要求は怪物みたいなもの

Angry Aussie / 青木靖 訳
2007年8月1日 水曜
 

8歳になる娘と話をすると、自分が何でもわかっているなどとは思わなくなる。

質問が上手なあの子は、私が答えられなかったり、少なくとも真剣に考えなきゃならないようなことを聞いてくる。真剣に考えるというのは重要で、いい加減な答えをしようものならすぐ突っ込まれてしまう。彼女が5歳で母親に日曜学校へ送り迎えしてもらっていた頃のある日、何の前触れもなくこんなことを聞いたことがあ った。

「ねえ、神様が私たちを作って、そして私たちを好きでいるなら、どうして神様は私たちが病気になるのをほうっておくの?」

あなたならどう答えるだろう? 私が最初に思いついたのは「ママに聞いてごらん」ということだった。しかしこれはその場しのぎにしかならない。最終的には「死なないくらいの病気かかると、かえって体が丈夫になるんだよ」という冴えない答でどうにか逃げおおせた。

あの子が私の仕事について聞く時には、私は本当のことを答え、ちゃんと意味がわかるように説明してやる。これはマネジメントタイプの人間にITのコンセプトを説明するためのいい練習になる。私が相手しなきゃならないマネージャの多くよりも 娘の方が賢いが、もしあの子に明確に説明することができたなら、マネージャにはもう少し優しい言葉で言い直してやるだけでいい。

最近コンピュータで仕事する人はみんなプログラマなのかと聞かれた。

「違うよ」と私は答えた。「私はプログラマじゃなくて、ビジネスアナリストだ」

「コンピュータのプログラムの仕方は知ってる?」

「いや、実のところ知らない」

「でも、コンピュータがお仕事できるようにするのはプログラマなのよね?」

「基本的には、そうだね」

「じゃあどうしてプログラマにパパが必要なの?」

「彼らにもよくそう言われる」

「パパ、私まじめに聞いてるの。パパは何をしているの?」

「ビジネス要件を文書にするのが私の仕事だよ。プログラマたちと一緒に働きながら、コンピュータがちゃんと間違いなく動くようにしているんだ」

「監督しているってこと?」

「そのつもりだよ。まず、お客に何がほしいのか聞いて、彼らが求めているものが何なのかをまとめるんだ。それがビジネス要件と呼んでいる理由だ」

「その人たちは自分が何が欲しいのかもわからないの?」

「必ずしもわかってないね」

「そんなのおかしいわ。みんな自分の欲しいものくらいわかるものだわ」

「そうとも限らないよ。それに自分の欲しいものを他の人にうまく説明できないということもある。たとえば私がお前に車を買ってほしいと言ったら、どんな車を買ってくれるかい?」

「えーと、スマートかな。かわいいから」

「ちっちゃすぎるよ」

「じゃあ4WDにするわ」

「大きすぎるし、遅いよ。もっと速いのがいい」

「ポルシェにすればいいわ」

「そんなにお金はないよ」

「じゃあ、どんな車ならいいの?」

「やっと私の要求について聞いたね。私はフォルクスワーゲン・パサートがほしいんだ」

「いいわ、それ買ってあげる」

「何色のを買ってくれるつもり?」

「赤」

「赤はいやだな。黒がいい」

「ならどうしてそう言わなかったの?」

「聞かなかったじゃない」

「こんなこと一日中やってるの?」

「だいたいのところは、そうだね」

「いつも怒っているのも無理ないわ」

「いつも怒ってなんかないでしょ!」

この会話はすぐに明後日の方向に行ってしまったので、別なアプローチを試みることにした。この間の休日に家族でシュレック3を見に行ったのだが、そのためにシュレック1と2をDVDで見直すことになった。それでシュレック を使って要求を集めるということを説明してみた。

「私のしなければならないことはね——適切な質問をすることなんだ。プログラマはカーディーラーみたいなもので、ほしい車は何でも用意してくれる。こちらでしなければならないのは、その車に何ができなきゃいけないのかをはっきりさせることだ。普通は最初にまず大きな質問をして、だんだんと細かいことを聞き出していくことになる。
ちょうどシュレックに出てきたみたいにね。シュレックが怪物はタマネギみたいなものだと言ったのは、何層にもなっているからだ。要求も何層にもなっていて、中心にたどり着くまで一枚一枚剥いでいく必要がある。そうやってプログラマにどう伝えればいいのかがわかるんだ」

「じゃあパパが一緒に仕事している人たちはタマネギみたいなの?」

「そうだね」

「鼻につくってこと?」 8歳のユーモア感覚のすごいこと。

「それはちょっとキツイね」

「パパを泣かせるの?」

「ときには泣きたくなるね。いつも叫び出したくなるよ」

「じゃあ本当に怪物みたいなわけね? こわーい!」

そう、時に彼らはものすごく怖い。間違いなく彼らをベッドの下に見つけたくはない。

 

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