることか、想像してみて欲しいと思います。

お話しする機会をいただき、ありがとうございました。

(拍手)

 

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたTakafusa Kitazume氏に感謝します。]

home  rss  

オリジナル: Anna Mracek Dietrich: A plane you can drive